元拍手九月
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花見といえば、桜と酒。というのが一般的らしいが、季節柄そんなものが花開いているはずもなく、そもそもこの街に桜の木があるのかさえオレは知らない。
かといってまさかハッピーツリーを見上げる訳にもいかず、ランピー発案の『お花見』は、森林公園のような場所で御座を広げていた。森林公園、というか、茂った木々の間のある程度開けた場所、というか。カドルスやフレイキー達はたまにかくれんぼに利用したりもするそうだがオレは初めて訪れた。
常緑樹も多い中、ちらほらと紛れるように姿を見せる紅葉が、その赤や黄がまあ、花に見えなくもない。
「モールさん、はい」
静まってきたとはいえ未だ数名が盛り上がっている場を逸れて、まるで隠れているかのような一本の木。
オレは騒ぎを抜け出し、その木に近付く。凭れて座っている、とても嫌そうではあったが確かに誘ったら来てくれたモールさんに、両手に持ったグラスの内ひとつを差し出した。
「私にですか?」
「うん。モールさんもお酒の方がよかった?」
「いえ、」
ふっ、と右手が軽くなる。モールさんはオレンジシュースを受け取って確かめるように少し傾けた。
「人前での飲酒をあまり好まないので」
……それはなんだか今日という日を根本から否定している気がするのだが。
黙っていると、モールさんは溜息を吐いて傍らに立て掛けた杖を抱え込むように動かした。どうやら席を譲ってくれたらしい。ありがたく座って横を見ると、杖のせいなのか何なのかモールさんは少し珍しい格好をしている。
「モールさん、外でその座り方あんまりしない、よね」
片膝だけを立てた、胡坐の出来損ないみたいな。
若干の例外を除く丁寧な口調は言わずもがな、モールさんは家の外では滅多に姿勢も崩さない。ランピーがたまに外面だとからっている。だから例外にされるんじゃないだろうか。
「はい?ああ、そうですね。いつもコートを着てますし、……まあ、今は誰も見てませんから」
その言葉に、つい辺りを見回す。
はじめの半分くらいには減っている人口。甘党の癖に酒を一気しているナッティ、止めようとするも吐きそうなスニフ。アルコールのせいで結局殆ど屍状態のラッセル。雰囲気を怖がり泣きそうなフレイキーに、その背中をなだめるようにたたきながら、こちらも規格外に酒を呷っているランピー。その頬に赤みが一切無いのが恐ろしい。そして、千鳥足のフリッピーと、一方的に血生臭い戦いを繰り広げているスプレンディド。加えて、巻き込まれて脳髄飛び散らせた双子と……いや、あえて死体の描写をするのも趣味が悪い。名前の挙がらない人は要するに『減った人口』である。
「……そうだね」
一人、正気を保っているモールさんは盲目だ。
オレはそっと背中のイチョウを見上げた。
誰も、見てない。
(花見じゃなかったのか……)
【end】
この子ヒーローははじめから正気じゃないと思ってる
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