元拍手一月
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やって来たのは当然、遅れて合流する事になっていたフリッピーと、連れのフレイキー。
そしてイチは小さな親友の姿を見咎めた瞬間、フードのパーカーを捕まえていた鉤状の手から器用に逃げ出し、その背中に覆いかぶさるように抱きついた。
「やっぱりか!」「やると思ったぁー」
その現象に、既知二人の感歎はほぼ同時に。
取り残されたフリッピーは、一瞬身体をビクつかせた後戸惑った声を挙げた。
そして当事者はといえば、
「ふ、ぇ?あぁあう、い、イチ!?ぐあいわるいの!?」
「悪くない」
むぎうっと、普段からは想像もつかない方法のスキンシップにフレイキーは寧ろ青ざめて涙目だった。
しかも身長差は然程ないとはいえ、流石にイチの方が大きいので、これまでと違い後ろから完全に抱え込んでいる状態である。兄弟姉妹の戯れに見えなくもないが、どちらかと言えば絶叫マシンの安全バーだ。
「ちょっと、え、ど、どうしたのイチちゃん」
「まぁ色々あったんだよ……」
「かくかくしかじかでぇー、あっ、ハイこれっ!」
「ありがとう……って、お酒じゃないですかこれ」
見た目だけならさっきまでの親子コアラ状態よりかなりマシな組み合わせの、イチとフレイキーを一先ず放置し、ラッセルは溜息を吐いてランピーは新しいコップを渡す。その気を利かせた行為に水でも淹れてくれたのかと飲み干しておいてフリッピーは呆れたように眉を顰めた。
「お酒だよう?元々そーいう集まりだったじゃない、はい駆けつけもーいっぱい!」
「つかまだあったのか!……結構片したんだけどな」
がらん、と手に持ったゴミ袋のなかで空いた酒瓶を鳴らして、人の家の掃除を再開する世話焼きの元海賊。
フリッピーはよっぽど困惑が過ぎるのか、またしても注がれたアルコールをそれこそ水のように軽く飲み干す。しかし椀子蕎麦の如く次から次へとコップは満たされていく。当然、不良医師の仕業である。
「ちょっと、もう、ランピー!」
流石に堪り兼ねて、というよりも、状況が掴めなさ過ぎて、勢い良く抗議すれば返ってくるのは当然、いつも通りの人を食った笑顔である。
「んん、フリッピーはやっぱり酔わないかぁ」
「……僕、は、ってまさか」
その言葉に、フリッピーは漸く事態を把握できた気がして、少し離れた先の赤と黒の友人たちを見やる。変わらずぎゅうぎゅうくっ付かれているフレイキーは殆どパニック寸前に目を廻していた。
「イチちゃん、まさか酔ってるの……?」
そうだとすれば、あの唐突かつ珍妙な言動に説明はつく。
しかし、とてもそうは見えない平素の見た目と、いつもよりかなり饒舌だが呂律のきちんと回った語り口に、一度は納まりかけた困惑がぶり返した。
「うぅん、そおみたい……酔うと抱きつき魔で雑学ハカセになるみたいだねぇ」
そんなフリッピーに、リアリスト足るべき医者は、「アルコールは不思議な飲み物だからねぇ」と、かなりふわっとした回答を寄越す。そんな無茶な。
「フリッピーだって、覚醒したら耐性変わるくせに何を今さらぁ?」
「それはそうだけど、今は関係ない……ていうか、何で止めないの?危ないでしょ!」
自分の体質を論われて、一瞬怯んだ軍服は、それでもすぐに回復して反論する。
知らない間に中身を飲み干した空のコップをテーブルに置き、その仕草に胸元のタグがちゃりんと鳴った。
「えっ?危ないかなぁ?」
一方、うーん酒豪だなぁ、と自分という規格外の存在を完全に忘れて感心しながらランピーは問い返す。
「だってイチちゃんだよっ?ヒーローじゃあるまいし抱き着かれたって誰も怪我しないと思うけどなぁー」
「そうじゃなくって……あぁもう!ランピー忘れてない?」
そしてフリッピーは実にもどかしそうに頭の上の軍帽を揺らす。
「イチちゃん、女の子なんだよ?」
「……んん?」
「誰彼構わずひっついたら……危ないでしょう!」
深緑の瞳を気不味げに彷徨わせて言い切れば、目から鱗とばかりに声を漏らすランピーと、加えて──、
「あっ、いやだってイチは、おと……妹分みたいななぁ?そんなモンだろ?」
会話が聴こえていたらしい掃除夫改めラッセル。
「ラッセル今弟って言いかけたぁーっ!」
自分の事は完全に棚に上げるランピーである。
フリッピーは思わず溜息をついて、『困った大人』達を放置しフレイキーを救出に向う。
まぁ、僕だって、偉そうな事は言えないけど。と、その黒い頭を見下ろしながら、悩ましげにこめかみを掻いた。初対面時、実はイチの性別を判じ損ねた経験のあるフリッピーである。
しかし、今となっては間違えない。
「イチちゃん、お酒飲んでるみたいだけど、酔っ払って人に抱きつくのは良くないよ、……あと思ったよりフレイキーが限界だから放してあげてくれないかな?」
完全にへたり込んでいる格好の二人。
フレイキーは些か落ち着いたようにも見えるが、やはり涙目だ。そんな年下の友人の事は後で宥めるとして、今はもう一人の方、髪も眼も服も同色の少女と目線を合わせるために、フリッピーは膝に手を置いて屈み込む。
目論見どおり大体同じ高さになった、酔っ払いにはとても思えない色の白い顔は少し傾いて、きょとん、とした表情を見せた。
「……?」
そして、
「え」
次の瞬間、ガチリ、と音が聞こえるくらいはっきりと目が合った。
いつもは黒く底知れず、目立たないはずの瞳孔が、きゅっ、と収縮するのがよく分かった。それはまるでネコ科の獣が獲物を狙い定めるように。
あるいは、──フリッピーの中のもう一人の自分のように。
「え、あの……ちょ」
ちょっと待って、と。
最後までは、言えなかった……。
(うわぁああっ!)
(わぁお大丈夫?覚醒してなぁい?)
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