【サイコパス】ふわっとしたryその3【大暴れ】
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◇
今日、ついさっきの話だ。
夕方、……日は沈んだ頃、オレはいつもみたいに家に帰ろうとしてたんだ。それで、なんでなんだろう、何となく気になっていつもは通らない横道に逸れた。大通りを出た直ぐの細い道……そもそもそんな道は前からあっただろうか。オレはその時初めてその道に気付いたんだ、それで……そっちへ向かってしまった。
狭い道。
オレは大概小柄な方らしいが、それでもそんなに余裕は無かった。それくらい狭い道を歩いて、歩いて、そしたら通り抜けができるようになってたみたいで向こう側に出た。でもな、変なんだ。通り抜けた、向こう側、そこは──ついさっきまでオレが居た筈の、大通りを出た直ぐの、いつもの町並みだった。
おかしいと思った、だって、明らかに変だ。変だから、不可解すぎて咄嗟にどうしたらよいかわからなかった……その時すぐに引き返せばよかったのに。
オレは何故かそこから足を進めてしまった。
見慣れた、すっかり風景として馴染んだ町並み……でもどうしてか歩けば歩くほど何か、違和感があって。上手くいえないけど……空気というか、感じるものが何か違う。 何か甘ったるいような、生温いような、……正直、不快だった。それにそして気付いた。
文字がおかしいんだ。
見知った店の立て札、交通案内の看板、コンビニのロゴ。およそ文字が書かれている筈の場所には全て、よくわからない記号が居座っていた。普段使っている言葉とは程遠い、見たこともない……読もうと試みすら出来ないような未知の羅列。
冷静に考えても何がなんだかわからなかった。路地に入ったとき気絶でもして、夢でも見てるのかと思ったけど感覚が生々しくてそうとも考えられない。
とりあえずどうしようかと、近くの道路標識を眺めていれば、ふと背後が騒がしくなった。どうも通行人が二人ほど、会話をしながらやってきたらしい。オレは普通に人が居ることに一旦安心したんだ、が、でも、その声が近付いて、そんな安堵も吹き飛んだ。
その人たちの言葉も おかしかった。全く聞いたことないような、イントネーションだけなら普通の会話なのに理解できない、わけのわからない言葉。
「竺軸宍雫オ。ヌス。ヲクヲオ七、而耳自蒔・ゥあ?」
「縁讐鐔ハクサ嵂ス、ム・ソ。シ・ 鰹輯鐔?鐔э秀鐔?終 」
当人達には通じ合っているらしい、ごく普通に、楽しげに話すその様子が、オレには呪文でも唱えているかのように聴こえて。
「なに、言って……?」
思わず呟いた。そして瞬間後悔した。
オレがそう言った瞬間、話していた二人が一気に押し黙り、ぐるんっと首をまわしてオレを見た。
頭ごと動かすように、こちらを注視する姿は明らかに異常で思わず後ずさる。二人はそれから少しの間沈黙して、そして互いを見合すと一人が電話を取り出した。よく見るタイプの携帯電話はすぐに相手と繋がったようで、相変わらず理解の出来ない言葉を操る。通話口からもよく耳をすませばボソボソ何か聞こえた。オレは、もう一刻も早くこの場を去りたい気分でいっぱいだったがもう一人のまるで見張るような視線に絡め取られて動けなかった。
二分も経っていなかったと思う。ずっと通話をしていた方の人が、何かを心得たように頷いて、そしてオレの方にその手に持った携帯を向ける。何事かと、今までとは別種の驚きに、通じないと知りながら訊ねようとした瞬間、通話口の向こうから声がした。
物凄く低い男の人の声で、なんだろうな、異国の言葉を無理矢理読み上げるような、たどたどしい調子で、
「そこ か ら うご か ない で。 くだ さい」
一文字一文字をゆっくり区切りながら、オレの慣れ親しんだ言葉が聞こえた。
