異変
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
意味が分からなかった。この前進は名前を聞けたからなのだろうか?『フリッピー』は何か知っていたのだろうか?
訊ねようにも、その日から本当に『フリッピー』に会えなくなってしまった。
それどころかあの『二人』がどういう話をしてどういう結果に落ち着いたのかは知らないが、緑の目をしたフリッピーがあからさまにオレを避けているようだ。
──オレが、何か気に障ることでもしたのか。
家を訪ねるなりすれば良いのかも知れない。
しかしそうしようと歩き出すと、途端にあの時の一瞬五月蝿く鳴った動悸を思い出して、何故かはわからないけれど苦しくなって不思議と足が止まってしまう。ただでさえ白い霧のことで日々悩ましいのに、よく分からないもやもやを胸に抱えてしまった。そのもやもやを主治医は『寂しいんじゃない?追っかける人がいなくなってさ』と形容したけれど……さみしい?これが本当に『寂しい』という事なのか?こんな足が竦む様な、底のない穴に突き落とされたような気持ちが。それは、なんだか、違う気がする……。
そんな厄介な違和感と、相変わらず揺らぐ白に呼応するように募る焦燥感と、それでいて晴れてはくれない靄への不快さに。
板挟みになったオレはまあ、確かに、ここ三日ほど夜は何だか考え込んでしまって余り寝ていなかったかもしれない。
「おまっ、……オイ!この家食いもんねーじゃんか!!」
はっと気づくと台所からシフティが怒鳴りかけていた。医者に連れて行くだの連れてくるだのいう論争は終わったらしい。というか諦めたらしい。
ちなみにリフティはオレの横に立ったまま。
なんでだ?と思って弟の方を見ると、人差し指と中指をちょきちょきさせていた。そうか、ジャンケンに勝ったのか。というか家主の前で堂々と家捜しをするな。
すると双子の片割れはなんだか不足そうな顔でオレを見た。
「……『にぃちゃん』の言う通りだから、今日は朝ごはんあげられないよ」
「にぃちゃんゆうな!!わぁーってるよたからねーよ!つか違くて、」
言いかけたリフティが何かに気付いたようにオレの背後を見る。
「お前のメシはどーすんだよ!イチ!!」
次の瞬間、喚き声と同時に後ろ頭を思いっきりはたかれた。
「痛い」
「嘘つけ馬鹿」
シフティが言うと、兄が自分でなくオレを馬鹿呼ばわりしたのが嬉しいらしいリフティがバーカバーカとにやにやしている。子供か。
……今日のオレは二人に何もあげられないのに、それでも二人はオレの食事まで気にかけてくれるのか。
「外に行く。買い物しに行く」
どうせ家に篭っていても、とくにするべき事はないのだから。……するべき事が、もう思い当たらないのだから。
双子は答えに納得したのかよく分からないが、とにかく戦利品(盗品)を纏め始める。
「朝メシ抜きとかマジねーよ!」
「ええ!?抜きなのかよ!!」
「ハッ、食いてーなら自分で何とかしろよ!」
「テメェいっつもそーゆって自分が食うじゃねーか!!」
「当たり前だろ?兄貴様舐めんな!」
「ふっざけんなクソ兄貴!!」
「ほら見ろテメェだって俺が兄だって認めてんじゃねーか」
「おっ、……じゃあシフのほうが早くハゲるかんな!!」
「禿げねーよ!!」
喧嘩、というには拙すぎる口論。じゃれあいみたいな。
──何故かもう怒鳴る気は起こらなかった。
結局あの宝石箱はどうするんだろう。
その他と一緒に同じ袋に詰められた箱。
とりあえず、一卵性双生児でここまで生活、環境、食習慣が同じなら髪が薄くなるタイミングも同じだと思う。
窓から帰っていく二人を見ても何も思わない。いつもなら。
視界に入れば二言三言交わすだけ。
いつもなら。
だから、わざわざ立って窓際まで着いてきたオレを見て、シフティもリフティも驚いた顔をする。
「お前ホントにどーしたんだよ」
「やっぱなんかあんのか?」
窓枠に足をかけたままのリフティ。窓ガラスを手で全開にしている方がシフティ。
やはりオレの様子がおかしいのが気になるのか動きを止めてまでわざわざ訊ねてくる。
二人は笑うだろうか。
「何でもないけど」
二つ揃った後姿が、家を出て行くのを見て薄ら寒い予感が背中を伝ったとか。
フリッピーみたいに、もう会ってくれなくなるんじゃないかとか。
そんな、くだらない不安が鎌首を持ち上げたとか。
洗いざらい話せば、
「また来るよね……」
哂うだろうか。
オレは、いつからか。自分でも気付いていなかったけれどいつからか、いつだってリビングの窓の錠を落とすのを忘れるようになっていたのだ。例え夜、全ての戸締りを終えた後でも。
自分でもよく分らない問いに、双子はまた顔を見合わせて、
「あったりまえだろーが!俺らはプロの泥棒だぜ?」
「稼ぎの確認はきっちりしねーとなぁ?」
──どうやらオレの家で金勘定をするのは最早恒例ということらしい。
「つかそろそろ盗めそーなモン増やせよな!」
「ハッ、増やすっつか元がねーっつの。巣穴か」
「いや、あっても盗るなよ」
マジうける!と声を合わせるがうけないでくれ。
にやにや笑うシフティと、リフティを見て、少しだけ胸の痞えが取れた気になる。
「じゃあまたね」と言ってみるとシフティは慌てたように窓を潜って遠ざかり、リフティはそこそこの大声でまたなと言い返してくれた。
【end】
3/3ページ