INTERVAL
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街の子供達や、何処かの誰かが割合頻繁に屯ろしている児童公園。
それなりに使用感のある遊具や廃れたベンチは、しかし今日に限っては沈黙し、そこにはまるで避難勧告が出されているかのように生きている者は人っ子ひとり居なかった。
──大量の血溜りと、そして二人の人影を除いて。
「はははっ覚醒くん、そろそろ落ち着いてくれないかい?」
ぶぉん、と、一つの影が俄かに小さくなる。いや、空に浮かび上がる。
それを狙い済ましたように、たった数秒前までスプレンディドがいた空間をナイフが切り裂いた。
「死ねッッ!」
一拍遅れて地を這うが如き低音が吼える。
覚醒、フリッピー、他、異名の多い金眼は苛立ちを隠さず外した攻撃を切り替えた。手にした無骨なアーミーナイフを返す刀で投擲する。光を反射しない艶消しの黒い刃、
ひらりと赤いマントが翻った。
「死なないよ!ほら、お茶でも淹れようか?」
「ッらねぇ死ね!!」
まるで空中で寝返りでもするように殺意を躱したヒーローは、今日も今日とていつも通りに空気と他人の顔色が読めない。
■
何処かの泥棒たちが災厄と呼んでいる邂逅が、実現した経緯は至極単純な応酬だった。
『僕が居ない間アイツが誰も殺さないように、ディドさんに見ててもらえませんか?』
『やぁ覚醒くん!今日は一日僕が構ってあげるからね、いい子にしているんだよ!』
──そしてそれは仮称フリッピー、金眼の殺人鬼にとっては耐え難い悪夢の会話だった。
何故自分ばかりがこんな目に。さっさと消えてくれと頼まれた方が幾分マシな手回しをしやがったもう一人の自分を怨みながら覚醒と呼ばれる男は余りの怒りに喉を鳴らした。大体朝から鬱陶しい面見せられてうんざりも良いところだが。
ナイフは避けられ、最早やけくそで投げた鉄パイプは案の定あたらない。
どころか熱で溶けた。そう、ビーム。曲がりなりにも人の形をした目から高熱射を発するこの化物具合。
「っゴミ処理場で働けクソッタレがあッ!」
蕩けた鉄がべちゃりと地面に叩きつけられるのと同時に、獲物をなくした殺人鬼は目に付いた遊具の部品を力任せに圧し折った。
「ちょっとちょっと、覚醒くん駄目だよ。子供たちが悲しむ」
「黙れ死ねクソ野郎てめぇが死んだら万事解決すんだよ!!」
「はは、いくら君の頼みでもそれは出来ないなあ」
捻じ切られて先の尖った金属のそれは槍と呼んで差し支えない代物ではあったが、スプレンディドは自分に向かってきたそれをリレーのバトンのように容易く受け止めた。「おっと、少し曲がってしまったかな?」ぐにぐにと造詣するが曲げているのは間違いなく当人そのひとである。
「さて!」
がらん、と、二種類の化物によって変わり果てた玩具の一部。それを飽いたとばかりに放りだし、青い瞳はいつものように煌いた。
音もなく、宙より徐々に高度を下げ、階段から降りるようにその足は砂場に着地した。やや遅れて重力に従う赤い目隠の長い布。
「君達が何故そんな事になり得たのか聞きたいところだし……ねぇ覚醒くん、折角なのだし偶にはゆっくりしたら?」
まるで気さくに歩み寄る、この男は足音がしない。踏みしめられた砂の音は本能的に後退さる殺人鬼から起こっている。
いつも通りに、人間離れしてにこやかな笑顔を誰かは記号のようなと称したが……
「僕のお茶は本当に評判がいいのだけれど」
「言うに事欠いてンなことかてめぇの遺言は」
素手よりはマシだと最後に残ったナイフを抜く。やれやれとでも言いたげな男のわざとらしい仕草に苛つきながら刃物を構えた瞬間──そうやって限界まで神経を尖らせた殺人鬼の耳に、
ざり、と。地面を踏みしめる音が聴こえた。
「……おや?」
ヒーローのものでも、自分のものでもない、それ。目を向ければそこには案の定黒尽くめの子供が立っていた。
「…………」
黒い髪に黒い目。黒い服。
無言で睨みつけてくるその手には、赤くなった包丁が握られている。
「やぁ、い………………誰だい?」
てめぇはすっこんでろクソヒーロー。
何故自分ばかりがこんな目に。
面倒事が、また増えた。
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