元拍手一月
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「それで?」
冬の、それも一月とは言え、空調を効かせて、さらには低くない人口密度。室内はそれなりに暖まっている筈だった。
──その冷ややかな声が響くまでは。
「急に呼び立てられて何事かと思えば……。勿論、説明はしてくださるんでしょう?」
家の中にも関わらず、細い白杖の先をカツンと鳴らして、サングラスの奥からは氷のような眼を向ける。綺麗に整った顔の、その口から紡がれるのは身形に反せず美しい、そして容赦のない毒である。
それらが自分に向けられているものではないと重々承知していても尚、フリッピーは背中に冷や汗が伝うのを感じた。
「ええーっと、だからね、イチちゃんがね?」
果たしてこちらは、床に正座している(させられている)ランピー、つまり視線と言葉の的である。
「フリッピー見た途端に何でかいきなりタックルかましてね?」
これまで、皆後ろからくっ付かれるだけだったのに。
何故か自分だけ突っ込んでこられて引っ繰り返り、フリッピーはかなり動転した。よく『アイツ』と交代しないで済んだと、あの時の僕を褒めてやりたい。
と、いうかアイツと言えば──……酔うと本音が出るというし、まさか日頃の恨みじゃないだろうかと内心戦々恐々していた元軍人である。覚醒した後のフリッピーは、相変わらず逃げ出さない彼女を相当な回数殺している筈だ。
「それでぇ、万が一覚醒しちゃったときのために今のうちにフリッピーにお酒入れとこうっ!てなってー、で、付き合い酒したラッセルが潰れてえー」
かつ、とまた杖が鳴る。まるで先を促す相槌のように。
「えー、えと、それからイチちゃんはフリッピーにくっついたままフレイキーと話し出しちゃってー」
フレイキーと、というよりは、フレイキーに只管よくわからない雑学を話していたような気がする。フレイキーはかなり必死になって聞いていたけど、イチちゃんは後半、誰にも理解できないくらい非日常的なテーマについて論じていたので少し可哀相なくらいだった。ランピーも同じくそう思ったのか、ラッセルを乱暴に揺すり起こしたのが、その頃。
「とりあえずラッセルにフレイキーを送らせてー、イチちゃんの相手はフリッピーに頼んでっ!でぇ、僕はモールを召喚したっていうのが大まかな状況説明かなぁー?」
「……はぁ成程それで言いたい事は?」
「……ホントごめんなさいでした!!」
「一体何を考えているんですか?碌にアルコールを入れたことのない人間にいきなり蒸留酒三杯も空けさせて、お前それでも医学部卒業したのか」
「しっ、したよぅ……でもイチちゃん結構お酒強いのかなあーって思ってぇ!」
「貴方どう足掻いても他と違う体質なんですから自分基準で物事を考えるの止めて貰えませんか」
「うっ、えっと」
「いいですか、もう一度言います──自分を普通だと思うなおこがましい」
「ひ、ひどっ!」
「五月蝿い黙れ」
紳士然とした動作はそのままに、かなり粗野になった態度と口。それに対して素直に謝ればいいのに、良く分からない口答えを繰り返すランピー。
というか、凄い疎外感なんだけど……。
強いて言うなら、他人の家庭に紛れ込んだような、友達の親子喧嘩を目撃したときのような……?
僕はさっきから延々と続く友人たちの応酬をソファで眺めながら、苦笑いで息を吐いた。
酔い潰れたイチちゃんの、親代わりが来たのにも関わらず僕が立ち上がって部屋を出て行けないのには理由がある。その『理由』は今、ソファの空いたスペースでクッションを枕にして、そして小さな手でしっかりと僕の上着を握り締めたまま眠っていた。
フレイキーが居なくなった途端にうとうとし始めた黒い瞳は、ただ単に体力の限界が来たのか、それとも僕は話し相手として不合格だったのか。
少しだけ開いた口と、そこから規則的に聴こえる呼吸音。
クッションと迷彩に半分くらい埋まってしまっている頭と、丸まってしまえば本当に小さく収まる華奢な肢体。
そろそろ起きてくれないかなぁ、と少女を眺める。すると祈りが通じたのかその瞼が薄く開いた。
「あ、おはようイチちゃん。大丈夫?」
んぅ、と小さく唸りながら柔らかいソファに難儀しながら起き上がろうとする、彼女の手を取り助け起こせば、どこかぼぉっとした黒色と目が合う。
「僕はよく分からないけど……二日酔いとか」
「ふつか……」
繋がったままの手を無自覚に握ってくる、その口調は寧ろさっきまでよりぼやっとして頼りない。
ああ、まだ酔ってる。というか、寝ぼけてるのかな?