でも何か違う。怖い。その声が耳に入った瞬間、ざらりとした違和感が鼓膜を嬲り、全身が総毛立ち感覚で理解した。──ここにいちゃいけない。
……どこかで土を蹴る音がした。それはオレが、二人から逃げ去った足音だった。背後で空気が揺らめく。追われてる?振り返る余裕は無かった。何故かその時、絶対に捕まっては駄目だと、そんな思考に囚われていて、でもあながち間違っていなかっただろうな。
走って、走って、走って。
熱に浮かされたかのように脚を動かして。
少しでも立ち止まったら恐怖に縛られそうだった。横目に流れていく見知った筈の不可解な街には、既視感と違和感が混在していて、全く未知ではないのが返って気持ち悪かった。いつもの街に帰りたかった。このまま帰れなかったらどうしようと不安が溢れて仕方なかった。
とにかく息が切れるまで走って。
辿り着いたのは全ての元凶の路地があった場所。その筈だったのに。
「…………嘘だろ」
こういうの、セオリー通りって言うんだろうな。
そこには、ただただ汚れた灰色の壁があるだけだった。
さっきの追っ手を撒けていたのはかなり幸運だったと思う。オレは、多分、もう限界で。思わずその場にへたり込んだ。別の場所へ逃げた方が良いのかもしれないと頭では気付いていたけど、もう体力も残ってないし、何より精神が消耗していてその場から動かないでいた。……例えば誰か知り合いの家に行ってみたりだとか。例えば、誰かに電話を掛けてみたりだとか。そんな事を考えなかったわけではなかったけれど、でも、もしそれでその人たちまでもがおかしな言葉を話し始めたとしたら。
オレの暗記している番号は一つだけだ。あの人に電話を掛けて、誰よりも安心をくれるあの声に止めを刺されたら、その時こそもう本当に駄目になるとそう思った。
どれくらい、そうしていたのかは覚えていない。
へたって縮こまって、腕の中に突っ伏したまま、心の底から途方にくれて痛んだと思う。暫くして、ふっと影が掛かったのが分かった。足音はしなかったのか、気付かなかっただけなのか、誰かが目の前に立っている事が見なくとも分かった。さっきの人達が戻ってきたのか、それとも電話の向こう側の声の主か。……今度こそ逃げられないのか。
覚悟を決めて顔をあげれば、しかし、そこに居たのは、一人の女の子だった。
やっと就学し始めたくらいの歳で、小さくて、何処かで会った事のあるような、それでいて全く知らないような、不思議な雰囲気の少女。座り込んだオレを怪訝に思ったのかこちらを覗き込むように首を傾げる。ふわりと小麦の香りが微かに鼻腔を擽った。その瞬間、理由も分からず切ないほどの懐かしさに襲われ思わず目の前の華奢な手に縋って呟いていた。
「帰りたい」
それは自分でも驚くぐらい情けない声で、
「帰りたい、元居た場所に、どうしよう、もう帰れないのか、言葉が通じないんだ。オレの言っていることも伝わってない、ここはどこなんだ、どうすれば良いんだ、どうすれば、オレは、オレの居場所に、戻れるんだ……?」
堰を切ったように零れ出る弱音は留まらず、疎通が出来ないのを良い事に独り言じみた泣き言を並べた。
女の子はまずオレを見て、はっとしたような顔をしたかと思えば恐らくは聞きなれない言語に困惑し、やがて迷うような素振りを見せたかと思えば決意したように頷いた。
「外枠界ヌ・輯・終? 」
掛けられた言葉は相変わらず理解不能だったが繕わないその幼い声に何故か嫌悪感は起こらず、ただ通じないことを身振りで答えた。女の子はそれからも幾度か訳せない質問を投げかける。その中で何とかわかったのは、どこから来たのかと尋ねられた時。その時ばかりはすぐ背中のアスファルトを指差し、腕で大きくバツ印を作って答えたのを覚えている。
やがて、稚拙なコミュニケーションの果てに少女はそっとオレの手を曳いた。
