後日談 Ⅵ
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オレの
ダイニングテーブルに置かれた既視感のあるメモを読みながら、オレは蘇生したての眠い目を擦った。
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「というわけでイチさんのためにこれを作りました」
「おぉ……」
伝言メモに従って、相も変わらず研究室然としたスニッフルズ少年の家を訪ねれば「今日はおひとりなんですね」と、安心したように頷くスニフこそ今日はナッティが張り付いていない。
やがて招き入れられるや否や、半ば押し付けるように差し出されたのは、
「コーヒーミル?」
「見た目は! 急拵えなのでそうですが機能としては通信機器……いわゆる電話です!」
受け取ればそれはやはりどう見ても珈琲豆の手動粉砕器にしか見えないのだけれど。広げた両手の平に載ってしまうほどのサイズの、木と真鍮の組み合わさったミニチュアサイズのコーヒーミル……だが、確かによく見ればミルカバーの部分に集音のための細かい穴が空き、ハンドル周りに小さな数字が書いてある。どうやら本当に通信機として使うらしい。
オレのために、という事なのでひとまず礼を言う。が、しかし。
「残念だがうちには電話回線がない」
「イチさんはそう言うと思って無線で送受信可能な
「そう言うと思われてたのか」
「動力も単三電池にしておきました」
「オレもコンセントくらいは知ってるんだが……」
「エネルギー残量が切れそうになったらけたたましく泣き叫ぶ仕様になっているのでちゃんと電池交換してくださいね」
「…………」
どうしてそんな仕様にしてしまったのか、と思うところがないでは無いが。回線を使わない独立無線、つまり機能としては電話というよりもトランシーバーといったところか。しかしながらスニフにはこれまで我が家に電話が無いことで何度も不通になりこうして手間を掛けさせているのだからオレに文句を言う筋合いはない。と、甘んじていれば白衣の少年はやや慌てたように弁解を述べた。
「あ、いえ別にそれは良いんですけど。イチさんいつもこうやって来てくれますし……」
鼻筋に沿ってずり下がる眼鏡をがちゃがちゃ押し上げたかと思うと、不可思議そうに首を傾げる。そして続く言葉にオレは一瞬、目を見開いた。
「ただ、何故か分からないんですけど急に、イチさんと連絡が取れないと困る? ような気がして」
どうしてですかね?
そう繰り返し独り言ちる様子が本当に珍しいと感じるのは、いつものスニッフルズであれば不可解を“不可解”のまま放っておく訳がないと知っているからだ。
それをしないのは、その“解”が辿り着いてはいけない場所にあると、世界がそう決めているから。
……そういえば同じこの場所で、いつか
「スニフ」
振り向いた眼鏡の少年に、もう憂慮の顔色は浮かんでいない。
それは他の皆と同じように、きっとその記憶が一連の出来事ごと共に消えてしまったからなのだろうけれど──消えてしまったとはいえ。
あの時オレは必死で、目の前の零の事しか目に入っていなかった。だからだろうか。今更のように、あの時横目で見たスニッフルズの泣きそうな顔を、この瞬間、やけに思い出す。結果的に
その既に無い筈の傷は疑いようもなく自分の犯した罪で。そして名前や、鍵や感情や関係のように、これもまたこの世界に残されたオレの手に残ったもののひとつなのだろう。
「ありがとう」
何も覚えていないスニフに、謝る訳にもいかないので密かに罪悪感を溶かした礼を口にすると、スニッフルズはそれを無線機に対する再度の感謝だと理解したらしい。
「オレはもうどこにも行かないから」
重ねて贖罪のようにそれを口にした瞬間、何か取り除きそこねた小骨を歯むような違和感を覚えるが、
「電話を掛けてくれても、メモでも、いつでも」
いつでも呼んでくれ。
そう告げれば唐突に随分と大仰なことを言うオレに、不可解さを深めたスニフは小首を傾げる。そうしてややついていけないというように「はぁ、では遠慮なく」と食傷気味に頷いた。
「役に立つものが出来たのなら良かったです」
(あとは単純に作ってみたかっただけですが)
(創作意欲が満たされたのなら何よりだ)
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