暗闇
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住み慣れた小さな家を見て、
予感は、あった。
もとから勘の鈍い方ではない。
「零、入る、よ」
ドア、開けて。
さすがに間取りは覚えている部屋に入ると、なんでだろう、雨の日の音がした。
ぴちゃ。と、ぱしゃ、と。
水溜りみたいな──血溜まりが。
オレの足にまとわりついた。
「何か用?」
照明の消えている室内。
開いた扉の分だけ四角く照らされた赤の中に立つ少女がゆっくりと振り返った。
まるで正面に姿見があるみたいにオレそっくりな零が言う。違うのは、零の持っている包丁だけ。血塗れた、包丁だけ。
「……零…………」
「人の家に勝手に忍び込む方が悪いんじゃない。殺されて文句の言える筋合いじゃないでしょ」
自分と全く同じ声に、自分よりかなりはっきりした調子で言われて。
床を、みた。
真っ赤に濡れた床。転がってるのは、帽子とかスーツとかネクタイとかベストとか…………もう動かない。
──ま、つぎ来たときにはなんか盗めるもん増やしとけよ!
かちゃん。と、フォークが鳴った。目玉焼きの載った皿に当たって。
どうしてだろう。ちゃんと持ってたはずなのに。見るとオレの指先が震えている。なんで。止めようと思うのに止まらなくて、死ぬときよりもっと、耳元でどくどくと自分の心臓の音が煩い。零はなにも言わなくて、オレは何も言えなくて。
──あったりまえだろーが!俺らはプロの泥棒だぜ?
零の包丁からほたりと赤い水が垂れる。
オレは零に何も言えない。罵るべきなのかもしれない、諭すべきなのかもしれない。でも、何も言えなかった。だって、
……だって零が無事でいることに安心している自分がいる。
双子が死んでいるというのに。二人が死んでこんなにも衝撃を受けているというのに。二人を殺したのはオレみたいなものなのに。
友達が死んだ事に安心している、なんて。
考えに至った瞬間頭の天辺から足の先まで血の気が引いた。何かを拒絶するように腕が鳥肌に総毛立ち、その拒絶を咎めるような吐き気が同時に襲ってくる。
──また、来るよね。
あんなこと、言わなければ良かったのだ。
はっと気付くと、ドアが閉まったところで、目の前から零が消えていた。朝ご飯を食べてくれる人はいなくなってしまった。
オレは電気をつけることも出来ずに立ち尽くす。血生臭くて薄暗い部屋の中、独り暗闇に溺れる。喉を絞められているわけでもないのに、どうしようもなく苦しかった。
どうか、誰でもいいから、息の仕方を教えて。
【end】
住み慣れた小さな家を見て、
予感は、あった。
もとから勘の鈍い方ではない。
「零、入る、よ」
ドア、開けて。
さすがに間取りは覚えている部屋に入ると、なんでだろう、雨の日の音がした。
ぴちゃ。と、ぱしゃ、と。
水溜りみたいな──血溜まりが。
オレの足にまとわりついた。
「何か用?」
照明の消えている室内。
開いた扉の分だけ四角く照らされた赤の中に立つ少女がゆっくりと振り返った。
まるで正面に姿見があるみたいにオレそっくりな零が言う。違うのは、零の持っている包丁だけ。血塗れた、包丁だけ。
「……零…………」
「人の家に勝手に忍び込む方が悪いんじゃない。殺されて文句の言える筋合いじゃないでしょ」
自分と全く同じ声に、自分よりかなりはっきりした調子で言われて。
床を、みた。
真っ赤に濡れた床。転がってるのは、帽子とかスーツとかネクタイとかベストとか…………もう動かない。
──ま、つぎ来たときにはなんか盗めるもん増やしとけよ!
かちゃん。と、フォークが鳴った。目玉焼きの載った皿に当たって。
どうしてだろう。ちゃんと持ってたはずなのに。見るとオレの指先が震えている。なんで。止めようと思うのに止まらなくて、死ぬときよりもっと、耳元でどくどくと自分の心臓の音が煩い。零はなにも言わなくて、オレは何も言えなくて。
──あったりまえだろーが!俺らはプロの泥棒だぜ?
零の包丁からほたりと赤い水が垂れる。
オレは零に何も言えない。罵るべきなのかもしれない、諭すべきなのかもしれない。でも、何も言えなかった。だって、
……だって零が無事でいることに安心している自分がいる。
双子が死んでいるというのに。二人が死んでこんなにも衝撃を受けているというのに。二人を殺したのはオレみたいなものなのに。
友達が死んだ事に安心している、なんて。
考えに至った瞬間頭の天辺から足の先まで血の気が引いた。何かを拒絶するように腕が鳥肌に総毛立ち、その拒絶を咎めるような吐き気が同時に襲ってくる。
──また、来るよね。
あんなこと、言わなければ良かったのだ。
はっと気付くと、ドアが閉まったところで、目の前から零が消えていた。朝ご飯を食べてくれる人はいなくなってしまった。
オレは電気をつけることも出来ずに立ち尽くす。血生臭くて薄暗い部屋の中、独り暗闇に溺れる。喉を絞められているわけでもないのに、どうしようもなく苦しかった。
どうか、誰でもいいから、息の仕方を教えて。
【end】
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