元拍手一月
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「あれ…………?」
目が覚めたら、ベッドの上だった。
ええと、さっきまで何してたんだっけ。
窓の外からカーテン越しに微かな、恐らく朝日が差し込んでくる。
眩しさに目を細めて、またぶっ倒れたのか、それとも死んだのかと記憶を辿るが、辿りきる前に自分で否定する。最近は体調が優れないなんてことも無かったし、現に今気分が悪いわけでもない。寧ろすこぶる快調である。そして死んだという可能性も冷静に考えれば却下だ。
何故ならここはよく見ればオレの家ではないのだから。
「…………」
最早癖だが、相変わらず片側の空いているベッド。毎晩横たわっている寝台より遥かにサイズの大きいそれに一瞬焦るが、枕元に、スイッチを入れても灯りがつかないランプを見つけた。電球が切れたままなのか、弄っても一向に明るくならない照明器具と、そしてよくよく検分すれば見覚えが無いわけでもない室内。
なんでここに……?というか、いつの間に移動したんだろう。
オレは恐る恐る布団を抜け出し、そっと寝室のドアを開く。
その先に居たのは、やはり思った通りの人物だった。
「モールさん……?」
「おはようございます。良く眠れましたか」
しかし、この保護者がとても機嫌が悪そうに優雅な笑みを浮かべていることまでは予想していなかったのだけど。
「その様子では、昨日の事は覚えていませんね」
「…………ランピーたちとお酒飲んだことまでは覚えてる」
「今思い出したんですね」
「……よく分かるね」
ダイニングテーブルに軽い朝食と、湯気の立つカップが並べられるのを待って席に着く。
いつも、この家に泊まるときは隣の、リビングのソファに居座るのがオレの定石だったのだが、何故今朝はベッドに居たのか。というか、オレはいつの間にここに来たのか。
「流石に酔い潰れて眠っている子供をソファに放置するのは気が引けたものですから」
するとよっぽど挙動不審だったのか、相変わらず頭の中を見透かしたような返答が飛んで来た。
え、ていうか、
「……え、オレ酔い潰れたの?」
「……結果だけを簡潔に述べるのならそうなります」
……簡潔には述べられない経緯があるらしい。
モールさんは自分用に淹れたコーヒーをことん、とテーブルに置き、気を抜くように一つ溜息を吐く。
「別に、一切の禁酒をしろとまでは言うつもりもありませんけどね」
私も、貴方の歳頃には味を知っていましたし。
こめかみを軽く押さえながら自供するモールさんに、かえって冷や汗が流れた。昨日、一体オレは何をしでかしたのだろう?
「まさか『そろそろ家に帰る』と言ったその日に舞い戻ってくるとは思いませんでした」
「ご……ごめんなさい」
「それは構いませんが……買い物に行くと言っていませんでした?」
「えっ、と、それは、」
淹れて貰ったホットミルクのお陰で大分はっきりしてきた頭を働かせ、正直にランピーに連れて来られた事の顛末を話せば、稀に物騒になる我が保護者はサングラスの下で若干眉を顰めた。
「やっぱりかあの馬鹿医者……」
舌打ちまで聴こえてきた気がするのだけど、それは流石に気のせいかもしれない。
「あの、……モールさん」
恐る恐る声を掛ければ、視力を有しない瞳がこちらを向く。
「オレ、よっぽど迷惑かけた……?」
だってモールさんは大抵の場合、放任主義だ。オレの後見じみたことをしてくれるのに、オレのやる事に自由を保障してくれている。その人に、ここまで言わせるなんて。
──まさか正気なくして暴れたんじゃないだろうなと顔が青くなる。
するとそんなオレに、保護者は少し呆れるような調子で呟いた。
「迷惑は、それほど掛けていません……精々眠り込んだ貴方をここまで運ぶ嵌めになった程度ですかね」
それは、十分迷惑なのでは。
居た堪れなくなりマグカップに顔を突っ込めば、
「……貴方が私に掛けているのは基本的に迷惑ではありません」
ひっそりと聴こえてきた、どこか諦めの音が混じるそれ。
「どういう意味?」
「ただの独り言です」
氷の色の目を伏せて、モールさんは思わず見惚れるほど滑らかな動きでカップを再び手にとり、音もなく飲み干した。
そして「これも良い機会ですかね」と、これぞ本物の独り言だろう声量で言葉を落としたかと思えば、中身のなくなったマグカップが先程より軽くテーブルに着地する。
改めてこちらに向けられたその端正な顔は、いつもの冷静沈着な面持ちではあったのだけど。
「さて、イチ」
何とは無しに畏まった響きの前口上に、思わず姿勢を正す。すると、続く言葉は予想に違わず、
「少しお話があります」
そのまま膝詰めの説教が始まったわけなのだけど、え、本当に、オレ、何したんだ?
(兎に角もう少し相手を選びなさい。ランピーは危険ですから駄目です)
(え、うん、分かった……分からないけど。え?)
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