元拍手二月
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取り残されたオレは呆然と乱雑な室内を見渡す。
座席に積まれた三年生の教科書。
ということはオレよりふたつ年上。多分さっきの人もそうなのだろう。同級生っぽかったし。
ぐるりと一巡りした視線は、同じく唖然として固まっていた金色のそれとかっちり合う。
すると、その『カクセイくん』は、はっと突き動かされるように右手の杖を振った。
その瞬間、
「すごい……!」
思わず声をあげる。
鍋の中身が一瞬で浅黄色に染まっていた。
「凄くねぇよ失敗だ。くそが、タイミングずれた」
言いながら、先輩は金色の目を細めて傍らの小瓶をつまみ上げた。
なにをするのかと思えば片手で栓を抜いて、杖をちょいちょいっと動かし何事かを呟く。その途端、するすると鍋の中身が飛び出して瓶の中に納まっていく。
やっぱり、すごい、魔法だ……。
「もっと綺麗に瑠璃色に──」
ぶつぶつと文句らしきものを漏らしていたその人は、ふっと言葉を切って眉根を寄せた。何かに気付いたように手を止める。
「に?」
「いや、……じゃねぇ、てめぇなに見てンだ、さっさと出てけ」
鍋を見たまま、呆れ半分な声色で邪険そうに言われた。
成程そういえばオレがここにいるのは無許可なのだった。でも──、
「荷物、梟以外の荷物は廊下に放っておくしオレは立ったままでいいから……もうちょっと見てていい?」
「はぁ?」
まさか断られるとは思っていなかったのか金の双眸が思わずこちらを向く。その眉間の皴といい、低くなった声といい、そして下から睨み上げてくる凶悪な目付きといい、どれをとっても退出を促すものだったが、オレは気にかけずスーツケースだけをドアの外に等閑に放り出した。
「魔法、初めて見た。それにもっと見たい」
知らなかったとはいえオレの母親は魔女だった訳だし自分だって現在汽車で空を飛んでいるのだが、それにしたって。
人の手が、実際に魔法で何かを成しているところを初めて見た。
「珍しくもねェわこんなん……」
オレの反応があまりにも予想外だったのか、あるいはとうとう呆れ果てたのか先輩の声は若干萎んだ。
「他所行って気が済むまで
「でもそれも魔法なんだよね?」
畳み掛けるように訊くと、コンパートメントの主はぐっと詰まった。反論が思いつかなかったらしい。
もっとすげえの、に興味はなくも無いが。
「それに、」
と、オレは鍋を指差す。
その意図を掴めず、はてなマークを浮かべた顔を見ながら言った。
「もっと綺麗な瑠璃色になるの、見たい」
金色の目が、衝撃を受けたように見開かれる。
自分の独り言を聞かれていたからか、それとも別の理由からなのか。
すべき主張を終えたが返事はない。
オレは少し息を吐く。正直、本心からここに居たいのだが、まあ無理強いできる相手でもなさそうだ。とりあえず梟だけは置かせてもらおう。最悪オレは学校まで荷物と廊下で棒立ちだ。
暫く双方押し黙り、そしてそろそろ潮時だろうかと、ドアの取っ手に手を掛けた時だった。
「……本」
「え?」
ぼそりと零れた声に振り向く。
「──本なら床に置いていい。薬品触って位置ずらしたらブッ殺すからな!」
後から知ったのだが、放たれたその脅迫はこの先輩なりの、座ってよしとの温情だったらしい。
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