意義
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「見てください、これです」
そう言ってスニッフルズは見覚えのある小瓶を振った。
「この通り、錠剤です……イチさん、瓶は同じでも中身は違いますからね」
どうも目つきが胡乱げなそれになっていたらしい。窘められた。しかしかつてその瓶に入っていた薬で苦労した身としては仕方が無いと思う。
それでも、ごめんとスニフに先を促す。
「え、と、続けます。サイズをここまで小さくした代わりに容量が少し多くて一回三錠です。水無しでも飲めるようになってますから安心してください」
まるっきり風邪薬か何かの説明である。
「ちゃんと二人共が飲んでねぇ?あ、ふたりって言うのは分裂しちゃった両方って意味ねっ」
ひょいと身を屈め、人差し指を立てながらランピーが言う。
その言葉に軽く頷いたオレと、ふん、と鼻を鳴らした、そういう事をしそうな方のフリッピー。零は横目でちら、と瓶を見るだけで無反応。残る一人は、
「質問、いいかな?」
「はぁい、どーぞーフリッピーくんっ」
軽く手を挙げた元軍人と、指名する白衣の男。見た目はともかく完璧に教師と生徒だ。
それを証拠に、ここは教室か、と、白けた視線が目測で三つ。そんなものに構わず天然と鈍感は会話を続けた。
「その薬を飲めばいいんだよね。タイミングとかは決まってる?例えば……同時に飲まないといけないとか」
「うぅん、よくある質問って感じだねぇ。じゃ、スニフくんトリセツ読んでっ」
ランピーの指示に、ごそごそと紙片を取り出すスニッフルズ。
……あるのか、取扱説明書。
やがて四つ折にされたプリントを広げながらスニフは眼鏡のズレをなおした。
「同時に飲む必要はないです」
それは多分、ノートのページを破いたもの。製薬方法が書かれているのか、ところどころよれている。どこか緊張している様子のスニフや、見た目だけはふざけている様にしか見えないランピーの、努力してくれた跡なのだろう。
「さすがに何日も間隔を空けていいって訳じゃないですけど、基本的には確実に二人ともが薬品を摂取していれば、問題ないです。えっと、でも、逆に言うなら一人だけが飲んでも効果はナシです」
「だってさ」
納得した?戯けるランピーに、フリッピーは聞き分けよく頷く。
それを見てスニフが薬瓶の蓋を捻った。
一番近く居た零に、恐る恐る三錠。そして、
「……」
「あ、ごめん。僕が貰うよ」
意図的に目付きの悪い片割れの前に出たフリッピーに六錠。
「もし、一人しか飲まなかったらど」
「どうにもなりません」
訊ねようとしたオレにも三錠。
「特に害もない代わりに、どうにもなりませんから。……飲まないなんて、止めてくださいよ」
「……気になっただけだよ。ごめん」
言いながら掌にしっかり三粒受け取ると、スニフは安堵したように息を吐いた。それから、きっ、とフリッピー達の方も見据える。
「え?あ、大丈夫ちゃんと飲むから。……飲むよね?」
「……言う通りにしてやるよ」
しょうがねぇから。と舌打ち満載で吐き捨てる金色の目から逃げるように、白衣の少年は視線を移す。
その眼鏡越しに目を遣るのは必然的に零で。
しかし零は黙ったまま、喋らない。受け取った錠剤を見て、顔を上げ、オレを見つめる。
「……ねぇ」
そしてどこか苦しげな表情で言う。
「私がこれを飲む必要はないんだけど」
反応は、区々だった。
大きく目を見開くスニッフルズ。困ったように無音で笑うランピー。驚いて息を呑んだフリッピーと、何故か全然驚いてないフリッピー。
オレといえば、それらのどれにも当て嵌まらない。驚きもしなければ苦笑もしない。ただ黙っているつもりも無い。
「家からここに来るまで、歩きながら色々考えてた」
自分と同じ、黒い瞳を見据えて静かに言い返す。
「それで、零はそう言うだろうなって、思ってた」
「そう。話が早くてなによりね」
零はどこか不足そうに、また皮肉に笑う。オレは微かにも笑えないまま。
「ちょっと待った!」
会話に割り込んできたのは、つい今まで息を呑んでいた緑の瞳。
「待ってよ、そんなの、だって君は消えちゃうかもしれないんだよ!?」
全く持って、文字通り他人事の筈なのに、フリッピーは焦ったように諭そうとする。その手には彼の片割れの命綱がしっかりと握られていた。
しかしそれでも、零は冷淡なまでに切り返す。
「私は消えない」
「消えるのはオレだから」
呼応させるように言えば、一瞬だけ零の肩が震えた気がした。
若草の髪が衝撃に揺れる。スニフが「うそ」と呟いた。後の二人が動じないのは、知っていたからなのか察していたからなのか、それとも表に出していないだけなのか。
