分裂
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「事の起こりは、あの……説明しゅるのもアレな…こ、好奇心で……イチさんは知ってるかもですが、薬の効力は二の次で、この街のリセットがどこまで通用するのかって、いうあの、研究を、興味がわいてしまって、だから、ですね……」
まるで双子が縮んだときのようにしどろもどろに話すスニッフルズ。
加えて被せる様に、
「つくっちゃったー!」
へらへらと機嫌よく言い放つランピー。
「結局できたのは自分の精神を具現化させるー、みたいな薬でねぇ?だから普通は自分と全く同じ人がもうひとり出てくるはずなんだけどね、鏡みたいにっ!でも、やっぱりフリッピーはこーなったかぁー。ま、ぶっちゃけ予想通りなんだけどねっ!?」
がす。
と音がしてランピーの耳を掠めたナイフが壁に刺さった。
「よ、要するに日が変わるだけでは元に戻りません!でもなんとかします僕が!ぜぜ絶対!!」
眼鏡の弦をぶるぶると握り締めながら叫ぶスニッフルズ。
見極めるように金目のフリッピーがそれを見下ろしているが、緑目フリッピーが後ろからしがみついて止めているから大丈夫だと思う。
そんな騒ぎをオレはただ見ていた。
頭が全然働かないから、見ていた。
いっそ、ああ例の“持続性”か、とぼんやり思うくらいで。
金色フリッピーは(多分、オレを放り投げたのもこっちのフリッピーなんだろう)不思議なことにオレから逃げず、それどころか家に入ってくるとすぐオレの腕を掴んでもうひとりの自分から引き剥がしては突き飛ばす。
意図はともかく──それはまるで、『オレ』からオレを遠ざけるように。
モールさんの古着の、黒いパーカー。買ったばかりの黒いズボン。紐の解けたスニーカー。華奢な体つき。そして黒髪、黒目。
ずっと、見ていて気がついたこと。『オレ』とオレの違い。
オレの左手首には赤い紐が巻いてある。フレイキーに貰った、赤い紐。もうひとりの『オレ』にはない。
それと、
「……っ、ぅ」
もうひとりの『オレ』は、オレを見ていた。
蔑むような、憎むような、恨みがましいような目で。
「イチちゃん?」
曲がりなりにも死にかけたと言うのに、もう忘れたかのような気楽さでランピーが声を掛けてきた。
いつの間にか周りが静かになっている。
「魂抜けたみたいな顔してるよぅ、大丈夫?」
「だいじょうぶ」
反射的に答えてしまった。何も考えていないのが丸分かりだ。
ランピーはいつものへらへら笑いに眉間のしわを足した顔で笑う。
「んー、と、じゃぁーそっちのイチちゃんはぁ?」
──何と無く、何と無くだけど、返答の予想がついた。
「やめて」
オレと殆ど同じ容姿の、彼女は、声も同じで、
「私 の名前は零。そのふざけた名前で呼ばないで」
表情だけが、その、オレを憎らしげに睨む不愉快そうな表情だけが、違う。
「ぜ、ゼロ?」
「零。中途半端に発音するならいっそ呼ばないでくれる」
冷たくあしらわれたスニッフルズは困ったようにオレを見る。けれど多分、オレは今何も喋らないのが一番いいと思う。分かるわけではない、思うだけ。
気がつけばオレの視界に解けた靴紐が入ってきている。いつの間に。前を向いていたはずなのに。睨む彼女と、目を合わせようとしていたはずなのに。なんでオレは俯いてしまっているんだろう。ああそういえばフリッピーは。フリッピーは大丈夫なんだろうか。急に二人になってしまって。でもきっと大丈夫だ。あの二人は、仲がいいから。
ふ、と上着の裾に何かが触れた。
「……イチちゃん、皴になるよ?」
声も降ってきた。
やっぱり大丈夫なんだ。人のことを気にかけられるくらい。
何が皴なのかと思えば、オレの右手は知らないうちにパーカーを握り締めていたらしい。心臓の丁度真上のところを。その臓器を確かめるみたいに。自分が居ることを確かめるみたいに。
──意識してみると、少しひりひりする。引っ掻いたのかもしれない。力を抜こうとしたら、拳は逆に硬くなった。なんでだろう。困る。
憎しみ。気遣い。疑問。好奇心。心配。
色んな視線をまとわりつかせながら、本当はひと目見たときから気づいていた事ではあるけれど、
オレは霧の向こう側がとうとう空っぽになったのだということを悟った。
