遠足
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
▼
「なにこれ」
「バケツだよぉ」
それは知っている。
「……釣り?」
人の家の窓を割って、人の生活に文句をつけて、人の予定も聞かずにオレを連れ出した張本人は、行き先も告げずに先を行く。
バケツを持たされたオレは仕方なく着いていくけど、さっきからランピーの肩に担がれた長い棒が気になる。これは釣竿だと思う。それとオレの家の窓を割ったのはこれだと思う。
「よく分かったねーぇ、ほら、イチちゃんアレ海だよ!……海は見たことある?」
「わかんない、けど、多分」
ある。
アレと示されたそれは、コンクリートで出来た道の先に見えた。そこは波が寄せている港だったが、特に未知なものだとは感じない。その青い水の集合体を大きな水溜りだとも思わないし、あれは海だ。
「そぉっか。で、あそこが釣り場ね?それであれが海賊だよーっ」
「え」
「あ。間違えた、元海賊だよーっ」
「え」
意味が分からない。
ランピーが指差す方を見てみると、確かに誰かが釣りをしていた。
堤防の端に腰掛けた、大きな黒い帽子を被った、ランピーのそれよりもっと薄い水色の髪。ああいうのはマリンブルーって言うんだったかもしれない。「おぉーい!」と手を振るランピーに、振り返ったその人は眼帯をしていた。
「よぉ、ランピーじゃねぇか。お前さんも釣りか?」
赤白の縞々な服を着た他称元海賊は、よ、と片手を挙げた。そして挙げた手は正確には手じゃなくて金属製のフックだった。よく見ると足も、左右どちらも木でできている。ランピーはそれを見てそそくさと近づいていくが、この二人はどうやら知り合いらしい。親しく話している様子を眺めていれば長身越しに吊り気味の単眼と目が合った。
「あれ?誰だ、それ」
「ん?やっぱり会ったこと無かった?イチちゃーん、ちょっとおいでー」
呼ばれてしまった。
寄っていくとランピーに両肩を掴まれ捕獲された後、元海賊と向き合わされる。ぐるんと回った視界に少し、脳味噌が混乱する。
「はいっ、これが世に言う釣りバカってヤツだね、よく見ておくといいよぉー。名前はラッセルね!たまぁに三つ編みしてるけど男の子だよっ」
「おい、ランピー喧嘩売ってんのか?つか男の子って歳でもねぇよ!」
「ほいっ、ラッセル、この子がイチちゃんね」
「……」
「いや、説明アバウトすぎるだろ」
「えぇーラッセルってば文句多いなぁ……しょうがないっ、ほぉらイチちゃん、自己紹介いってみよーかっ?」
そんなことを。いわれても。「……何て」振り返ってもランピーはへらへらしているだけでどうにもならない。見かねたように元海賊の釣りバカ……の、ラッセルがフックのカーブで帽子のツバを押し上げる。身を屈めるようにオレに向き合うので、影の落ちた顔が良く見える。
「ぁあー……と、あれだよ、名前以外にもあるだろ?お前さんのことだ」
「……歳が、十八」
「おう、見えないな!俺は二十五だぞ」
そっちも見えないじゃないか。
「以上、で」
「短っ!いや……あ、新入りか?今更だけど」
「一ヶ月くらい前からいる」
「家が出来たのが最近なんだよねぇ?」
ようやくランピーが会話に入ってきた。頷く。
「ほぉん、そんで余裕が出来たから街回ってんのか」
「うん、そんな感じかなっ」
ねー!とこっちを見るのだが、オレは初耳だ。
気付くとラッセルがじっとこっちを見ている。
「つってもお前さん、全然反応しないのな。無口だし」
顔も変わらんし……ランピーお前無理に連れてきたんじゃ、と続いて耳に入るが無口は今日二度目だった。表情は、初めて言われた。さっきから初耳がいっぱいだ。それにしても、顔、動いてないのか……。むぎゅ、と頬を触ってみても、自分では全然分からない。んっふふ、と何事かと思えばランピーの笑い声が頭上から聞こえる。
「あぁー、のね、ラッセル。イチちゃんはね、記憶喪失なの」
やがて笑い済んだらしいランピーが言う。そうか。それを言えば良かったらしい。ひとつ覚えておくことを聞いた。
「はっ?」
「だから街に来る前のことは覚えてないんだよぅ」
「おい、それ最初に言えよ!」
すると見る間に元海賊の眼が見開かれていく。
続いて声が大きくなるのでてっきり自分が怒られてるのかと思ったらラッセルが突っかかっていたのはランピーだった。
「あー……っと、無神経なこと言っちまったかも、……悪いな」
これはオレに言ってるみたいだ。無神経……?
