終幕
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改めて考えてみたんだ。
口火を切れば、続く言葉は意外にもスムーズに出た。大丈夫。言う事も、やる事も分かっている。ずっとそう決めていたのだから。
「オレは……元々はクッションみたいなものだったんじゃないかな」
どう説明したら分かりやすいのか、オレは慎重に言葉を選びながら口を動かす。
しかし急に出てきた日常的な単語に零は虚を衝かれたような声を出した。
「……はあ?」
クッションっていうか、なんといえばいいのだろう、零の身体と、この世界の間における、緩衝材。
「初めに、本当の初め、あの街に来る以前の話だけど、──零は、壱を忘れたくないって本気で願ってて、でも、それ許してしまうとこの世界の統合が取れなくなると思ったんじゃないかな」
「誰が?」
「わからない……あえて言うなら神様とか、ハッピーツリー自体とか。ともかく、オレたちより
零の記憶を弄ろうとした、その存在。この仕組みそのもの。
「壱のことを覚えたままでいると、きっと零は自分が死んだことも忘れられない。でもその全てを知っている零をこの世界につれてきてしまったら、この世界で保たれている秩序が乱れる」
「……それで?」
「それで、カミサマは零を閉じ込めることにしたんだと思う。実際、そうだったんだよね?そのときカミサマは零を閉じ込めるための『クッション』みたいなものを作ったんだと思う。零がもう一度自分の肉体を支配して出てくることが、ないように。それで、『クッション』しか入ってない、抜け殻の身体だけが残った」
自分が死んだことを思い出してはいけない。
自分が殺人者であることに気付いてはいけない。
その戒律に矛盾する零の願いは言うなればカンニング行為のようなもので、恐らくはこの世界を支配しているのだろうカミサマは彼女に代償を科す。
「でも、この身体には緩衝材の他に残っているものが、離されずに耐えた物が、まだ少しだけあった」
「…………こびりついた、私の壱への執念?私の、魂の少し……」
まさか始まりまで紐解かれると思っていなかったのか、呆然と呟く零に頷いて見せた。
「零の想いは強すぎて、クッションでは抑えきれなかった。でも表に出すわけにはいかない。そして二つは同調した。抑止しきれないから取り込んだ。そうやって、公正な筈の緩衝材は、少しだけ零に傾いた」
無い筈の記憶を掠める奇妙な感覚。
知っている話を読んだ時、沸きあがった微かな感情。
初めて金色の瞳を見たときの、あの親近感。
そして何よりも不安定に揺らいでいた頭の中の白い霧。
この街で得たのではないにも関わらずオレの中にあったこれらは、本来ならば表に出てくることのなかったものたち。
……オレは自分の胸に軽く手を宛てる。心が宿るのだといわれている心臓。
ぜんぶ、緩衝材が僅かにでも、零の想いに引き摺られていたからこその現象だったのだ。オレと零を繋いでいたのは、他でもない、零の壱への気持ちだった。
「あとは大体、零が教えてくれた通り。その身体がこの世界に堕ちるとき、零のいうところの雑音が混じった。その『クッション』に、体の本来が持つ性格、習性、それと『周囲からの寄せ集め』がくっついた。そうやって出来たのが『イチ』、オレなんだ」
零にこの世界の理を教わってから。自分の正体を知ってから。ランピーに着いて行く道すがら。零の願いを知ったその瞬間。
ずっとずっと考え続けてきた持論を明かしていく。
けれど話せば話すほど、零の表情は驚きからより険しいものへと変わっていく。
「だから?」
そう問い返すときにはもう殆ど睨むようにして。
まるで初対面のときのような反応に戸惑いながら、それでもオレは結論を言う。
「……うん。だから、多分、その雑音を省けば、……今、『イチ』って呼ばれてる部分を全部無くせばきっと、零の魂の欠片は零に返る。そうしたら、零は、ここから出て、輪廻の輪に加わる事ができる……壱が居る世界に、帰れるんじゃないかな、って」
つまりは、そういうことだ。
オレさえ居なくなれば、零は自由になれるのだ。
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