実験
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ナッティは小さい方が扱いやすい。
どれくらい扱いやすいかというと、眼鏡少年が密かに『この薬毎日飲ませようか』みたいな顔をするくらい扱いやすい。
甘いものが好きなのは相変わらず(といっていいのか、昔から、という方が正しいのか)なのだが、チョコの一欠けで満足してくれるだけ可愛げがある。
──そして極めつきには、スニッフルズがぎこちなく抱きかかえれば眠ってしまって、どれだけ騒ごうが目を覚ましそうにない。
「五歳のうちから矯正すれば、甘味中毒も何とかなるかもしれません……」
「──そ」
「自分の名前くらいしか言わないから騒がしくもないです」
「う──」
「どうでしょう、これって成功なんじゃないですか?」
すやすや眠る子供を抱えて、目をきらきらさせるスニフ。それはなんだか仲のいい兄弟を見るようで中々微笑ましくもあるのだろうがそんなことに関係なくオレは声を搾り出すように言った。
「──ナッティ『は』、な」
オレは相変わらず地面に寝転がっている。スニーカーの紐を結ばれたからだ。右足と左足を結び付けられたという意味で。
「ねてんなっつーの!!」
「起きてあそべよな!!」
ビーカーを投げるのは遊びとは言わない。
泥棒のにやにや笑いの双子が、八歳のときは大人しく聖書を読む子供だと思っていたわけではないが、
「リフ、あれ見ろよ、ミドリイロだぜ!」
「投げてみよーぜにぃちゃん!!」
何が緑色なのかは見えない。……別段見たくはないのでちょうどいい。
リフティがシフティをにぃちゃんと呼んでいるのは、どうだろう、後で話のネタにできるだろうか。
「は、バッカ投げるだけじゃつまんねーよ!!」
「はぁあ!?じゃ、どーすんだよ!!」
ベルトで締め上げたズボンの裾をずるんずるんに引きずって暴れる悪餓鬼。
ベストとスーツは脱げたらしい。シャツを捲り上げて、帽子は未だにシフティの頭に乗っかっている。そして二人はオレの上に乗っかっている。……重い。
「スニッフルズ、何とかならないの」
「大丈夫ですよ、効果はすぐきれるはずですから」
名残惜しそうにスニフは言うが、最早その『はず』を信用して言いのかさえ微妙なところだ。
すると、次の瞬間、
──ぱぁあん!!
と音がした。またか。
何事かと思うが当然、
「ちょ!見たかよはじけた!!」
「すっげぇ!あれもやろーぜ!!」
「おう、リフとってこいよ!!」
「はぁっ!?しふがいけよ!!」
言い争いに発展しそうな二人を何とか転がして、両足揃ったまま起き上がる。頭の上に、何か降ってきた。
「大丈夫ですよ、ただのクラッカーですから」
完全に他人事のようにスニッフルズが言う。三人が縮んだときはあんなに焦ってたくせに。
「ほらこれと同じです」と、どこから出したのか青い柄のついたクラッカーを渡してきた。受け取りながら、髪についた紙くずを払う。
「本当に『ただの』?」
「……貰ったんですよ。僕が作ったんじゃないです」
拗ねたような声を出すが、だって前科があるだろう。
「基本的にこういう効能は日を跨げば消えてしまうので……持続性の研究をしてみてもいいかもしれませんね」
「それに協力してもらうのはナッティだけにしてくれ……」
──結局シフティ、リフティ、ナッティが元に戻ったのは、スニッフルズの家が紙テープまみれになって、ドアの取っ手が凹んで、甘いものが減って、眼鏡が歪んで、スニーカーの紐が千切れて、オレの気力が底をつきかけて、やっとそれからのことだった。
スニッフルズの家を這々の体で脱出しての、帰り道。フリッピーの家の辺りまでは帰り着いた頃。
右のポケットにはクラッカー、そして左には小さな小瓶。
スニフがナッティを見る目が剣呑としていたので回収してきた。クラッカーは返しそびれた。
──『今日』が終わるまで、あと数時間。
引っ張り出して、もう中身が残り少ない薬瓶を眺める。
『効果には個人差がある』
それはつまり、──もしかしたらオレの記憶は戻るかもしれないということ。
「…………」
魔が、差した。
蓋を開けて一粒取り出して、口に入れて、飲んで。
この時のオレが一番マヌケだったことは何かと聞かれれば、『個人差』が良いように働くとは限らないということを考えていなかった事だと答える。
──要するに気がつけば朝で、ベッドの上だったということだ。
【end】