横になっていたせいで、いつもよりさらにぼさぼさと好き放題になっている黒髪を手櫛で整えてあげれば、舌足らずに、
「……ふり、ぴぃ?」
「うん、フリッピーだよ」
右目をごしごしと擦りながら、小さな声で僕の名を呼ぶ。
相当眠たいのかぐらんぐらん揺れている小さな頭を不安に思いながら大丈夫?と聞くと、うん。と分かっているのか分かっていないのか即答が返ってきた。
というか、あんまり眼を擦ったらダメだよ、と宥めて、それからふと思い出して告げる。
「ええ、と、今お迎えが来てるから……」
まるで保育園の職員になったような気分で人差し指を立てると、イチちゃんはじぃっとそれを見つめてくる。
ああ、と気付いて、……少し失礼だけどその指をそのまま彼女の保護者を指す様にずらす。
すると、その瞬間、
「あ」
墨色の瞳は大きく見開かれて、
「もーるさん」
──それは本当に一瞬だけだったし、多分、他の誰にも見えていなかっただろうけど。
ソファを降りたイチちゃんは、ぱたぱたと軽い足音を立てながら近付いて行き、丁度気付いて振り向いた彼のお腹辺りにぼふっと全身でぶつかる様に抱きついた。
そしてそのまま、がくん、と。
糸が切れたマリオネットのように、気絶かと見紛うような勢いで、
「…………」
寝た。
「ぅえー……っと、モール、物凄い顔してるとこ悪いんだけど、イチちゃん寝ちゃったよ?」
「言われなくとも分かっていますが……?」
実際に抱きつかれて、彼女がどれだけ酔っているのか改めて目の当たりにした保護者は、まあ、気をつけないと覚醒しそうなくらい凶悪なオーラでランピーを見下ろし、そしてその細身に見合わぬ気軽さで、ひょい、と足元の少女を持ち上げた。
幼子を寝かしつけるように(もう寝てるけど)イチちゃんを腕に抱いて、脇に置いた白杖も忘れず拾い上げた盲目の紳士は、くるりとこっちを向いた。
さっきから動けないでいた僕は一瞬ビクっと肩が揺れる。
「フリッピー、御迷惑お掛けしました。……ランピー、お前とは大分話し足りないので近いうちに訪ねます。それが嫌なら死ね」
「わぁー、ちょぉ待ってるうー……」
が、どうも萎縮すべきなのは不健全な医者の方らしい。
やがて擬似親子は扉の向こうに消えて、ランピーは「やっばーい」とか何とか呻きながら後ろに倒れたのだけど、僕は未だに衝撃醒めやらないというか、──それは本当に一瞬だけだったし、多分、他の誰にも見えていなかっただろうけど。
それこそ親を見つけた仔猫のように目を細めて、安心しきった様子でふにゃっと緩んだ口元。
今時、小さな子だってあそこまではしないという、無垢で無防備で、まるで赤ちゃんみたいな純粋な笑顔。
長らく仏頂面しか見ていなかっただけに、驚くのは仕方がないと思う。
「ていうか、……本当に危ないじゃないかあの酔払い」
とりあえず、今度会ったら知らない人が居るところでは呑まない様に注意しようかな、と僕はこっそり頭を抱えた。
(酔っ払いと保護者共)
【end】
え、今この子めっちゃわらった!?ってなってる軍人さん。
これで酒耐性決まってないの後モールさんと英雄だけか……。ちなみにハンディーは呑まない派。
冬の、それも一月とは言え、空調を効かせて、さらには低くない人口密度。室内はそれなりに暖まっている筈だった。
──その冷ややかな声が響くまでは。
「急に呼び立てられて何事かと思えば……。勿論、説明はしてくださるんでしょう?」
家の中にも関わらず、細い白杖の先をカツンと鳴らして、サングラスの奥からは氷のような眼を向ける。綺麗に整った顔の、その口から紡がれるのは身形に反せず美しい、そして容赦のない毒である。
それらが自分に向けられているものではないと重々承知していても尚、フリッピーは背中に冷や汗が伝うのを感じた。
