元拍手一月
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「わぁはは!ラッセルってば子守おばさんみたーいっ!」
「笑ってんな!おい、イチどうした」
「どうもしない」
勢い良く飛びついた割にはその後どうする気もないらしく、ただただ背中にくっ付いている。そんな子供をコアラの如く張り付かせた元海賊は困惑顔で、
「とにかく何とかしろランピー……こいつ剥がせって!」
「えぇーもぉしょうがないなあー」
よっこいしょー、と白々しく言いながら二人に近づいたランピーは、そのうち小柄な方の背中から、まるで羽交い絞めにでもするように、幼い子供をあやすように、その華奢な身体を持ち上げて引き剥がした。頭一つ分で利かない身長差に、彼女の両足はぶらんと垂れ下がる。
存外あっさりと解放されたラッセルは、慌てて数歩遠ざかった。
「そんな通り魔にあったみたいな反応しなくてもいいじゃないっ?」
人事なのをいい事に、あははと笑いながら矮躯を抱え直すランピーに、「ある意味通り魔だっただろさっきのは!」と律儀に返して、元海賊は中腰になった。それは唐突に奇怪な行動を起こした子供の正気を確かめるために他ならなかったのだが。
「──これイヤだ」
ラッセルがその、思いの他平常と変わらない顔に驚いた次の瞬間、ぼそりと呟かれた拒絶の言葉。
そしてイチは、むずがって身体を捩り、もがく様にして長い腕から脱出する。
するりと猫のように着地した黒い塊は、「い……ッ?」と顔を引きつらせる隻眼を見上げて、それから──、
「うん?あぁー……はい、うぇるかーむ」
へらりと笑って案山子のように両腕を広げたランピーの、
「って、あれぇ?」
背後に回って、先程と同じくわざわざ背中にへばり付く。
ごつん、と額を背骨にぶつけて、御満悦な様子で長く小さく息を吐いた。
「んんー、触るのは良いけど触られるのはイヤなのかなぁ?」
「どこの野良猫だ!」
「野良猫の定義っていうのはね──」
そして大人しくしているかと思えば、またしても辞書でも読み上げるかのように雑学をつらつら話し出す。念のために断っておくが、人の背中に引っ付いたままである。
「この妙にはっきり喋るのも何なんだ……」
「顔色全っ然変わってないしねぇ?」
「つか物知りにも程がねぇか?何でこんな何でも知ってんだよ」
「んー、まぁ喋る中身はイチちゃんセレクトだから、何でも知ってるわけじゃなくて知ってることを喋ってるだけなんだよ多分ねぇ?」
「……それにしたって限度はあるだろ?」
「そーだねえ、うん、ラッセルよりは知識人かなっ!」
「そんな分析はいらねぇ!!」
一方は酒瓶を拾い片付けながら、一方は背中に子供をぶら下げたまま。
完全に酔いの醒めた二人組みはかなり好い加減な考察を繰り返す。因みに、BGMは相変わらず留まることを知らないトリビアのレクチャーである。
「──だから野猫とか外猫とは区別されるの」
「そぉなのー?」
「ランピーお前さん絶対聞いてねぇだろ」
気の抜けるような相槌に、ラッセルが呆れたツッコミをいれる。それに反論しようとしたのか、それとも肯定するつもりだったのか、ともかくランピーがいつもの笑顔で口を開こうとしたその時だった。
ピンポーン、と。
朗らかにチャイム音が鳴り響く。
「……そういや、まだ来てなかったな」
「わぁすれてた!」
「チャイムっていうのはね、」
誰かが訊ねて来たことを告げる報せが届いた、その室内には転がる空き瓶と、予想外に出来上がった酔っ払い。そして流れ続ける雑学の講義。
「まっ、なんとかなるでしょ!」
取り敢えずランピーは、玄関へ訪問客を迎えに行くために背中の子供を振り落とすのだった。
(オレも行く)
(お前さんはダメ!)
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