ナッティは小さい方が扱いやすい。
どれくらい扱いやすいかというと、眼鏡少年が密かに『この薬毎日飲ませようか』みたいな顔をするくらい扱いやすい。
甘いものが好きなのは相変わらず(といっていいのか、昔から、という方が正しいのか)なのだが、チョコの一欠けで満足してくれるだけ可愛げがある。
──そして極めつきには、スニッフルズがぎこちなく抱きかかえれば眠ってしまって、どれだけ騒ごうが目を覚ましそうにない。
「五歳のうちから矯正すれば、甘味中毒も何とかなるかもしれません……」
「──そ」
「自分の名前くらいしか言わないから騒がしくもないです」
「う──」
「どうでしょう、これって成功なんじゃないですか?」
すやすや眠る子供を抱えて、目をきらきらさせるスニフ。それはなんだか仲のいい兄弟を見るようで中々微笑ましくもあるのだろうがそんなことに関係なくオレは声を搾り出すように言った。
「──ナッティ『は』、な」
オレは相変わらず地面に寝転がっている。スニーカーの紐を結ばれたからだ。右足と左足を結び付けられたという意味で。
「ねてんなっつーの!!」
「起きてあそべよな!!」
ビーカーを投げるのは遊びとは言わない。
泥棒のにやにや笑いの双子が、八歳のときは大人しく聖書を読む子供だと思っていたわけではないが、
「リフ、あれ見ろよ、ミドリイロだぜ!」
「投げてみよーぜにぃちゃん!!」
何が緑色なのかは見えない。……別段見たくはないのでちょうどいい。
リフティがシフティをにぃちゃんと呼んでいるのは、どうだろう、後で話のネタにできるだろうか。
「は、バッカ投げるだけじゃつまんねーよ!!」
「はぁあ!?じゃ、どーすんだよ!!」
ベルトで締め上げたズボンの裾をずるんずるんに引きずって暴れる悪餓鬼。
ベストとスーツは脱げたらしい。シャツを捲り上げて、帽子は未だにシフティの頭に乗っかっている。そして二人はオレの上に乗っかっている。……重い。
「スニッフルズ、何とかならないの」
「大丈夫ですよ、効果はすぐきれるはずですから」
名残惜しそうにスニフは言うが、最早その『はず』を信用して言いのかさえ微妙なところだ。
すると、次の瞬間、
──ぱぁあん!!
と音がした。またか。
何事かと思うが当然、
「ちょ!見たかよはじけた!!」
「すっげぇ!あれもやろーぜ!!」
「おう、リフとってこいよ!!」
「はぁっ!?しふがいけよ!!」
言い争いに発展しそうな二人を何とか転がして、両足揃ったまま起き上がる。頭の上に、何か降ってきた。
「大丈夫ですよ、ただのクラッカーですから」
完全に他人事のようにスニッフルズが言う。三人が縮んだときはあんなに焦ってたくせに。
「ほらこれと同じです」と、どこから出したのか青い柄のついたクラッカーを渡してきた。受け取りながら、髪についた紙くずを払う。
「本当に『ただの』?」
「……貰ったんですよ。僕が作ったんじゃないです」
拗ねたような声を出すが、だって前科があるだろう。
「基本的にこういう効能は日を跨げば消えてしまうので……持続性の研究をしてみてもいいかもしれませんね」
「それに協力してもらうのはナッティだけにしてくれ……」
──結局シフティ、リフティ、ナッティが元に戻ったのは、スニッフルズの家が紙テープまみれになって、ドアの取っ手が凹んで、甘いものが減って、眼鏡が歪んで、スニーカーの紐が千切れて、オレの気力が底をつきかけて、やっとそれからのことだった。
スニッフルズの家を這々の体で脱出しての、帰り道。フリッピーの家の辺りまでは帰り着いた頃。
右のポケットにはクラッカー、そして左には小さな小瓶。
スニフがナッティを見る目が剣呑としていたので回収してきた。クラッカーは返しそびれた。
──『今日』が終わるまで、あと数時間。
引っ張り出して、もう中身が残り少ない薬瓶を眺める。
『効果には個人差がある』
それはつまり、──もしかしたらオレの記憶は戻るかもしれないということ。
「…………」
魔が、差した。
蓋を開けて一粒取り出して、口に入れて、飲んで。
この時のオレが一番マヌケだったことは何かと聞かれれば、『個人差』が良いように働くとは限らないということを考えていなかった事だと答える。
──要するに気がつけば朝で、ベッドの上だったということだ。
【end】
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