齟齬
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英雄が去ってからふらふらと歩き続けていたら、さらに人気 がなくなっていき、そして目の前に巨大な木が現れた。
いや、別に急に出現したわけではない。歩いていたらそれが生えている丘が目に入ったというだけのことで。
近づいてみると、改めて殆どありえない大きさの木だ。そしてその代わりのように、周りには一本も木が生えていない。オレはこの場に来たことはないのだが、前、中空から見下ろした記憶ならある。つい先程までいた、英雄の説明を思い出す。
「ハッピーツリー……」
思わず呟くと、
「はぁい?」
「………………」
一瞬。ほんの一瞬だけ木が喋ったのかと思ったが、勿論違う。
太すぎるくらいの幹の裏に誰かいるのだ。誰かなんて分かりきってはいるが。
「なにしてるの、ランピー?」
「こっちの台詞だよぅ?イチちゃん」
ごろん、と音がしたような気がして、幹の裏から横向きにランピーの顔が現れた。これは文字通り出現した。
「なにしてるの、ランピー」
「んー、お昼寝ぇ、みたいなっ?」
イチちゃんは?と再び訊いてくるので、散歩だと言っておいた。ランピーは一瞬不思議そうな顔をしたものの、まあ、他に言葉が思い浮かばなかったのだ。嘘ではない。
「……」
目の前の大きな木を見上げる。葉が茂って、太陽の光さえ遮っている。それはすこしばかり荘厳な眺めだった。少なくともオレはこんなところで昼寝したくはない。
「イチちゃんどーかしたのぉ?」
眠たそうでもないのにダラダラと立ち上がったランピーは白衣を着ていた。
要するに、昼寝とかそういう問題ではなくただのサボタージュらしい。
オレはとりあえず答えずにハッピーツリーを見上げ続けた。
「なんか、」
ここには来た事がないはずなのに、
「見たことあるような気が、」
──ランピーを見るとへらへらした表情が一瞬だけ真顔になったように見えた。
「して」
「寝ぼけてる、ワケじゃぁないんだよねぇ?」
言い終わると同時に訊ねられる。
「起きてるけど」
「だぁよね」
両手をぱちんと合わせて首を傾けるランピーはへらへらしているが、何故かそれはこれからどうするか決めかねているようにも見える。
「うぅーんと、ね」
ランピーは大木の根元に視線を向ける。
それで気づいた。オレとランピーは木から同じだけの距離をとっている。
さっき、ランピーは木の裏側から出てきた。だがその時でさえ、木には触れていなかった。
そしてオレも。あれだけ見上げたり眺めたりして、それでもこれ以上近づきたいと思わない。幹に触りたいと思わない。
なんだか──
「…… イチちゃんが、モールと初めて会ったのは、ここだよ?」
──恐れ多いような気がして。
「え?」
「モールはねぇ、僕に『ハッピーツリーの根元に座り込んでいる子供』を拾ったって言ってたんだけど」
え?
太い幹。
みたことあるような、ないような、光景。道順。確かに、この街に来た当初の記憶は曖昧だ。曖昧、だけれど。
「イチちゃん? いちちゃんっ?」
心配と好奇心の混ざったようなランピーの声を聞きながら、オレは考える。それが今できる唯一のことだと思ったからだ。
考える。
……考えてるのに。
ハッピーツリー、この、大木。こんなもの一目見たら忘れないだろう。でも、モールさんと初めて会った場所?
──確かに、そんなの、思い出せない。
「いーちゃん?」
腰を屈めたランピーが、返事をしないオレにふざけて呼びかけたその瞬間、くらっと脳味噌が揺さぶられる感じがして、視界が狭まり手足の自由は利かなくなり──
寝不足が祟ったか……。
──オレの意識はそこでブラックアウトした。
→
英雄が去ってからふらふらと歩き続けていたら、さらに
いや、別に急に出現したわけではない。歩いていたらそれが生えている丘が目に入ったというだけのことで。
近づいてみると、改めて殆どありえない大きさの木だ。そしてその代わりのように、周りには一本も木が生えていない。オレはこの場に来たことはないのだが、前、中空から見下ろした記憶ならある。つい先程までいた、英雄の説明を思い出す。
「ハッピーツリー……」
思わず呟くと、
「はぁい?」
「………………」
一瞬。ほんの一瞬だけ木が喋ったのかと思ったが、勿論違う。
太すぎるくらいの幹の裏に誰かいるのだ。誰かなんて分かりきってはいるが。
「なにしてるの、ランピー?」
「こっちの台詞だよぅ?イチちゃん」
ごろん、と音がしたような気がして、幹の裏から横向きにランピーの顔が現れた。これは文字通り出現した。
「なにしてるの、ランピー」
「んー、お昼寝ぇ、みたいなっ?」
イチちゃんは?と再び訊いてくるので、散歩だと言っておいた。ランピーは一瞬不思議そうな顔をしたものの、まあ、他に言葉が思い浮かばなかったのだ。嘘ではない。
「……」
目の前の大きな木を見上げる。葉が茂って、太陽の光さえ遮っている。それはすこしばかり荘厳な眺めだった。少なくともオレはこんなところで昼寝したくはない。
「イチちゃんどーかしたのぉ?」
眠たそうでもないのにダラダラと立ち上がったランピーは白衣を着ていた。
要するに、昼寝とかそういう問題ではなくただのサボタージュらしい。
オレはとりあえず答えずにハッピーツリーを見上げ続けた。
「なんか、」
ここには来た事がないはずなのに、
「見たことあるような気が、」
──ランピーを見るとへらへらした表情が一瞬だけ真顔になったように見えた。
「して」
「寝ぼけてる、ワケじゃぁないんだよねぇ?」
言い終わると同時に訊ねられる。
「起きてるけど」
「だぁよね」
両手をぱちんと合わせて首を傾けるランピーはへらへらしているが、何故かそれはこれからどうするか決めかねているようにも見える。
「うぅーんと、ね」
ランピーは大木の根元に視線を向ける。
それで気づいた。オレとランピーは木から同じだけの距離をとっている。
さっき、ランピーは木の裏側から出てきた。だがその時でさえ、木には触れていなかった。
そしてオレも。あれだけ見上げたり眺めたりして、それでもこれ以上近づきたいと思わない。幹に触りたいと思わない。
なんだか──
「…… イチちゃんが、モールと初めて会ったのは、ここだよ?」
──恐れ多いような気がして。
「え?」
「モールはねぇ、僕に『ハッピーツリーの根元に座り込んでいる子供』を拾ったって言ってたんだけど」
え?
太い幹。
みたことあるような、ないような、光景。道順。確かに、この街に来た当初の記憶は曖昧だ。曖昧、だけれど。
「イチちゃん? いちちゃんっ?」
心配と好奇心の混ざったようなランピーの声を聞きながら、オレは考える。それが今できる唯一のことだと思ったからだ。
考える。
……考えてるのに。
ハッピーツリー、この、大木。こんなもの一目見たら忘れないだろう。でも、モールさんと初めて会った場所?
──確かに、そんなの、思い出せない。
「いーちゃん?」
腰を屈めたランピーが、返事をしないオレにふざけて呼びかけたその瞬間、くらっと脳味噌が揺さぶられる感じがして、視界が狭まり手足の自由は利かなくなり──
寝不足が祟ったか……。
──オレの意識はそこでブラックアウトした。
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