蘇生
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──昨日。
「見たことねぇ顔だな」
フリッピーと同じ顔をしたフリッピーじゃない人は、一瞬不愉快そうにオレを見て言った。血濡れのナイフは手に持ったまま。ついでに言えば、オレもそのとき血濡れの腕を持っていたわけだから、気の弱い人が見たら気絶モノの光景だった筈だ。
「誰?」
訊いてみると、
「フリッピー」
誰だか分からない人はフリッピーと全く同じ顔で全く違う表情で、ついさっきまで深い緑だったはずの瞳を鈍い金に光らせていた。
「さっき違うって言った」
「うるせぇよガキ」
金色は、あー、とかなんとか言いながら怠惰そうに近づいて怠惰そうにオレを捕獲する。
なんというか、これではオレがずば抜けた間抜けのような描写になってしまうのだが、フリッピーじゃない人の動きには隙がなく、特段素早く動いているわけでもないのにまるで逃げられなかった。
「は、──ハジメマシテ、ってか?折角だだんまりじゃ面白くねぇだろうが、なぁ?泣いて喚いて命乞いする時間でもやろぉか」
逃げる暇はあるが、逃げる隙がない。
フリッピーが被っていた軍帽が若草色の髪から滑り落ちる。
言葉だけならば弾んだ調子で、そして今まで見たことのないくらい乾いた瞳はただ金色で、それだけで、景色も、散らばった血溜りも、次に死ぬのだろうオレも何も映ってはいない。何を答えたら良いのかは分らず、いつの間にか首筋に当てられたナイフを他人事のように黙って認識していると、吐き捨てるような台詞が降ってきた。
「……なんだクソガキ、死にたがりか?」
「死にたいわけじゃない」
明確な疑問符に一言返す。冷たい刃が一層押し当てられた気配と舌打ちが聴こえた。
「つうかそもそもてめぇは誰なんだよ」
「モールさんの隠し子」
「嘘だろ」
「嘘だよ」
ナイフからフレイキーの血がつつ、と伝って首を流れる。
面白くないというから、主治医を真似て冗談というものを言ってみたのだがこれも面白くなかったらしい。
次の瞬間なにが起こるのかを何となくに悟ったオレは、とりあえずずっと持っていた腕を持ち上げて、ばいばい、と振って見せた──
「貴方を産んだ覚えはありません」
どうやらオレのジョークの評判はすこぶる悪いらしい。
「冗談だよ」
「そうでしょうとも」
モールさんは少しも零さずにコーヒーを啜る。それはランピーが疑うのも無理はないような自然な動作だったが、モールさんの盲目は生まれつきなのだと聞いたことがある。だったら熟練の成果なのだろう。ちなみにオレは牛乳を飲んでいる。背が伸びるかと思って。
「それで、何か訊きたい事があるんでしょう?」
見透かされている感じが凄い。
顔を見上げると、最初に会ったときみたいな冷たい笑顔が微笑んでいた。
「よく分かるね」
「ただの勘ですよ」
「……」
「貴女も概ね予想しているでしょうけれど、フリッピーに訊けば恐らく隠さず教えてくれますよ。私に訊きに来たのはフリッピーの家までの道順ですか」
「……よく分かるね」
モールさんは今サングラスを掛けていない。朝で家の中だから。だから色素の薄い瞳は丸見えだった。殆ど白か透明に近いその眼は、青みたいな灰色みたいな色味が少しだけ残っていて、まるで氷みたいだった。透き通る氷は、それでもオレの姿を映す。
フリッピーを訪ねた後に会いたい人が居るから、今日も死ぬかもしれない。とモールさんに言うと、描いてくれた簡単な地図を渡しながら「逝ってらっしゃい」と手を振ってくれた。
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