出口
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「……ラッセルは、この街を出ようとは思わないの?」
話題をいくつか戻して訊くと、その唐突さに黒い帽子が微かに揺れたように見えた。二転三転する話題にそろそろ呆れられたかもしれない。
「街から、か?」
「うん」
さり気無く、足先を海面から離すように靴底を堤防の壁に擦り付ける。ずり、とゴムの擦れる音。隣に向き直ればラッセルはまだ海を見たままで、釣り糸を引っ張って水からあげていた。その先には、餌を取られたのか何も付いていない。
「──いや、思ったことねぇよ」
「なにか理由がある?」
訊いてみると、ラッセルは少しだけ困ったように眉根を寄せた。「釣りが出来るし……」と言った後、自分でも『違うな』という風に首を傾げた。
「……でも」
「ああ、釣りならここじゃなくても出来るわな……なんでだろうな。ランピーと釣りしちゃ死ぬし、しなくても死ぬし。ヒーローは救っちゃくれねぇ。フリッピーは正直ちと怖えしな」
言いながらラッセルは浮きのついた釣り糸を投げる。それはぽちゃんと水面に落ちた。
でも、と呟いた口元に細い三つ編みが一筋重なる。
「……なんでかこっから離れようとは思えねぇんだよなあ」
視線の先は海。
その浜辺の浅瀬にピンクルビーを落としたような、浅葱と淡紅のバイカラーの瞳はしかし、不思議そうな声の割にはその事について納得しているようにも見える。
「んで、イチは?」
「え?」
スイッチが切り替わるように、心地の良い軽さに戻った声がごく気楽に問いかける。釣竿に話しかけるような気安さで、一瞬戸惑い聞き返せば元海賊は笑って目尻に皴を刻んだ。
「お前さんはどうなんだよ。ここから出たいのか?」
出たい?ここから?
そんな事は──考えてもいなかった。
「でたくない」
「おう、そっか。俺も何でか訊いていいか?」
「それは分からない、けど……」
「なんだ、じゃあ俺と同じなのな」
「……うん」
ラッセルはまだ海を見たままだ。
「もし、理由が分かったら俺にも教えてくれ」
「うん……」
もやもやした、霧の向こうに、オレは手を伸ばし続けるだろう。
それを晴らそうとするだろう。向こう側の誰かに会うために。
やめることは出来ない。
それこそが、オレのやるべき事であるような気さえする。でもそれはきっと──この街にいても出来る事だ。
「……理由が分かったらラッセルに最初に教えるよ」
そう言うとラッセルは初めてこっちを向いて、オレには出来ない優しい顔で笑った。
「おう、期待して待っててやるよ!」
【end】
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