「そんなこと言ったっけ……」
「……ぉおう、お前、心広いな」
心広い、もなんか違う気がするがまあいい。やっとオレを解放したランピーが何故か苦笑していた。
「まぁいいか、お前さんが気にしてないんなら。改めて、俺はラッセルだから。よろしくな、イチ」
ラッセルはフックを差し出してきた。もう一方の普通の手は釣竿を握っているから。
「よろしく」
何となく見慣れないそれをぎゅっと握ってみたけど、別に怪我なんてしなかった。
→
「なにこれ」
「バケツだよぉ」
それは知っている。
「……釣り?」
人の家の窓を割って、人の生活に文句をつけて、人の予定も聞かずにオレを連れ出した張本人は、行き先も告げずに先を行く。
バケツを持たされたオレは仕方なく着いていくけど、さっきからランピーの肩に担がれた長い棒が気になる。これは釣竿だと思う。それとオレの家の窓を割ったのはこれだと思う。
「よく分かったねーぇ、ほら、イチちゃんアレ海だよ!……海は見たことある?」
「わかんない、けど、多分」
ある。
アレと示されたそれは、コンクリートで出来た道の先に見えた。そこは波が寄せている港だったが、特に未知なものだとは感じない。その青い水の集合体を大きな水溜りだとも思わないし、あれは海だ。
「そぉっか。で、あそこが釣り場ね?それであれが海賊だよーっ」
「え」
「あ。間違えた、元海賊だよーっ」
「え」
意味が分からない。
ランピーが指差す方を見てみると、確かに誰かが釣りをしていた。
堤防の端に腰掛けた、大きな黒い帽子を被った、ランピーのそれよりもっと薄い水色の髪。ああいうのはマリンブルーって言うんだったかもしれない。「おぉーい!」と手を振るランピーに、振り返ったその人は眼帯をしていた。
「よぉ、ランピーじゃねぇか。お前さんも釣りか?」
赤白の縞々な服を着た他称元海賊は、よ、と片手を挙げた。そして挙げた手は正確には手じゃなくて金属製のフックだった。よく見ると足も、左右どちらも木でできている。ランピーはそれを見てそそくさと近づいていくが、この二人はどうやら知り合いらしい。親しく話している様子を眺めていれば長身越しに吊り気味の単眼と目が合った。
「あれ?誰だ、それ」
「ん?やっぱり会ったこと無かった?イチちゃーん、ちょっとおいでー」
呼ばれてしまった。
寄っていくとランピーに両肩を掴まれ捕獲された後、元海賊と向き合わされる。ぐるんと回った視界に少し、脳味噌が混乱する。
「はいっ、これが世に言う釣りバカってヤツだね、よく見ておくといいよぉー。名前はラッセルね!たまぁに三つ編みしてるけど男の子だよっ」
「おい、ランピー喧嘩売ってんのか?つか男の子って歳でもねぇよ!」
「ほいっ、ラッセル、この子がイチちゃんね」
「……」
「いや、説明アバウトすぎるだろ」
「えぇーラッセルってば文句多いなぁ……しょうがないっ、ほぉらイチちゃん、自己紹介いってみよーかっ?」
そんなことを。いわれても。「……何て」振り返ってもランピーはへらへらしているだけでどうにもならない。見かねたように元海賊の釣りバカ……の、ラッセルがフックのカーブで帽子のツバを押し上げる。身を屈めるようにオレに向き合うので、影の落ちた顔が良く見える。
「ぁあー……と、あれだよ、名前以外にもあるだろ?お前さんのことだ」
「……歳が、十八」
「おう、見えないな!俺は二十五だぞ」
そっちも見えないじゃないか。
「以上、で」
「短っ!いや……あ、新入りか?今更だけど」
「一ヶ月くらい前からいる」
「家が出来たのが最近なんだよねぇ?」
ようやくランピーが会話に入ってきた。頷く。
「ほぉん、そんで余裕が出来たから街回ってんのか」
「うん、そんな感じかなっ」
ねー!とこっちを見るのだが、オレは初耳だ。
気付くとラッセルがじっとこっちを見ている。
「つってもお前さん、全然反応しないのな。無口だし」
顔も変わらんし……ランピーお前無理に連れてきたんじゃ、と続いて耳に入るが無口は今日二度目だった。表情は、初めて言われた。さっきから初耳がいっぱいだ。それにしても、顔、動いてないのか……。むぎゅ、と頬を触ってみても、自分では全然分からない。んっふふ、と何事かと思えばランピーの笑い声が頭上から聞こえる。
「あぁー、のね、ラッセル。イチちゃんはね、記憶喪失なの」
やがて笑い済んだらしいランピーが言う。そうか。それを言えば良かったらしい。ひとつ覚えておくことを聞いた。
「はっ?」
「だから街に来る前のことは覚えてないんだよぅ」
「おい、それ最初に言えよ!」
すると見る間に元海賊の眼が見開かれていく。
続いて声が大きくなるのでてっきり自分が怒られてるのかと思ったらラッセルが突っかかっていたのはランピーだった。
「あー……っと、無神経なこと言っちまったかも、……悪いな」
これはオレに言ってるみたいだ。無神経……?
「そんなこと言ったっけ……」
「……ぉおう、お前、心広いな」
心広い、もなんか違う気がするがまあいい。やっとオレを解放したランピーが何故か苦笑していた。
「まぁいいか、お前さんが気にしてないんなら。改めて、俺はラッセルだから。よろしくな、イチ」
ラッセルはフックを差し出してきた。もう一方の普通の手は釣竿を握っているから。
「よろしく」
何となく見慣れないそれをぎゅっと握ってみたけど、別に怪我なんてしなかった。
→