雑音
name change
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オレはもともと存在しないモノ。
人格なんて初めからないただのイレモノ。
感情があるように見えるのは、壱を思う零の『念い』に、色んな、零の言うところの『雑音』が反射しているだけ。
記憶など初めから存在しない。
感情など持ち得ている筈もない。
──月が光っているように見えるのは、ただ太陽の光を跳ね返しているだけの現象にすぎない。
オレはじっと見つめる。
「でも、そうかも知れないけど」
零を、見つめる。
「今、オレが持っているこの気持ちは……きっと“オレの気持ち”だ」
「なにが言いたいの」
穏やかに語り終えた筈の零が、少し動揺したのが判った。
「確かに、オレなんて人格は元からなかったのかも知れない。今のこの『オレ』は、……街の、皆の反射なんだろうと思う」
お手本がなければ、考えることも出来ない人形のように。
本来であれば拒絶したくなるのだろう真実に、しかしながら妙な納得と理解があった。
思えば初めての一ヶ月が過ぎた頃、オレはモールさんと反応が似ていると、ランピーはよく言っていた。
街に出て、他の人に会うようになってからは、何度聞こえてきたことだろう──イチは、××に似ている、と。
そういうところは××みたいだ。
だんだん、××に似てきたね?
イチを見てると××を思い出すよ。
また××みたいなこと言って。
なんか××そっくりよ。
ああ、それって××と同じだね。
──伏字の数は、親しくなる名前が増える度に増えていく。
そうやって照らされて、人形は人間の振りをする。
一人では暗いままの月のように。
まるで自分自身も光を発しているかのように。
「でも、初まりがそうだったとしても、そう見えるだけだとしても、ずっと光を受け続けていればそのうち月は輝き始める」
ずっとずっと、たくさんの人に……気持ちに照らされ続ければ、人形が本当に人間モドキにくらいはなれたって、おかしくない。
だって、そうだろう。
間違いなく、今のオレの気持ち──“零を想う気持ち”はオレにしかないものだ。
誰の、反射でもありえない。
「そ、そんなの、」
零は一瞬怯んだ様に見えたが、それでもきっと睨んで言い返す。
「そんなのただの思い込み、あんたがそう思いたいだけでしょ!?いくら人間みたいに振舞えたって人形は人形でしかないの!しかも出来損ないのね──プログラミングされたロボットと同じよ、自我を持っているように見えても、所詮それはプログラムに従ってるだけ!」
「それは、確かにそうかもしれない」
もしも。
もしも最初に出会ったのがモールさんでなければ。主治医がランピーでなければ。
友達が居ないままだったら。
英雄と違う出会い方をしていれば。
フリッピー達に会わなければ。
そうやって少しでも、ほんの一瞬の差異でも『プログラム』に誤差があったなら。
オレはこの場には居なかった。
いや、オレの代わり、『零から離れた思念の塊』は存在していただろう。でもそれは違うコードで形成された、今のオレとは違う誰かだ。
でも、例えそうだとしても。
「そうだとしても、この『オレ』が偶然できたシロモノだとしても、替えが効くとしても……」
続ける事を咎めるように、ぐっ、とこっちを睨みつける双眸。
その目にオレは、どんな風に映ってるんだろう。反射した黒い虚像が零の瞳の中で口を開いた。
「オレは──」
その瞬間、遠くでばたんとドアの開閉する音がした。
はっとして壁越しに玄関の方を見やれば、零も同じように顔を向けた。誰か入ってきたらしい。
耳を澄ませば微かに足音。オレはそっとベッドから降りた。
そしてがちゃりと扉が開く。
「──あ、お邪魔だったかなっ?」
顔を覗かせたランピーは白衣を着ていた。
そうだ、オレは一度リセットされた。ということは今日が、
……三日目。
【end】
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