「ええーっと、だからね、イチちゃんがね?」
果たしてこちらは、床に正座している(させられている)ランピー、つまり視線と言葉の的である。
「フリッピー見た途端に何でかいきなりタックルかましてね?」
これまで、皆後ろからくっ付かれるだけだったのに。
何故か自分だけ突っ込んでこられて引っ繰り返り、フリッピーはかなり動転した。よく『アイツ』と交代しないで済んだと、あの時の僕を褒めてやりたい。
と、いうかアイツと言えば──……酔うと本音が出るというし、まさか日頃の恨みじゃないだろうかと内心戦々恐々していた元軍人である。覚醒した後のフリッピーは、相変わらず逃げ出さない彼女を相当な回数殺している筈だ。
「それでぇ、万が一覚醒しちゃったときのために今のうちにフリッピーにお酒入れとこうっ!てなってー、で、付き合い酒したラッセルが潰れてえー」
かつ、とまた杖が鳴る。まるで先を促す相槌のように。
「えー、えと、それからイチちゃんはフリッピーにくっついたままフレイキーと話し出しちゃってー」
フレイキーと、というよりは、フレイキーに只管よくわからない雑学を話していたような気がする。フレイキーはかなり必死になって聞いていたけど、イチちゃんは後半、誰にも理解できないくらい非日常的なテーマについて論じていたので少し可哀相なくらいだった。ランピーも同じくそう思ったのか、ラッセルを乱暴に揺すり起こしたのが、その頃。
「とりあえずラッセルにフレイキーを送らせてー、イチちゃんの相手はフリッピーに頼んでっ!でぇ、僕はモールを召喚したっていうのが大まかな状況説明かなぁー?」
「……はぁ成程それで言いたい事は?」
「……ホントごめんなさいでした!!」
「一体何を考えているんですか?碌にアルコールを入れたことのない人間にいきなり蒸留酒三杯も空けさせて、お前それでも医学部卒業したのか」
「しっ、したよぅ……でもイチちゃん結構お酒強いのかなあーって思ってぇ!」
「貴方どう足掻いても他と違う体質なんですから自分基準で物事を考えるの止めて貰えませんか」
「うっ、えっと」
「いいですか、もう一度言います──自分を普通だと思うなおこがましい」
「ひ、ひどっ!」
「五月蝿い黙れ」
紳士然とした動作はそのままに、かなり粗野になった態度と口。それに対して素直に謝ればいいのに、良く分からない口答えを繰り返すランピー。
というか、凄い疎外感なんだけど……。
強いて言うなら、他人の家庭に紛れ込んだような、友達の親子喧嘩を目撃したときのような……?
僕はさっきから延々と続く友人たちの応酬をソファで眺めながら、苦笑いで息を吐いた。
酔い潰れたイチちゃんの、親代わりが来たのにも関わらず僕が立ち上がって部屋を出て行けないのには理由がある。その『理由』は今、ソファの空いたスペースでクッションを枕にして、そして小さな手でしっかりと僕の上着を握り締めたまま眠っていた。
フレイキーが居なくなった途端にうとうとし始めた黒い瞳は、ただ単に体力の限界が来たのか、それとも僕は話し相手として不合格だったのか。
少しだけ開いた口と、そこから規則的に聴こえる呼吸音。
クッションと迷彩に半分くらい埋まってしまっている頭と、丸まってしまえば本当に小さく収まる華奢な肢体。
そろそろ起きてくれないかなぁ、と少女を眺める。すると祈りが通じたのかその瞼が薄く開いた。
「あ、おはようイチちゃん。大丈夫?」
んぅ、と小さく唸りながら柔らかいソファに難儀しながら起き上がろうとする、彼女の手を取り助け起こせば、どこかぼぉっとした黒色と目が合う。
「僕はよく分からないけど……二日酔いとか」
「ふつか……」
繋がったままの手を無自覚に握ってくる、その口調は寧ろさっきまでよりぼやっとして頼りない。
ああ、まだ酔ってる。というか、寝ぼけてるのかな?
