元拍手十二月
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ポットのお湯が、沸く音がした。
「そういうわけで死んでたから、渡すの遅くなってごめんなさい」
「別に構いませんが……」
通例通り生き返っての昼下がり、モールさんは受け取ったばかりのカードを手に複雑そうな顔をする。
招待状は渡したので、これでモールさんが出席したくないと思うのならそれは仕方が無い。オレの保護者がこういう宴会めいた席をそれ程好んでいないことは知っている。まあ、来てくれたら嬉しいのには違いないのだけど。
これで用件は済んでしまったのだが、特に追い立てられるでもないので断ってからキッチンへと足を向ける。
要望を訊いて、棚からカップを二つ取り出した。そういえば最近、モールさん愛用のコーヒーメーカーが壊れたらしく、専らインスタントなのだと聞いた。だからお湯を沸かしてたのかと納得しながら、オレの分のコップにはココアを淹れる。
コーヒーはちょっと、苦くて飲めない。
「結局サンタさんって、居るのかな」
湯気の立つマグを両手にソファへ舞い戻れば、軽く礼を述べながら甘くない方のカップが引き取られた。
「……迂闊には答えられない質問ですね」
サンタさん……フレイキーからその名を聞いたのがきっかけとして、その正体らしき人に見当がついたところで、その『本人』はオレと同じくサンタクロースの存在をいまいち掴みきれて居ないという事が判明する、というなんとも奇妙な事案に遭遇した、ので色々と考えてみたのだけど、
「サンタクロースっていうのは元はともかく、要するに親からの二個目のプレゼントだよな……なんで普通に親が渡したら駄目なの?」
「……そこに疑問を持ちますか」
どうも予想外だったらしい。
カードをテーブルに置いて、目を細めるモールさんに向ってオレは続ける。
「だって、来ない人だっているんだよ。オレとか、フリッピーも来ないって言ってたし」
堂々巡りの思考に、自然と首が傾いた。
「そういう意味で平等な訳でもなさそうだし、イベント事のサプライズ的な意味合いがあるのかとも考えたけど、毎年恒例なら違うみたいだし」
「興味深い考え方ですね」
オレの疑問を聞き終えて、モールさんが一言言い置いた。
本当にそう思っているのかそれとも呆れられているのか、サングラス越しに微笑が見える。
「サンタクロースの由来は知っていますか」
「……聖ニコラウスって人、のこと?」
不意に投げかけられた質問に、反射で答えた。近頃癖になりつつある図書館通いの中で、そういう文献を呼んだ事がある。
諸説あるが、クリスマスイブに現れる怪人の正体は、乱暴に纏めてしまえばこの人が貧しい家の娘に施しを与えた事が由来とされている。
その時暖炉の傍に靴下があったとか、トナカイを連れているとか、家に入る方法とか、他にも口伝やら伝歌がぞろぞろ出てきたので手に負えなくなる前に調べるのを止めたのだが。
「ではその起源であるエピソードから、『サンタクロースは聖夜に子供に施しを与える人物である』と定義付けます。根源である聖ニコラウスの立場、存在をサンタクロースであるとして、その上で貴方の疑問に答えてみましょう」
「っえ?」
完全に気を抜いて、ココアの甘さに浸っていたオレは焦る。何やらいきなり講義めいたものが始まってしまった。
モールさんはといえば鹿爪らしい口調で、いや、それはいつものことだけど、ともかく、どうやら仕様も無い事をぐだぐだと考えているオレを見兼ねたらしい。
「確かに、両親がその立場に立つことは尤もありふれたケースであると言えるでしょう」
子供舌のオレと違って、論者は砂糖もミルクも何にも無しで真っ黒いコーヒーを一口啜る。
「しかしそれは結果論であり、親である事はニコラスに成り代わる条件ではありません。当然の事ながら両者が別の人物であると言う事も有り得ます。つまり、ニコラスの役目を現在では親が担う場合が多いというだけの事であり『父母がサンタクロースである』という事では無いのです。これらの役職、立場はイコールではありません。従って一度目のプレゼントを親として子に贈り、二度目のプレゼントをニコラスとして子供に渡す、という事が有り得る…………答えになりましたか?」
そしてまるでそれがスイッチだったかのように怒涛の勢いで並べられた言葉の群れを慌てて読み込んで租借する。
オレの疑問が確か、両親がわざわざサンタを騙る意味だったから……ああ、そうか成る程。
「な、なんとか」
理解できた事を表明すれば、臨時教諭は心得たとばかりに軽く頷く。そしてふと思いついたという風に顔を上げた。
「ああ、そういえば」
「え?」
「元はと言えば、サンタが居るか居ないかという話でしたね」
何気なく掛けられたような言葉に、数秒固まる。そういえば、そうだった。
質問した当人つまりオレは物凄く忘れていたが。
「貴方は『サンタクロース』に居て欲しいんですか?」
数分前の自分の発言を思い起こしていれば、質問を質問で返された。
それこそ意図が分からず戸惑えば、重ねて足される意味深な注釈。
「別に年齢制限がある訳でもないでしょう。貴方はまだ未成年ですし」
それは、つまり──、
「い、」
考えるより先に、欲が出た。
「居て欲しい」
咄嗟に言ってしまってから、自分の言葉のその図々しさと勢いにハッとして、気不味くも辛うじて付け足す。
「……かも知れない」
何だか久しぶり口にした気がする推測文句は、我ながらいつもとは含む意味が少し違う気がした。モールさんもそれを読み取ったのか、軽い溜息が聞こえてくる。何と無く決まりが悪くなって、テーブルの脚なんかを眺めていれば、やがていつも通りの静かな声が降ってきた。
「では良い子にしていれば来る『かも知れません』ね」
その内容に驚いて顔を上げれば、
「サンタクロース」
モールさんはさっきまでの応酬を忘れ去ったかのような真面目に取り澄ました顔で言った。
至極あたり前のように発せられたファンシーな言葉のアンバランスさと、その意味する処を理解して、オレは思わず我が保護者の端正な顔を注視する。モールさんはと言えば、そんな視線は蚊ほども気にならないのか、かたん、とカップと受け皿を鳴らした。
……取り敢えず、フレイキーにクッキーの作り方でも教わってこようと思う。
(うちには煙突が無いけど大丈夫かな)
(大丈夫じゃないですか?貴方のサンタは多分スペア・キーを預かっていますし)
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