【end】
「事の起こりは、あの……説明しゅるのもアレな…こ、好奇心で……イチさんは知ってるかもですが、薬の効力は二の次で、この街のリセットがどこまで通用するのかって、いうあの、研究を、興味がわいてしまって、だから、ですね……」
まるで双子が縮んだときのようにしどろもどろに話すスニッフルズ。
加えて被せる様に、
「つくっちゃったー!」
へらへらと機嫌よく言い放つランピー。
「結局できたのは自分の精神を具現化させるー、みたいな薬でねぇ?だから普通は自分と全く同じ人がもうひとり出てくるはずなんだけどね、鏡みたいにっ!でも、やっぱりフリッピーはこーなったかぁー。ま、ぶっちゃけ予想通りなんだけどねっ!?」
がす。
と音がしてランピーの耳を掠めたナイフが壁に刺さった。
「よ、要するに日が変わるだけでは元に戻りません!でもなんとかします僕が!ぜぜ絶対!!」
眼鏡の弦をぶるぶると握り締めながら叫ぶスニッフルズ。
見極めるように金目のフリッピーがそれを見下ろしているが、緑目フリッピーが後ろからしがみついて止めているから大丈夫だと思う。
そんな騒ぎをオレはただ見ていた。
頭が全然働かないから、見ていた。
いっそ、ああ例の“持続性”か、とぼんやり思うくらいで。
金色フリッピーは(多分、オレを放り投げたのもこっちのフリッピーなんだろう)不思議なことにオレから逃げず、それどころか家に入ってくるとすぐオレの腕を掴んでもうひとりの自分から引き剥がしては突き飛ばす。
意図はともかく──それはまるで、『オレ』からオレを遠ざけるように。
モールさんの古着の、黒いパーカー。買ったばかりの黒いズボン。紐の解けたスニーカー。華奢な体つき。そして黒髪、黒目。
ずっと、見ていて気がついたこと。『オレ』とオレの違い。
オレの左手首には赤い紐が巻いてある。フレイキーに貰った、赤い紐。もうひとりの『オレ』にはない。
それと、
「……っ、ぅ」
もうひとりの『オレ』は、オレを見ていた。
蔑むような、憎むような、恨みがましいような目で。
「イチちゃん?」
曲がりなりにも死にかけたと言うのに、もう忘れたかのような気楽さでランピーが声を掛けてきた。
いつの間にか周りが静かになっている。
「魂抜けたみたいな顔してるよぅ、大丈夫?」
「だいじょうぶ」
反射的に答えてしまった。何も考えていないのが丸分かりだ。
ランピーはいつものへらへら笑いに眉間のしわを足した顔で笑う。
「んー、と、じゃぁーそっちのイチちゃんはぁ?」
──何と無く、何と無くだけど、返答の予想がついた。
「やめて」
オレと殆ど同じ容姿の、彼女は、声も同じで、
「
表情だけが、その、オレを憎らしげに睨む不愉快そうな表情だけが、違う。
「ぜ、ゼロ?」
「零。中途半端に発音するならいっそ呼ばないでくれる」
冷たくあしらわれたスニッフルズは困ったようにオレを見る。けれど多分、オレは今何も喋らないのが一番いいと思う。分かるわけではない、思うだけ。
気がつけばオレの視界に解けた靴紐が入ってきている。いつの間に。前を向いていたはずなのに。睨む彼女と、目を合わせようとしていたはずなのに。なんでオレは俯いてしまっているんだろう。ああそういえばフリッピーは。フリッピーは大丈夫なんだろうか。急に二人になってしまって。でもきっと大丈夫だ。あの二人は、仲がいいから。
ふ、と上着の裾に何かが触れた。
「……イチちゃん、皴になるよ?」
声も降ってきた。
やっぱり大丈夫なんだ。人のことを気にかけられるくらい。
何が皴なのかと思えば、オレの右手は知らないうちにパーカーを握り締めていたらしい。心臓の丁度真上のところを。その臓器を確かめるみたいに。自分が居ることを確かめるみたいに。
──意識してみると、少しひりひりする。引っ掻いたのかもしれない。力を抜こうとしたら、拳は逆に硬くなった。なんでだろう。困る。
憎しみ。気遣い。疑問。好奇心。心配。
色んな視線をまとわりつかせながら、本当はひと目見たときから気づいていた事ではあるけれど、
オレは霧の向こう側がとうとう空っぽになったのだということを悟った。
【end】
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