驚いて立ち上がれば、彼女は肩から提げた小さなポシェットから何か紙のようなものを取り出し、オレに向かって広げて見せる。それは、一枚の写真だった。中央に写るのは目の前の女の子。そしてその傍らに立つ、彼女によく似た雰囲気の優しげな男の人と、清潔そうなエプロンを纏う綺麗な女性。きっとそれは、女の子の、彼女の家族の、家の、写真だった。女の子はオレが目を通したのを確認すると、大事そうに、丁寧に家族を仕舞い直して、オレの手を握る力をそっと強めた。加えて問いかけるようにじっと、見上げてくる、そのまるで「あなたも帰りたいんでしょう?」と言いたげな瞳に思わず頷いた。
それからは、ただ、手を曳かれるままに。
ゆっくりと足を進める小さな案内人の後を追い、どこかおかしなよく知る町を歩いていく。時折見かける住人は、例外なく不可解な言語を操り、文字は読めないまま。女の子は何も喋らなかった。オレも黙ったままでいた。口を開いた瞬間静かな魔法がとけて脅威に襲われるような、そんな奇妙な緊張感があった。
やがて。
辿り着いたのは街の外れの巨大な古木。
見覚えの有り過ぎるその光景を見上げた時、路地を通り抜けてから初めて違和感が抜けて思わず駆け寄った。
これまでどんなに同じ風景を見ても、同じ道を歩いても、何処か違うと感じさせていた薄皮が剥がれたような気分で、咄嗟にその幹に触れようとしたその時、ふと小さな手がオレを止めた。振り返ってみれば、ここまで連れてきてくれた女の子が安心したように微笑んで、……礼を言い忘れていた事に気付いて恥ずかしくなる。あわてて「ありがとう」と、通じないだろうが口にすれば彼女は困ったようにはにかんで、そっと瞼を下ろすようジェスチャーをする。
素直に従い目を閉じれば、少女が導いたのか掌に固い樹皮が触れるのがわかった。すると、途端にくらりと目が回る。
眩暈、同時に込み上げてきたのは臓腑にとぐろを巻く気持ち悪さ、付随する吐き気。次いで体が浮く感じがして、強烈な眠気に包まれる。あぁ、移動するんだ、と直感で思った。 頭の中に、あの路地の風景が浮かんで消える。一瞬だけ、女の子の声が聞こえたような気がしたが、何故か申し訳無さそうなその声は気のせいだったのかもしれない。 寒気を伴うその幻聴を判別する間もなく目の前が真っ白に光った。
──次に気付いた時、オレは最初道を違えた大通りに呆然と立ち尽くしていた。
近くには木も無く女の子も居らず、はっとして時間を見ると路地に入った時から五分も経っていない。
一体、一体今までのはなんだったのか。あれは現実?それとも白昼夢?
じわりじわりと込み上げる混乱に、脚を縺れさせながら本通りまで駆けた。道行く人の会話、通り過ぎていく識字、全て認識出来ることを確認しながら。本当に帰って来られた……?
「っ、何事ですか……?」
当てもなく走らせていた体が、不意に何かにぶつかり止まる。
気付き見上げて、そこに居たのは他でもない、自分の親代わりのあの人で。
……一気に安堵感が押し寄せて、その体温にしがみつきながら息が詰まらない様に保つのが精一杯だった。
────これが、ついさっきオレの体験してきた話。長々とごめん、でも、どうしても聞いて欲しくて……どうしても訊きたい事があって。
……なぁ、オレはあの世界から脱却して、確かに言葉も通じるようになった、看板も表札もちゃんと読めるし挨拶をすれば返事が返ってくる。でも、なんでだろうどうしても、何かがすっきりしないんだ。もやもやする、腑に落ちない、違和感。
落ち着くまでと家に招いてくれた、オレの保護者は補聴器をつけていただろうか?
見上げるこの街のヒーローたる##RUBY#彼女#、、##の髪はあんなにも長かっただろうか?
道すがらすれ違った、自分と縁が深かったような、退役軍人の軍服は前から青かっただろうか?
オレは、
……オレは本当にヵえって来られたノだ鐔シ・ 鰹輯・終?
【end】
2/2ページ