実験
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「マジかパネェ!!ダテにメガネじゃなかったんだな!」
「すっげぇなオイ!貸せよ、金貨一山くらいにしてきてやんぜ!」
「錠剤なんですが、一粒で記憶が大体十年くらい遡ります」
途端にわっと湧いた双子を清々しく無視したスニフは説明を続ける。
「『記憶が遡る』というよりは、『脳を退行させる』といった方が近いかもしれません。勿論効果はすぐに切れますし、正確には記憶を戻すとは言い難いですが……その間に周りの誰かが質問をすれば、イチさんの過去はある程度分かるんじゃないでしょうか」
あれ?ダテ?だてめがね?あ?どっちが何だっけ?
伊達でも伊達眼鏡でもねーっつの何でそんな馬鹿なんだ愚弟!
相変わらず何一つ説明を聞いていない双子の応酬を背景音にして淡々と言うスニフに、なるほど。と、思いながら、オレの脳味噌は別の部分で色んな事を考えていた。
まずスニッフルズはこんな物まで作れるのか、とか、そういえばこの間も変な薬を作ってた気もする、とか、これであの頭の中の靄を晴らすことが出来るのか、とか、本当に大丈夫なのか、とか、ようやくあの誰か に会えるのか、とか、いざそうなってみると案外──怖い、とか。
視線はナッティの頭頂部に向けている。あんまり頭を押し付けるので、ずれてつむじが見えてしまっているのだ。
あんなに過去を知りたいと思っていたのに、いざこうして呆気なく手段を提示されてしまうと思いのほか飛びつきにくい。何故だろうか、オレが一番すべき事だと思っている筈なのに。
スニフは何も言わない。
黙ってオレを見ている。
薬、飲んでみようか。
でも。
飲んだら、オレは、どうなるのだろう……?
──その時、両耳の側を何かが擦り抜けた。
「あっ!」
スニッフルズが驚きの声をあげる。
オレの左右から全く違わない動作で片腕を伸ばし小瓶を掠め取った双子は、その瓶の蓋を開けて二粒取り出すと、また蓋を軽く閉めスニフに投げ返した。
「シフティ、リフティ、何やってるの?」
振り向くと二人はニヤっと笑った。
「十年前っつーことは八つかよ?」
「ハッ、よく分かったじゃねーかテメェの頭で」
「うっせクソ兄貴!!」
「なぁリフそんな昔のこと覚えてっか?」
「ねーよ!テメェもだろーが」
「ああ、全くだな」
「リフティ?シフティ?」
「「じゃぁな!十年後に会おうぜ!!」」
双子の泥棒が躊躇いもせずに薬を飲み下したのと同時に、瓶が床に転がった音が聞こえ思わず後ろを見る。と、何故かスニフがホールドアップしている。
「ナッティ、それは飴玉じゃないです……」
どうも、薬を取り出したところ指ごと喰われそうになったらしい。辛うじて避けたようだが、ナッティは口をもごもごさせている。その目はどこまでも無邪気で、スニッフルズはまた溜め息を吐いた。そして、
「まあいいです。何が起こっても明日にはリセットされてしまいますから」
と、ぼそりと呟いた。
思わず眉を寄せる。
「いや、何が起こってもって、何が起こるの」
記憶が戻るだけじゃなかったのか。
スニフは少しだけバツの悪い顔をした。
「もちろん、記憶が戻るんです。ハズです。……ただ、こういう内服薬は、効果に個人差があるので、」
かなり歯切れが悪い。大丈夫なのか?
──そういえば、この前失敗してナッティに猫耳生えたって……。
オレは急いで振り返った。リフティとシフティに余計なものが生えていないか確認するためにだ。
「シフ、て、ぃ……リフティ?」
いや、意味が分からない。
状況が判断できない。
──二人がいない。
「スニッフルズ!」
もう一度振り返ってスニフを見ると、そこにもまた妙な光景が広がっていた。白衣の少年は、その広くない背を向けてしゃがみ込んでいる。それは体で何かを隠しているように見えた。本当に何やってるんだ?
「機械なら、簡単なんです」
「スニッフルズ」
「っ、本当です。タイムマシンも作ったことあります!」
……そんなものまで造ったのか。
「ただ、あの、対人用の薬剤は、ですね、つまり、その人その人の体質が、──体質に、合わなかった場合、何が起こるか分からないといいますか、」
汗をかいているような錯覚を起こしてしまう背中が、弁解するように……、というか完全に弁解していた。
「……分かったから、なにを、っ!?」
隠しているのか訊きたかった。が、訊けなかった。
スニフに向かって近づこうとした瞬間、両足が同時に何かに躓いたのだ。引っかかった、という感じだった。いや──引っ張られた?
