異変
name change
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最初のきっかけはフリッピーだった。
「俺の名前はフリッピーだ」
金色に光る瞳は、偽った様子も無く唐突にそう言った。
そのときオレの右手は、相変わらずナイフで壁に縫いとめられていて、左手は折れて使い物にならなかった。左足も腿をすでに裂かれていて、恐らく走れないだろうし、唯一動かせる右足は踏みつけられていた。要するに身動きが出来ない状態だったのだ。
「……えっ?」
驚いて聞き返すと、
「てめぇしつこく訊いてきただろぉが。だから教えてやる。俺の名前は『フリッピー』だ」
相変わらずあたりは血生臭くて。
聴覚はまだしっかりしているはずなのに、聞き間違いかと思った。
「ぇ、でも、え、違うって言ってたのに?」
戸惑って聞き返すと、金色は怒鳴るでもなく舌打ちするでもなく、
「あの時は状況が違っただろ。……そう簡単にボロ出して堪るかよ」
──まるで宥められているような錯覚を起こす声で、
「フリッピーから昔の話は聞いたっつったな?だからだ。戦争で、アイツらは俺のことをフリッピーと呼んだ。フリッピーは『隊長』だったからな」
「──ああ」
そうだ。あの時、深緑の瞳は言ってたじゃないか、『アイツら』、部下が二人いたと。その二人はもう一人の僕のことも知っていると。そしてこの金色は戦時中に生まれたのだと。そして──僕はアイツで、アイツは僕だしね──とも。
「俺の名前はフリッピーだ」
三度、言う。
そして、『フリッピー』は大振りなナイフを鞘から抜いた。
「これで、いいだろ」
「え、なにが」
衝撃に呆けていたのだが、ああ、もう死んでもいいかということだろうか?
しかし『フリッピー』は全く別のことを考えていた。
「もう俺に付き纏うな。俺に構うな。仲良し小良しはあいつとやれと言ったが、」
続けようとした唇が一瞬戸惑うように戦慄いて『フリッピー』は躊躇うように舌打ちをする。
「なるべく関わるな。ともかく、俺と会うのはこれで最後だ。──分かったな」
「わ、からない」
「解れ。わからねぇか、俺が好んでお前なんかに名乗ると思ってンのかクソガキ」
ひくり、と意識はしていないのに確かに自分の肩が揺れた気がした。
言外に、そうまでして オレとは会いたくないのだと、金色が言うので。
耳元で一瞬鼓動が五月蝿く鳴った。
分からない。
痺れる舌が重ねて言う暇もなく、ナイフがオレの心臓に突き刺さった。
「てめぇが胎に何を抱えてんのかは知らねぇが、俺はあ ん な も ん
に関わる気はねぇ──関わらせる気も無い」
『あんなもの』ってなんだ。
胸を突く衝撃の中、何も理解が出来ないまま、目を閉じる寸前に分かったのは、『フリッピー』が何故だかどこか哀れむような顔をしていた事と、オレの体が飲み込んだこのナイフはフリッピーがオレに自分を殺すよう提案した時の、あのナイフだということだけだった。
──それがきっかけ。
そして、次の日。
折角教えて貰えたところで呼べないのなら意味がない。意味……?いや、そもそもの発端は記憶を取り戻す手掛かりを掴む事だったのだから目的は達成されているのだけど。そう考えてオレは気付いた。
昔のことを思い出そうとすると邪魔をする白い霧。そう、それは確実に揺らぎを増している。いや、いつになく不安定になっている。
ゆらゆらと揺らいで、でも、……それでもやっぱり手は届かない。
少し近づけた、確実に進んでいる、その筈なのに、肝心の一手が出せない。そのジレンマが、じわじわと這い上がってくるのを感じた。
→
最初のきっかけはフリッピーだった。
「俺の名前はフリッピーだ」
金色に光る瞳は、偽った様子も無く唐突にそう言った。
そのときオレの右手は、相変わらずナイフで壁に縫いとめられていて、左手は折れて使い物にならなかった。左足も腿をすでに裂かれていて、恐らく走れないだろうし、唯一動かせる右足は踏みつけられていた。要するに身動きが出来ない状態だったのだ。
「……えっ?」
驚いて聞き返すと、
「てめぇしつこく訊いてきただろぉが。だから教えてやる。俺の名前は『フリッピー』だ」
相変わらずあたりは血生臭くて。
聴覚はまだしっかりしているはずなのに、聞き間違いかと思った。
「ぇ、でも、え、違うって言ってたのに?」
戸惑って聞き返すと、金色は怒鳴るでもなく舌打ちするでもなく、
「あの時は状況が違っただろ。……そう簡単にボロ出して堪るかよ」
──まるで宥められているような錯覚を起こす声で、
「フリッピーから昔の話は聞いたっつったな?だからだ。戦争で、アイツらは俺のことをフリッピーと呼んだ。フリッピーは『隊長』だったからな」
「──ああ」
そうだ。あの時、深緑の瞳は言ってたじゃないか、『アイツら』、部下が二人いたと。その二人はもう一人の僕のことも知っていると。そしてこの金色は戦時中に生まれたのだと。そして──僕はアイツで、アイツは僕だしね──とも。
「俺の名前はフリッピーだ」
三度、言う。
そして、『フリッピー』は大振りなナイフを鞘から抜いた。
「これで、いいだろ」
「え、なにが」
衝撃に呆けていたのだが、ああ、もう死んでもいいかということだろうか?
しかし『フリッピー』は全く別のことを考えていた。
「もう俺に付き纏うな。俺に構うな。仲良し小良しはあいつとやれと言ったが、」
続けようとした唇が一瞬戸惑うように戦慄いて『フリッピー』は躊躇うように舌打ちをする。
「なるべく関わるな。ともかく、俺と会うのはこれで最後だ。──分かったな」
「わ、からない」
「解れ。わからねぇか、俺が好んでお前なんかに名乗ると思ってンのかクソガキ」
ひくり、と意識はしていないのに確かに自分の肩が揺れた気がした。
言外に、
耳元で一瞬鼓動が五月蝿く鳴った。
分からない。
痺れる舌が重ねて言う暇もなく、ナイフがオレの心臓に突き刺さった。
「てめぇが胎に何を抱えてんのかは知らねぇが、俺は
に関わる気はねぇ──関わらせる気も無い」
『あんなもの』ってなんだ。
胸を突く衝撃の中、何も理解が出来ないまま、目を閉じる寸前に分かったのは、『フリッピー』が何故だかどこか哀れむような顔をしていた事と、オレの体が飲み込んだこのナイフはフリッピーがオレに自分を殺すよう提案した時の、あのナイフだということだけだった。
──それがきっかけ。
そして、次の日。
折角教えて貰えたところで呼べないのなら意味がない。意味……?いや、そもそもの発端は記憶を取り戻す手掛かりを掴む事だったのだから目的は達成されているのだけど。そう考えてオレは気付いた。
昔のことを思い出そうとすると邪魔をする白い霧。そう、それは確実に揺らぎを増している。いや、いつになく不安定になっている。
ゆらゆらと揺らいで、でも、……それでもやっぱり手は届かない。
少し近づけた、確実に進んでいる、その筈なのに、肝心の一手が出せない。そのジレンマが、じわじわと這い上がってくるのを感じた。
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