その6
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897:HERO☆生徒会長
少しまずい事になったようだ!
ヒーロー居るところにピンチあり だね!!
しばし失礼するよ!
「…………」
来た早々、スレッドを混乱させているハンドルネームから、またしてもぽつんと落とされた呟き。
慌ててレスポンスを書き込もうとした指先が止まる。雰囲気とタイミングから、一部除きスレ閲覧者はあまり本気にしていないようだが書き込み手と内容を鑑みるに恐らくもう二人とも本当に画面を見ていない。
代わりに目を移すのは、双子と3人団子のように固まり立て篭もった部屋の扉。洋装のドアの足元に、何袋もの菓子が置かれている光景は平素ならば滑稽なのだろうけれど。
「馬鹿なこと考えてんじゃねーぞ、馬鹿」
後ろから投げられたのは、好い加減恐怖を隠せなくなってきた声。
それでもその牽制は固く耳に突き刺さる。隣で片割れが首を傾げるのも待たず、シフティは再度オレに忠告を寄越した。
「お前が外に出たところで、なんもなんねーっつの」
「わかってるよ」
間髪要れずに投げ返す。
わかっている。
いくらランピーが心配でも、いくらあの2人が心配でも、オレが外に出て駆けつけたところで状況は好転しない。むしろ、被害が増えるだけだろう。勝手なことをすればシフティとリフティにまで被害が及びかねない。
でも……じゃあ、そうしたら。オレに出来ることって、一体なんだ。
偉そうなことを言うだけ言って、ここで大人しくしているしか、本当に手立ては無いのか。
そうやって恨みがましく出入り口を睨んでいたからだろうか。
「……ぇ?」
思わず漏れた声。
相変わらず電話を掛け続けていたリフティはハッとしたように振り返った。
シフティの牽制を横目に聞いて、恐らくはオレが余計なことをしないようにの意図もあったのだろう、今や片腕を抱え込むように密着していたせいでオレの身までもが引き摺られるように揺れる。
「リフティ、今」
画面の更新を繰り返していた手を止めて、友人を仰ぎ見る。
一目見てわかった。
信じられないものを見たように見開いた双眸。
多分、同じものが見えていた。──不自然に動くドアノブが。
加えて、妙に勘の良い双子の片割れは何か鼓膜まで揺らしたらしい。
「イチ……あにき今、なんか言った?」
「……ねーよ」
問い掛けの声は少し震えていた。
伝播するように、反対側の答えも揺れる。
この状況で空耳などと暢気な片付け方が許される筈も無く。
口裏を合わせたわけでもないのに誰もが口を閉ざして訪れる静寂。
重なる目線の先には一見変わったことなど何も無いようなドア。
耳に届くのは、微かなクーラーの稼動音。部屋を越えて、製氷機が氷を固めた音。
そして、──ぎいぃぃぃ……ッ、と。
「ひ、ぃいっ!?」
「ッぐ!!」
「ん、」
今度こそ、誤魔化し切れない現実味を伴って、シフティの、リフティの、そしてオレの目の前で扉が勝手に開いていく。
ゆっくりと。
焦らす様に。
ここだけは安全だと信じていた空間を裂くように。
顕になっていく短い廊下。その向こう側に何を見たのか。なにを、聞いたのか。噛み殺した悲鳴と押し殺した呻き声を最後に、声帯ごと固まっていた双子が跳ねるように動いた。一人は体をぶつける様に開きかけたドアを閉め。一人はオレを引き摺るように距離を取る。
衝撃と共に。
焦燥の浮かぶ悪友の顔越しに、閉まりきる寸前の扉の向こう側で。
「…………なん、で」
一瞬、見えたのは闇に溶ける長く乱れた女の髪と、──確かに自分を指差して歪んだ、黒々とした咥内だった。
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