「零は消えない。肉体と一緒に生を享けた人格はそんなに脆くない」
オレは周りに構わず零だけを見据えて言葉を渡す。
促すように、後押しするように。
「そう、私は消えない。あんたが消える。だって所詮あんたは最初から存在しなかった筈のバグに過ぎないんだから」
促されるように、流されるように。
熱に浮かされたような口調で零は呟く。
「壱の記憶は全部私が持ってる。あんたには過去も何にもない。それはわかってる。だけど、あんたは私から生まれたくせに、」
ぎゅっと唇を噛み締めて言い澱む、その仕草に続きを急かすようにオレは少しずつ零に向かって歩き出す。
スニーカーが床を擦る音に、零はぐっと拳を握り、声量を上げた。
「それなのになんで壱のことを忘れたまま生きていられるの、どうしてそうやってのうのうと生きてるの?なんでそう楽しそうにしてられるの?元は私の筈なのに、私の一番大事な存在のことをちっとも覚えてないのがどうしても理解できないの。壱が居ない日々を当たり前に過ごしていくのが理解できないの。私と同じ形をしたモノが、壱をちっとも覚えてないくせにそうやって息をして生きているのが許せないの!ねぇわかる?」
その心を裂く叫びに、涙の無い号哭に、縋りつくような問いかけに、どう答えられたならば正解なのか。
分からないまま木偶みたいに口を閉ざすオレは本当に役立たずで。
「言ったでしょ、出来損ないって」
どこか自嘲めいた零の呟きに、ただその通りだと心中で同意する。
目の前にある零の体。その自分と同じ細い肩に、自分とはまるで比べ物にならない重荷が載っていたのを知っている。抱え込んで背負い込んで、もうどうしようもなくなったって捨てられない物に繋がれて、零はまだ、縛られたままだ。
「あんたが」
あんたが悪くないのは知ってるけど。
小さくて、ほとんど搾り出すような声。
それと共にとん、とオレの胸に零の拳があたる。受け皿のようにその下で手を開けば、ざらざらと錠剤が零れ落ちてきた。
「私は、あんたなんか、要らない」
顔を俯かせたまま、零は一瞬泳いだ目線の照準を合わせ直して、上目遣いにオレをしっかりと睨んだ。
まるで、迷いを断ち切るかのように。
「あんたなんか、消えちゃえばいい」
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「見てください、これです」
そう言ってスニッフルズは見覚えのある小瓶を振った。
「この通り、錠剤です……イチさん、瓶は同じでも中身は違いますからね」
どうも目つきが胡乱げなそれになっていたらしい。窘められた。しかしかつてその瓶に入っていた薬で苦労した身としては仕方が無いと思う。
それでも、ごめんとスニフに先を促す。
「え、と、続けます。サイズをここまで小さくした代わりに容量が少し多くて一回三錠です。水無しでも飲めるようになってますから安心してください」
まるっきり風邪薬か何かの説明である。
「ちゃんと二人共が飲んでねぇ?あ、ふたりって言うのは分裂しちゃった両方って意味ねっ」
ひょいと身を屈め、人差し指を立てながらランピーが言う。
その言葉に軽く頷いたオレと、ふん、と鼻を鳴らした、そういう事をしそうな方のフリッピー。零は横目でちら、と瓶を見るだけで無反応。残る一人は、
「質問、いいかな?」
「はぁい、どーぞーフリッピーくんっ」
軽く手を挙げた元軍人と、指名する白衣の男。見た目はともかく完璧に教師と生徒だ。
それを証拠に、ここは教室か、と、白けた視線が目測で三つ。そんなものに構わず天然と鈍感は会話を続けた。
「その薬を飲めばいいんだよね。タイミングとかは決まってる?例えば……同時に飲まないといけないとか」
「うぅん、よくある質問って感じだねぇ。じゃ、スニフくんトリセツ読んでっ」
ランピーの指示に、ごそごそと紙片を取り出すスニッフルズ。
……あるのか、取扱説明書。
やがて四つ折にされたプリントを広げながらスニフは眼鏡のズレをなおした。
「同時に飲む必要はないです」
それは多分、ノートのページを破いたもの。製薬方法が書かれているのか、ところどころよれている。どこか緊張している様子のスニフや、見た目だけはふざけている様にしか見えないランピーの、努力してくれた跡なのだろう。
「さすがに何日も間隔を空けていいって訳じゃないですけど、基本的には確実に二人ともが薬品を摂取していれば、問題ないです。えっと、でも、逆に言うなら一人だけが飲んでも効果はナシです」
「だってさ」
納得した?戯けるランピーに、フリッピーは聞き分けよく頷く。
それを見てスニフが薬瓶の蓋を捻った。