そこまで考えたのだが、残念ながらそのままオレはずっこけた。床に顔面直撃は気合で回避したが、体の前面が恐るべき勢いで地面と挨拶したことには変わりはない。見た目は地味だが、かなり痛い。そして視点が変わったことで、スニッフルズが何を抱えていたのかがはっきりと見えた。
──だぼだぼ、という言葉では表現しきれないくらい体に合わない服を着た、黄緑色の髪の子供。くるくる回るオッド・アイ。
その瞬間オレは全てを悟った。
「戻ってるの、絶対記憶だけじゃないだろ……」
打ち付けた肘の痛みと、悩ましい現状にオレはとりあえずそのまま突っ伏したのだった。
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「マジかパネェ!!ダテにメガネじゃなかったんだな!」
「すっげぇなオイ!貸せよ、金貨一山くらいにしてきてやんぜ!」
「錠剤なんですが、一粒で記憶が大体十年くらい遡ります」
途端にわっと湧いた双子を清々しく無視したスニフは説明を続ける。
「『記憶が遡る』というよりは、『脳を退行させる』といった方が近いかもしれません。勿論効果はすぐに切れますし、正確には記憶を戻すとは言い難いですが……その間に周りの誰かが質問をすれば、イチさんの過去はある程度分かるんじゃないでしょうか」
あれ?ダテ?だてめがね?あ?どっちが何だっけ?
伊達でも伊達眼鏡でもねーっつの何でそんな馬鹿なんだ愚弟!
相変わらず何一つ説明を聞いていない双子の応酬を背景音にして淡々と言うスニフに、なるほど。と、思いながら、オレの脳味噌は別の部分で色んな事を考えていた。
まずスニッフルズはこんな物まで作れるのか、とか、そういえばこの間も変な薬を作ってた気もする、とか、これであの頭の中の靄を晴らすことが出来るのか、とか、本当に大丈夫なのか、とか、ようやくあの
視線はナッティの頭頂部に向けている。あんまり頭を押し付けるので、ずれてつむじが見えてしまっているのだ。
あんなに過去を知りたいと思っていたのに、いざこうして呆気なく手段を提示されてしまうと思いのほか飛びつきにくい。何故だろうか、オレが一番すべき事だと思っている筈なのに。
スニフは何も言わない。
黙ってオレを見ている。
薬、飲んでみようか。
でも。
飲んだら、オレは、どうなるのだろう……?
──その時、両耳の側を何かが擦り抜けた。
「あっ!」
スニッフルズが驚きの声をあげる。
オレの左右から全く違わない動作で片腕を伸ばし小瓶を掠め取った双子は、その瓶の蓋を開けて二粒取り出すと、また蓋を軽く閉めスニフに投げ返した。
「シフティ、リフティ、何やってるの?」
振り向くと二人はニヤっと笑った。
「十年前っつーことは八つかよ?」
「ハッ、よく分かったじゃねーかテメェの頭で」
「うっせクソ兄貴!!」
「なぁリフそんな昔のこと覚えてっか?」
「ねーよ!テメェもだろーが」
「ああ、全くだな」
「リフティ?シフティ?」
「「じゃぁな!十年後に会おうぜ!!」」
双子の泥棒が躊躇いもせずに薬を飲み下したのと同時に、瓶が床に転がった音が聞こえ思わず後ろを見る。と、何故かスニフがホールドアップしている。
「ナッティ、それは飴玉じゃないです……」
どうも、薬を取り出したところ指ごと喰われそうになったらしい。辛うじて避けたようだが、ナッティは口をもごもごさせている。その目はどこまでも無邪気で、スニッフルズはまた溜め息を吐いた。そして、
「まあいいです。何が起こっても明日にはリセットされてしまいますから」
と、ぼそりと呟いた。
思わず眉を寄せる。
「いや、何が起こってもって、何が起こるの」
記憶が戻るだけじゃなかったのか。
スニフは少しだけバツの悪い顔をした。
「もちろん、記憶が戻るんです。ハズです。……ただ、こういう内服薬は、効果に個人差があるので、」
かなり歯切れが悪い。大丈夫なのか?
──そういえば、この前失敗してナッティに猫耳生えたって……。
オレは急いで振り返った。リフティとシフティに余計なものが生えていないか確認するためにだ。
「シフ、て、ぃ……リフティ?」
いや、意味が分からない。
状況が判断できない。
──二人がいない。
「スニッフルズ!」
もう一度振り返ってスニフを見ると、そこにもまた妙な光景が広がっていた。白衣の少年は、その広くない背を向けてしゃがみ込んでいる。それは体で何かを隠しているように見えた。本当に何やってるんだ?
「機械なら、簡単なんです」
「スニッフルズ」
「っ、本当です。タイムマシンも作ったことあります!」
……そんなものまで造ったのか。
「ただ、あの、対人用の薬剤は、ですね、つまり、その人その人の体質が、──体質に、合わなかった場合、何が起こるか分からないといいますか、」
汗をかいているような錯覚を起こしてしまう背中が、弁解するように……、というか完全に弁解していた。
「……分かったから、なにを、っ!?」
隠しているのか訊きたかった。が、訊けなかった。
スニフに向かって近づこうとした瞬間、両足が同時に何かに躓いたのだ。引っかかった、という感じだった。いや──引っ張られた?
そこまで考えたのだが、残念ながらそのままオレはずっこけた。床に顔面直撃は気合で回避したが、体の前面が恐るべき勢いで地面と挨拶したことには変わりはない。見た目は地味だが、かなり痛い。そして視点が変わったことで、スニッフルズが何を抱えていたのかがはっきりと見えた。
──だぼだぼ、という言葉では表現しきれないくらい体に合わない服を着た、黄緑色の髪の子供。くるくる回るオッド・アイ。
その瞬間オレは全てを悟った。
「戻ってるの、絶対記憶だけじゃないだろ……」
打ち付けた肘の痛みと、悩ましい現状にオレはとりあえずそのまま突っ伏したのだった。
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