横になっていたせいで、いつもよりさらにぼさぼさと好き放題になっている黒髪を手櫛で整えてあげれば、舌足らずに、
「……ふり、ぴぃ?」
「うん、フリッピーだよ」
右目をごしごしと擦りながら、小さな声で僕の名を呼ぶ。
相当眠たいのかぐらんぐらん揺れている小さな頭を不安に思いながら大丈夫?と聞くと、うん。と分かっているのか分かっていないのか即答が返ってきた。
というか、あんまり眼を擦ったらダメだよ、と宥めて、それからふと思い出して告げる。
「ええ、と、今お迎えが来てるから……」
まるで保育園の職員になったような気分で人差し指を立てると、イチちゃんはじぃっとそれを見つめてくる。
ああ、と気付いて、……少し失礼だけどその指をそのまま彼女の保護者を指す様にずらす。
すると、その瞬間、
「あ」
墨色の瞳は大きく見開かれて、
「もーるさん」
──それは本当に一瞬だけだったし、多分、他の誰にも見えていなかっただろうけど。
ソファを降りたイチちゃんは、ぱたぱたと軽い足音を立てながら近付いて行き、丁度気付いて振り向いた彼のお腹辺りにぼふっと全身でぶつかる様に抱きついた。
そしてそのまま、がくん、と。
糸が切れたマリオネットのように、気絶かと見紛うような勢いで、
「…………」
寝た。
「ぅえー……っと、モール、物凄い顔してるとこ悪いんだけど、イチちゃん寝ちゃったよ?」
「言われなくとも分かっていますが……?」
実際に抱きつかれて、彼女がどれだけ酔っているのか改めて目の当たりにした保護者は、まあ、気をつけないと覚醒しそうなくらい凶悪なオーラでランピーを見下ろし、そしてその細身に見合わぬ気軽さで、ひょい、と足元の少女を持ち上げた。
幼子を寝かしつけるように(もう寝てるけど)イチちゃんを腕に抱いて、脇に置いた白杖も忘れず拾い上げた盲目の紳士は、くるりとこっちを向いた。
さっきから動けないでいた僕は一瞬ビクっと肩が揺れる。
「フリッピー、御迷惑お掛けしました。……ランピー、お前とは大分話し足りないので近いうちに訪ねます。それが嫌なら死ね」
「わぁー、ちょぉ待ってるうー……」
が、どうも萎縮すべきなのは不健全な医者の方らしい。
やがて擬似親子は扉の向こうに消えて、ランピーは「やっばーい」とか何とか呻きながら後ろに倒れたのだけど、僕は未だに衝撃醒めやらないというか、──それは本当に一瞬だけだったし、多分、他の誰にも見えていなかっただろうけど。
それこそ親を見つけた仔猫のように目を細めて、安心しきった様子でふにゃっと緩んだ口元。
今時、小さな子だってあそこまではしないという、無垢で無防備で、まるで赤ちゃんみたいな純粋な笑顔。
長らく仏頂面しか見ていなかっただけに、驚くのは仕方がないと思う。
「ていうか、……本当に危ないじゃないかあの酔払い」
とりあえず、今度会ったら知らない人が居るところでは呑まない様に注意しようかな、と僕はこっそり頭を抱えた。
(酔っ払いと保護者共)
【end】
え、今この子めっちゃわらった!?ってなってる軍人さん。
これで酒耐性決まってないの後モールさんと英雄だけか……。ちなみにハンディーは呑まない派。
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