意義
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白衣のランピーについて行けば、予想に違わず辿り着いたのはスニフの家だった。
そして中には、
「大丈夫ですよ!ちゃんと実験も成功したし、副作用も出ませんでしたし!」
同じく白衣の、盛大な寝癖をピンで留めているスニッフルズと、その力説を微妙に不安が滲む顔で大人しく聞いているフリッピーと、
「どうでもいいからさッさと済ませろ面倒臭ぇ」
あんまり大人しくは聞いていないフリッピーが居た。
どうも最後まで揃わなかったオレと零をランピーが呼びに来たという事らしい。その当の本人は現在ドアストッパーと化している。
「やほー、お待たせぇ!連れてきたよっ」
言いながらランピーはさらに大きく扉を開ける。
その開いたドアをすっ、とくぐったのは零だ。
話を中断され、さっきまで不満げな顔をしていたのだが、オレと一緒にここまで着いてきてくれた。
相変わらず実験器具だか医療機材だか判別もつかないような物が犇めき合っている室内で、最初に闖入者に気付いたのは、緑の目をしたフリッピーだった。
「こんにちは」
にこやかに言いながら、さり気なく自分の分身の前に出る。
それは多分、金色と黒色の不穏な睨み合いの動線を遮るため。
フリッピーは雰囲気を察して動いたんだろうが、オレとしても零が“自分と同じ事をした癖に赦された”フリッピーを嫌っている事を知った今、放って置く訳にもいかない。というより、両者の性格からして放って置くと間違いなく厄介なことになるだろう。
急いでフォローの加勢をしようと、敷居を跨いで、一歩踏み出そうとした、その時だった。
「あっ、そーだった」
呟きのような小さな閃きの言葉と共に、ぐいっと右腕が引かれた。
「伝言」
誰に、なんて考えるまでもなく、オレの後ろにはたった今ドアを閉めたランピーしかいない。
頭半分程振り返りかけた所で、耳元に静かな囁きが落ちた。
「『もし元に戻らなかった時はうちへ帰って来なさい。ただし今度も一ヶ月だけですからね』」
普段とは違って淡々と、決まった台詞を読み上げるような声。
「そ、れ……っ」
誰からの。
目を見開いて、そんな分かりきった事を問いただそうとした瞬間、腕を離され、バランスを崩したオレはとっさに踏ん張り転倒を防ぐ。その横をすっかりいつも通りの気楽な調子で、すり抜けて行くランピーを呆然と見送る。
「じゃっ、ちゃぁんと伝えたからねぇ?」
コキっと首を鳴らしながらの適当な念押しが、滑るように流れて消える。
もし元に戻らなかったら。
そんな仮定が、オレに存在しない事をあの人は知っている筈なのに。その条件が満ちた時、きっとオレはここには居ないしそれに──、
「元に戻っても…………」
オレは落ちかけた視線を前に戻す。
思わず漏れた声が、誰にも届いていないことに安堵しながら顔を上げる。
きっとモールさんは、全部お見通しなんだろう。オレが何を考えてるかなんて、あの氷みたいな綺麗な目で、何もかも。それでも。
……『帰って』来なさい、って言ってくれるんだ。
「イチさん?」
いつまで経ってもドアの前で突っ立っているのが気に掛かったのか、スニッフルズが怪訝そうにこちらを覗う。よく見れば、視線を向けているのはスニフだけじゃなかった。ランピーもフリッピーも、金目の方のフリッピーでさえ。そして零も。
オレはそれをぐるりと見返して、考えてみれば変な面子だなあなんて何故か暢気に思いながら、応える。
「うん。今いくよ」
溢れないように。失くさないように。貰った言葉を心にしまって。
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