意義
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フリッピーが、緑色の目をしたフリッピーが何かを言いかけるのが目の端に映る。その口が開く寸前に、後ろから伸びた手に塞がれていた。
同じ顔、自分の分身を止めた金の瞳は伏せられていたけど、結局、創造主の幸せを願うオレとあの金色は、誰よりも似ていたのかもしれない。
だからずっと……感じていた親近感と焦燥感は、その使命を忠実に果たす姿が羨ましくて、劣等感で、憧れで、賞賛で、きっとオレとしてある筈はなくそれでも生まれた本能のようなものだったのだろう。
ただそれ故に、オレ達は同じ側に立つことも難しいのだろうけれど。人間の腕は二本しかないし、それ程長くもない。一番大事な人を護るので精一杯、手一杯だ。そしてそれでいい。
それでもオレの望みをそれなりに叶えてくれるその手はやっぱり、お人よしと呼ばれる人の片割れだけはある。
オレは掌の中の二人分の錠剤を強く握り締めた。
立ち位置を決めかねているかのように、居心地の悪そうなランピーを一瞥して黙らせる。その手は泣き出しそうなスニフの両肩に載っていた。
薬を手放し、ふらりと一歩下がった零の背中が壁についたのを見て、オレはようやく口を開いた。
「オレがいなくなっても零は多分、この街から出られない」
突然話し始めたオレに、零は困惑げに眉根を寄せる。それに構わず、すっと顔を上げて続けた。
「今だって、零はこの世界に留まったままでいる」
意識も記憶もある零は、身体から『異物』に近いオレを排除した今、この街を出る『条件』を満たした状態に限りなく近い。それでも零はここにいる。
その状況はきっと、オレが消えたところで何も変わらない。
「例えばオレが居なくなったとして、」
その仮定に、室内の空気が揺れるが無視して言う。
「壱の居ない世界で、これからどうするの。永遠に生き続けるの?それとも永遠に死に続けるの?」
「……私を怒らせたいの」
「違う。オレは零がどうしたいのかを知りたい。零の望みが知りたい」
挑発的にも取れるオレの言葉に、零の瞳で僅かに怒りが燻った。それでもオレは問うことを止めない。
「壱に会えないまま、ずっとそうやって過去に縋って暮らすの?」
恐らくは何が何だか分からないだろう会話に、入ってくる者はいない。口を開くのはといえば、オレと、零だけ。
「私は、」
「今だって」
怒りに任せて反論するようにみせかけて、その実零の目線は戸惑うように下がっている。それを見てオレは最後まで言わせず切り捨てる。
「今だって零は壱の事しか考えてない、……自分のことすら碌に考えてない」
一歩、足を進める。
ぎくりと零が身じろいだ。
「壱の居ない世界でずっと独りで……それが、本当に零の望みなの?」
もしも、今。
零が頷いたとしたら、オレは薬を捨てる気でいた。零がそうしたいのなら、それを受け入れる気でいた。
でも──、
「違うっ!!」
壁を背に、拳を握り、反射のように零が言うから。
「じゃあ何を望むの」
だからオレは畳み掛けるように問いかけて、追い詰める。零の本音が聴けるように。
己がとんでもない失言をしたかのように目を見開く零に、また一歩近付いて冷静を盗む。
今朝までとは打って変わったオレの態度に戸惑うのか焦りが滲む姿を見ながら、それでも今は少しも引く気はなかった。
やがて、零は碌に繕う余裕もなく、
「私は……私はっ…… 壱の居ない世界なんて……でも、私の、望み、は」
「うん」
紡ぐ言葉を、口に出しながら確かめるように一言ずつ、ゆっくりと零していく。
「ただ壱が笑っててくれて、それだけで……でも、でも本当は──」
──その、壱の側に、私も、ずっと居たかった。
「……うん。わかった」
ぽそり、と本心を漏らした零に、オレはただ頷いた。
そして禁忌を口にしたかのように放心する、自分の生みの親に、誰よりも大事な存在に手を伸ばす。
慄く様に一瞬震えた零はそれでも拒絶はせずに。
やっと触れることのできた頬はすごく温かかった。
「ランピーお願い、伝言」
喜びなのか悲しみなのか、寂寞とした感情に上ずり掠れた声でどうにか呟けば、オレの主治医はいつものように、明るく軽い調子で応えてくれた。
「なぁに?メッセージもう一回再生する?」
「いい。オレからの伝言だから」
伝えておいてくれると、助かる。
そう囁きながら、誰に宛ててなのかは、自分でもよく分からなかった。モールさんには当然、それから、ランピー本人にも、それに、願わくばもっと、ずっと色んな人に。
「……『ありがとう』と、『ごめんなさい』を」
言い終えるや否やオレは口を大きく開け、手の中の錠剤を全て流し込んだ。二人分を残すことなく放り込んだ、奇怪とも言えるその行動に今度こそその場に居る全員の……オレを除く五人が等しく驚き、スニフの表情が固まったのが見えた。
眼鏡越しのその若い目に、オレの姿は一体どんな風に映ってるのだろうか。
──愚かなりにも精一杯大事なものを救おうとしてるように、映ってればいいな。
そんな願いを込めるように、オレは零に顔を近づけ、そして有無を言わさずその口を塞ぐ。
言い方を変えるならばそう、眠り姫を起こす王子みたいに、呪いを解く少女のように、自分の企みがうまくいきますようにと祈りながらオレは、零に口付けた。
【end】
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