元拍手十月
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「うーん、まぁそうねぇ、ビックリ箱で喜ぶ歳でもないし、声をあげて驚くって機会は中々無いのかも……」
「おいおい、お前さんらの内からそんな年寄りじみた事言っててどーすんだ?俺はもう隠居か?」
「あら、そこは大人びたって言って欲しかったわ船長さん?」
水でも飲めば治るかもしれない、と何やら使命感を帯びたらしくやや暴走気味のフレイキーに引き摺られる様に入ったのはお姉さん然とした馴染みの売り子が微笑む喫茶店で、さらに喜ばしい事にもう一人知った顔まで客として、元海賊がカウンターに腰掛けていた訳なのだが。
「ヒック……やっぱり、止まらなック、…………うん」
「うぅ、ごめんね、ボク上手におどろかせられなくて、ご、ごめんねぇぇ……!」
残念ながらオレの横隔膜はしぶとく震え続けていた。
ペチュニアもラッセルも当然のように尽力してくれるのだが、どうにも上手くいかない。というかそろそろしゃっくりよりもフレイキーの自責具合が心配になってきたのだけれど。きゅう、とオレのパーカーにしがみつく小さなてを見下ろす。他に客が居ないとはいえ、テーブル席に陣取って居ながら片側のソファに並んで座るという暴挙の末の芸当である。
「まぁなんつーか、お前さんの妙に肝が据わってんのが裏目に出たなぁ」
「そ、ッ、なのかな……ペチュ、っく、フレイキーの、ヒック!」
「はいはい、フレイキーの涙拭くのね?ハンカチでも良いかしら」
不自然に分断され、殆ど原型を留めていないオレの要望に、しかしペチュニアは問い返すこともなく厨房の仕切りを越えてテーブルまでやって来てくれた。そして柔らかそうな布で濡れた頬をそっと拭う。
「……よくアレで分かるもんだな」
カウンター席から見下ろすラッセルはそう言うが全く以て同意見である。
というか、症状が酷くなって来てないか。これ以上フレイキーを泣かす訳にはいかないので言わないけれど。
「まぁ……ッく、そのうち止まると、ッ、思うんだけど」
「そりゃあ、そうだろーけどなぁ。──あ」
不意に漏れた呟きと共に、悩むように天を仰いでいた元海賊ががくんと頭を元に戻した。
同時に、何かに思い当たったのかにニヤリ、と笑う。
「そういや知ってるか?」
「うん?」
何事かと向き直れば何だかんだで愉快犯めいたところのある船乗りは、その鉤状の片手でまるで人差し指でも突きつけるかのようにオレを示して。
そして緩いからかい口調で続いたその文句は、まあラッセルとオレの間だけならば軽い冗談で済む類の話だったのだが。
「しゃっくりって、百回止まらなかったら……死ぬらしいぜ?」
悪戯っぽく厳かに、その言葉は意外と大きくホールに響いた。
勿論、ラッセルもオレも本気で言っているわけではない。あたり前だ。ラッセルはともかく当事者たるオレにとってはそんな事がありえないことなどわかりきっており……というかもしも本当ならばそろそろオレは死んでるんじゃないだろうか。百は意外と小さい数字だ。
当然、ペチュニアも動じずカウンターの向こうで優しげな苦笑を浮かべている。
しかし、ラッセルにとって予想外だったのは、
「ははっ、なんつってな!冗だ──」
「っ、やだぁ……ッ!!」
冗談を本気に取ってしまう人が少なからず存在するという事である。
例えば、この店内におけるフレイキーとか。
「ボク、ふぇっ、そんなのやだよ……!」
ああ、やらかした。
という顔をしたのはラッセルでもなくオレでもなく、何処までも気配りの出来る店員さんだった。仕事場に戻ろうとしていたペチュニアは取って返して、フレイキーの元へ向かう。
当の本人はえぐえぐと愚図りだしたまま、余計に強くオレの服を掴んだ。
しかし、こういっては何だがこの街で死ぬ事は然程非日常ではないのに、そこまで激昂する場面だっただろうか。
疑問に思って友人を見下ろせば、本日幾度目かの潤んだ瞳とぶつかった。
「だっ、だって、しんじゃうなんて……っ」
すると、まるで憎い仇敵について話すかのような悔しさの滲む声で、フレイキーは切なげに叫んだ。
「し、しゃっくりなんかで、イチがしゃっくりなんかで死んじゃうなんてやだよぉおっ!」
……どうしよう、それは確かにオレも嫌だ。
(はうぅ、死んじゃうっ!イチがしんじゃうよぉ……っ!!)
(え?、あ、……ヒック!、だっ、だいじょうぶ……っから……ひっく!)
(ちょっと、もう、フレイキーったら……平気よ?それくらいじゃ死なないわ。ほら、イチも無理して話さなくて良いから)
(…………悪い)
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