大工
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金属箱の取手を握ったままの掌にじわりと汗が滲んで、かすかに鉄の香りがする。
ハンディ、と呼べば何かを言おうとするように動いた口が止まり、オレの言葉を待ってくれる。
「オレに大工仕事は出来ない」
「……いや、それはそうだろうな」
改めて見上げてきっぱりと言えば、何故か呆れた声がした。
そうか。既に知られていたらしい。
「でもハンディが凄い大工なのは知ってる」
オレもそれなりにこの街での時を過ごしたが、とはいえ然程昔の事では無い筈だ。今住んでいる小さなあの家が、目の前にいる大工によって造られたのは。そして更地からそれが、出来上がっていくのを毎日の様にオレが眺めていた日々は。──ハンディは普段からとてもしっかりしていて、それは何故備わっているのかも忘れている直感などではなく自分の目で見てきた事実として知っている。
同じく思い当たったのか、黄色いヘルメットの下でオレンジ色の瞳が僅かに見開いた。
まぁ、確かにオレはハンディ以外の職人を知らないので、その業界内での巧拙がどうかとか相場がどうかとかそういう意味では確かに分からないが。
しかしながらまごうことなくこの目で過程を見て、実際に完成品に住んでいる身としてはその手腕を疑うべくも無いのだけれど。
「大工仕事がひとりで出来るのも知ってる。ハンディはだから、情けなくないとオレは」
オレに出来る手伝いなど精々がところ螺子山を作る事か、少し頑張って鉋屑の掃除くらいだ。大工仕事の肩代わりを期待されると困る。
……さっき、ハンディが怪我をしているのかと勘繰ったとき。自分が怪我をした訳でも無いのに、まるで自分が怪我をしたように思った。──自分が怪我をするよりも何か嫌だった。
それが、だから、嫌だっただけなんだ。怪我をしたような痛いような……傷ついた顔をさせたかった訳じゃない。
もっと伝えたい事があるような気がするのに、継ぐべき二の句が見当たらず、なにか急かされるような衝動に駆り立てられる。
いつかのフレイキーもこんな気持ちだったのだろうか。
ふ、と地面に落ちた影が濃くなる。いつの間にか下を向いていたらしい。
「いや悪い……俺が悪かった。そうだな、お前ずっと見に来てたもんな。──疑うとか、そんな意味な訳なかった」
目線を合わせるように屈み込んで、独り言のように呟くハンディを見返せばそこにあったのは顰め面で、でもそれはいつもの顰め面で、……オレはどうしてかとても安心してしまった。
「ごめんな、ありがとう」
二人してしゃがみ込んだまま、ハンディは緩くお辞儀をするように傾けたヘルメットでオレの頭を軽く小突いた。
こつん、と痛みは無くぶつかるそれは、初めて知る感覚の筈なのに物凄く懐かしいような錯覚が湧き上がり、困惑と共に額を擦ればよく知る大工はようやくいつものように、はは、と笑った。
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