一番近く居た零に、恐る恐る三錠。そして、
「……」
「あ、ごめん。僕が貰うよ」
意図的に目付きの悪い片割れの前に出たフリッピーに六錠。
「もし、一人しか飲まなかったらど」
「どうにもなりません」
訊ねようとしたオレにも三錠。
「特に害もない代わりに、どうにもなりませんから。……飲まないなんて、止めてくださいよ」
「……気になっただけだよ。ごめん」
言いながら掌にしっかり三粒受け取ると、スニフは安堵したように息を吐いた。それから、きっ、とフリッピー達の方も見据える。
「え?あ、大丈夫ちゃんと飲むから。……飲むよね?」
「……言う通りにしてやるよ」
しょうがねぇから。と舌打ち満載で吐き捨てる金色の目から逃げるように、白衣の少年は視線を移す。
その眼鏡越しに目を遣るのは必然的に零で。
しかし零は黙ったまま、喋らない。受け取った錠剤を見て、顔を上げ、オレを見つめる。
「……ねぇ」
そしてどこか苦しげな表情で言う。
「私がこれを飲む必要はないんだけど」
反応は、区々だった。
大きく目を見開くスニッフルズ。困ったように無音で笑うランピー。驚いて息を呑んだフリッピーと、何故か全然驚いてないフリッピー。
オレといえば、それらのどれにも当て嵌まらない。驚きもしなければ苦笑もしない。ただ黙っているつもりも無い。
「家からここに来るまで、歩きながら色々考えてた」
自分と同じ、黒い瞳を見据えて静かに言い返す。
「それで、零はそう言うだろうなって、思ってた」
「そう。話が早くてなによりね」
零はどこか不足そうに、また皮肉に笑う。オレは微かにも笑えないまま。
「ちょっと待った!」
会話に割り込んできたのは、つい今まで息を呑んでいた緑の瞳。
「待ってよ、そんなの、だって君は消えちゃうかもしれないんだよ!?」
全く持って、文字通り他人事の筈なのに、フリッピーは焦ったように諭そうとする。その手には彼の片割れの命綱がしっかりと握られていた。
しかしそれでも、零は冷淡なまでに切り返す。
「私は消えない」
「消えるのはオレだから」
呼応させるように言えば、一瞬だけ零の肩が震えた気がした。
若草の髪が衝撃に揺れる。スニフが「うそ」と呟いた。後の二人が動じないのは、知っていたからなのか察していたからなのか、それとも表に出していないだけなのか。
「零は消えない。肉体と一緒に生を享けた人格はそんなに脆くない」
オレは周りに構わず零だけを見据えて言葉を渡す。
促すように、後押しするように。
「そう、私は消えない。あんたが消える。だって所詮あんたは最初から存在しなかった筈のバグに過ぎないんだから」
促されるように、流されるように。
熱に浮かされたような口調で零は呟く。
「壱の記憶は全部私が持ってる。あんたには過去も何にもない。それはわかってる。だけど、あんたは私から生まれたくせに、」
ぎゅっと唇を噛み締めて言い澱む、その仕草に続きを急かすようにオレは少しずつ零に向かって歩き出す。
スニーカーが床を擦る音に、零はぐっと拳を握り、声量を上げた。
「それなのになんで壱のことを忘れたまま生きていられるの、どうしてそうやってのうのうと生きてるの?なんでそう楽しそうにしてられるの?元は私の筈なのに、私の一番大事な存在のことをちっとも覚えてないのがどうしても理解できないの。壱が居ない日々を当たり前に過ごしていくのが理解できないの。私と同じ形をしたモノが、壱をちっとも覚えてないくせにそうやって息をして生きているのが許せないの!ねぇわかる?」
その心を裂く叫びに、涙の無い号哭に、縋りつくような問いかけに、どう答えられたならば正解なのか。
分からないまま木偶みたいに口を閉ざすオレは本当に役立たずで。
「言ったでしょ、出来損ないって」
どこか自嘲めいた零の呟きに、ただその通りだと心中で同意する。
目の前にある零の体。その自分と同じ細い肩に、自分とはまるで比べ物にならない重荷が載っていたのを知っている。抱え込んで背負い込んで、もうどうしようもなくなったって捨てられない物に繋がれて、零はまだ、縛られたままだ。
「あんたが」
あんたが悪くないのは知ってるけど。
小さくて、ほとんど搾り出すような声。
それと共にとん、とオレの胸に零の拳があたる。受け皿のようにその下で手を開けば、ざらざらと錠剤が零れ落ちてきた。
「私は、あんたなんか、要らない」
顔を俯かせたまま、零は一瞬泳いだ目線の照準を合わせ直して、上目遣いにオレをしっかりと睨んだ。
まるで、迷いを断ち切るかのように。
「あんたなんか、消えちゃえばいい」
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