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それは、少し前のこと。
今ほど過去探索に対して逼迫していなかった頃の図書館で交わした会話をふと思い出した。
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「たまに考えるんですけど」
スニッフルズは着々と書籍を積み上げながら言った。
「命より大事なものを持っている人は死にやすい」
当時のオレは検算みたいな気分で呼んでいた偉人伝から顔をあげた。
「例えばナッティは言うまでもなく甘いものを大事にしてるでしょう?ペチュニアは清潔であることを何よりもまず優先しますし、カドルスやトゥーシーは死ぬのが嫌なんじゃなくて、痛い事がキライなだけですし」
ずれてきた眼鏡を直しながら、スニッフルズの方は本に目を向けたままで話している。
「ギグルスは?」
「実に女の子らしい答えが返ってくるんじゃないですか?」
見た目とか。言いながら少年はページを捲る。
どうやら本気でジンクスを立ち上げようというわけでもないらしい。
「フレイキーは?」
訊くと、数秒黙ってから「平穏とかですかね」と返される。命よりも平穏が大切だというのは奥が深い。どこぞの立派な王様みたいだ。
「なら中々死なない人は」
「命より大切なものがないということになりますね」
スニフもこの戯言の応酬が楽しくなってきたようで、さっきから開いたページは52ページのままだ。
「英雄は正義が大切だって言いそうだけど」
「ヒーローは正義こそ命なんです」
まるで言葉遊びだ。
しかし、あながち間違っていないんじゃないだろうか、とも思えてくる。
スニフは例えにあげなかったが、双子なら『大切なものは?』と訊けば、金とか答えるだろう。ラッセルは釣りとか自由だと言いそうだ。ハンディは多分、仕事だ。
「スニッフルズは?」
「僕ですか?僕はやりたいように研究できる事が最優先です」
なるほど死にやすい自覚はあるらしい。
そう思っていたら逆襲された。「イチさんも結構死んでますよね」と。
「何なんですか、イチさんの命より大切なもの」
当時から脳裏に居座る白い霧が一瞬だけ過ぎったが、その時のオレにはそこまで明確な執念は無く「考えておくよ」と言って本を閉じたのだった。
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