元拍手十二月
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カードを渡すのは、とても順調に進んだと思う。
例えばスニフに実験の日取りをずらすよう説得したり、カドルスがケーキににんじんを入れるよう所望してトゥーシーに叱られたりはしたものの、取り立てた問題も起こらず予定していた大半の人へ、フレイキーは招待状を渡す事が出来ていた。
……フレイキーの大事な友達の一人、元軍人さんに声を掛けた瞬間、近くで風船が割れる音がするまでは。
「っい……!」
文字通りに死ぬ気で、命辛々フレイキーを逃がしてオレの視界に入るのは逆光にも関わらずギラつく金色。そして背中に硬い地面の衝撃。
「痛いよ」
「知るかよ」
若干のタイムラグを以て腹部に重みと圧迫感。まだ刺された訳ではないが、馬乗りになって見下ろすフリッピーの手にナイフがある以上、かなり絶体絶命な状況である。しかも刺されていないだけであって、先程の立ち回りでオレの体力は限界に近い。
……諦めるのは、あんまり好きじゃないんだけど。
仰向けで倒れたまま、横目に周囲を覗う。場所は公園だが、他に人は居そうに無い。つまり誰も巻き込む心配だけはしなくていい。
ならば、先に用事を済ましてしまおう。
「フリッピーちょっとだけ待って」
「待たねえよ」
「あのさポケットに」
「だから待たねぇよ」
「……っ、渡すもの入ってるから受け取って」
二度目の宣告の後、振り下ろされたナイフを首を限界まで捻りギリギリで何とかかわす。
避けきれなかった耳たぶの傷と、小気味良い音と共に切り離れた一房の黒髪。それらを意識にあげる前に尚言い募れば、軍帽の凶悪な表情を晒しながらもその手は予備のナイフを抜くのを留まってくれる。前に、路地に二人で閉じ込められたときも思ったのだが、金色の目をしたフリッピーはもしかして意外と押しに弱かったりするのだろうか。
……ただ単に面倒臭いから適当に付き合ってから殺そうとか考えているだけなのかも知れないが。
「パーカーの右のポケット」
勝算は半々だと思っていたのだが、案外その指示はあっさりと聞き入れて貰えた。但し盛大な舌打ちと、逃げんじゃねえぞクソガキとの言葉付きだったが。
そもそもそんなことは言われるまでもなく逃げない、ていうか、逃げられない。
やがてフリッピーが取り出したのは当然、フレイキーお手製のクリスマス会招待カードである。
「なんだこれ犬か」
「トナカイだよ」
「……リンゴ」
「サンタだと思う」
「てめえ目ぇおかしいんじゃねえの」
「確かにちょっと抽象的かもしれないけど、フレイキーがそのつもりで描いたんだからそれはトナカイとサンタだよ」
招待状の見出しを囲うように散りばめられた、色鉛筆によるイラスト。
言い切れば、フリッピーは何故か苦虫を噛み潰したような顔をして「忖度してンじゃねぇよ」と呟いた。そして同時に腹に重みが増す。本格的に人の上で腰を据えるのは控えて欲しかった。内臓が悲鳴をあげている。
苦しさに目を細めると、ふと視界にちらついたのはカードに描かれた赤い人。
「フリッピー」
「あぁ?んだよ今殺してやるから喋んじゃねえよ」
いや、出来れば殺して欲しくないのだが。
「そうじゃなくて、フリッピーはさ、」
声をかけながら、いつの間に抜いたのか二本目のナイフを掲げる金色の瞳を見上げた。
「『サンタさん』って、信じてる?」
そして見据えた。紛れもなく、金の虹彩を持つ方のフリッピーに訊ねているのだと伝わるように。
「サンタクロースだぁ?んなもん……」
眉を顰めて極面倒臭そうに口を開いたフリッピーは、……そのまま固まる。
形の良い唇が、少し開いたまま止まるのを見て、やっぱりこの人はオレに似ていると改めて思う。
だって、多分──
「来たことねぇから分かんねえよ」
「……だよね」
──フレイキーから初めてサンタの名を聞いた時、自分も同じような顔をしていたに違いないから。
「オレもそう思う」
意見が一致して、仲間を見つけたような気分で一安心したオレの胸にはどうやらナイフが突き立ったようで。
意識が遠のく中で、そもそも聖夜に限らずクリスマスプレゼントなんて代物を貰ったことも無いだろうオレとフリッピーをからかうように、街灯と同期したスピーカーからジングルベルのメロディが聴こえていたのが妙に可笑しかった。
(あぁ『フリッピー』は貰うのかも知んねぇけどな)
(『零』と壱は貰ってたのかも知れないけど)
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