1137年 皇帝トパーズ
皇帝トパーズ、運河要塞を攻略する
「城下町に泥棒が現れています。なかなか捕まえることができません」
「ふむふむ」
正式にあたしが戴冠式を行った翌日。あたしは内務大臣からの奏上を玉座で聞いていた。
泥棒の話は、ちょっと宮殿を抜け出した時に城下町でも話題になっていたなと思い出す。
「また、ロンギット海の支配権を運河要塞の連中が主張し、通行税の取り立てなどを勝手に行っている模様。先帝もこれに手を焼いておりました。……報告は以上です」
「なるほど。ありがとう」
運河要塞は昔から「あそこには荒くれ者が多くいるから近づくな」って言われていたっけ。特にあの近隣の村や町は、迷惑を被っていると聞いた覚えがある。
「ふー」
――皇帝の責務は、七英雄の討伐と世界の統一。倒した七英雄はジェラール様の時代、ソーモンを支配していたというクジンシーのみ。とりあえず他の地域に進出や七英雄を倒す前に、地元の地盤を固めておく必要があるだろう。
『すっかり皇帝らしくなったね、トパーズ』
あたしがそんなことを考えていると、突然頭の中にジェラール様の声が響く。彼の人の声は、正式に戴冠式を迎えた後から再び聞こえてくるようになった。どうせならなりたての頃に色々教えて欲しかったんですけど!? ……という苛立ちを抑えて声に出さないように頭の中で返事をする。
「(そりゃどーも。というかジェラール様がまず運河要塞どうにかすべきだったんでは?)」
『そこを突かれると痛いな。でも宝石鉱山を確保して財源を得たかったんだ。術法研究所、私の代で建てたかったんだけど、お金がなくてね。あと強い武器防具の開発も』
「(なるほど、そういう理由ね~)」
「……トパーズ陛下。いかがなされますか?」
黙りこくったあたしを訝しむように大臣が声をかける。あーもう! 面倒くさいから人がいる前で声をかけないでったら!!
「えっ、あ、そうね……城下町のことと運河要塞、同時進行で調べてみましょうか。直属兵を二手に分けるわ。シャーリーとウォーラスが城下町。運河要塞にタウラスとジェイスンで」
「かしこまりました。トパーズ陛下はいかがなさいますか」
「……溜まってる書類を片付けてからどっちかに合流するわ」
重いため息を吐きながら答える。そう、捌いても捌いても終わらない書類地獄にあたしの頭は限界になりちょいちょいサボっていた。それはまあ当然、余計に書類が溜まるという悪循環ではあるのだけど。
「はい。それがよろしいかと。どちらかに付くと仰ったら、執務室に強制連行するつもりでした」
「ちょっと! 皇帝をなんだと思ってるの!?」
「皇帝陛下への奏上の数々、早く下々の者へと許可を出さねば政務が滞りますゆえ」
「うぐっ」
『うん。これは大臣が正しいね』
目の前では大臣、頭の中でジェラール様の正論ダブルパンチが痛い。そして大臣から追撃のおまけがきた。
「私、至極真っ当な意見を申し上げているだけですが?」
「あーハイハイわかりましたさっさと片付けて城下町の視察に行くから!」
「ええ。全部片付けてからなら幾らでもどうぞ」
『……君、よく宮廷魔術士に登用されたね?』
「(お母さんの教え方が上手かったのよ! というかジェラール様、案外ズバズバ言いますね?)」
『そう? ……ああ、そうだった。皇子時代はあまり言えなかったけれど、皇帝になってからは言うようになったんだった』
「(だったらあたしが皇帝なりたての時に色々教えて欲しかったんですけど~?)」
『“痛みなくして得るものなし”という格言があるだろう? なんでも先回りして教えすぎるのも良くないと思ってね』
「(でたー! ああ言えばこう言うタイプ!)」
『ははは、とりあえず泥棒の件と運河要塞の攻略、頑張って! 本当にどうしようもなくなったら、その時は助けるよ』
「(……ハイハイ。あまり期待しないで待っておくわ)」
「陛下、先程から百面相なさっていますが大丈夫ですか?」
「あっ、えーっと、どうやって手早く書類片付けられるか考えていたのよ!」
「……考える前に、さっさと目を通すのがよろしいかと」
「……ですよねー! じゃあちょっと執務室籠ってるから!! みんなには大臣から伝えておいて!」
「はい。かしこまりました」
あたしは勢いよく立ち上がり、一目散に執務室へと駆けていく。こればかりはあたし自身がやらないといけないのだから。頭の中で『がんばれ~』とジェラール様に応援されながら、あたしはしばし机に齧り付くこととなったのである。
(続く)
「城下町に泥棒が現れています。なかなか捕まえることができません」
「ふむふむ」
正式にあたしが戴冠式を行った翌日。あたしは内務大臣からの奏上を玉座で聞いていた。
泥棒の話は、ちょっと宮殿を抜け出した時に城下町でも話題になっていたなと思い出す。
「また、ロンギット海の支配権を運河要塞の連中が主張し、通行税の取り立てなどを勝手に行っている模様。先帝もこれに手を焼いておりました。……報告は以上です」
「なるほど。ありがとう」
運河要塞は昔から「あそこには荒くれ者が多くいるから近づくな」って言われていたっけ。特にあの近隣の村や町は、迷惑を被っていると聞いた覚えがある。
「ふー」
――皇帝の責務は、七英雄の討伐と世界の統一。倒した七英雄はジェラール様の時代、ソーモンを支配していたというクジンシーのみ。とりあえず他の地域に進出や七英雄を倒す前に、地元の地盤を固めておく必要があるだろう。
『すっかり皇帝らしくなったね、トパーズ』
あたしがそんなことを考えていると、突然頭の中にジェラール様の声が響く。彼の人の声は、正式に戴冠式を迎えた後から再び聞こえてくるようになった。どうせならなりたての頃に色々教えて欲しかったんですけど!? ……という苛立ちを抑えて声に出さないように頭の中で返事をする。
「(そりゃどーも。というかジェラール様がまず運河要塞どうにかすべきだったんでは?)」
『そこを突かれると痛いな。でも宝石鉱山を確保して財源を得たかったんだ。術法研究所、私の代で建てたかったんだけど、お金がなくてね。あと強い武器防具の開発も』
「(なるほど、そういう理由ね~)」
「……トパーズ陛下。いかがなされますか?」
黙りこくったあたしを訝しむように大臣が声をかける。あーもう! 面倒くさいから人がいる前で声をかけないでったら!!
「えっ、あ、そうね……城下町のことと運河要塞、同時進行で調べてみましょうか。直属兵を二手に分けるわ。シャーリーとウォーラスが城下町。運河要塞にタウラスとジェイスンで」
「かしこまりました。トパーズ陛下はいかがなさいますか」
「……溜まってる書類を片付けてからどっちかに合流するわ」
重いため息を吐きながら答える。そう、捌いても捌いても終わらない書類地獄にあたしの頭は限界になりちょいちょいサボっていた。それはまあ当然、余計に書類が溜まるという悪循環ではあるのだけど。
「はい。それがよろしいかと。どちらかに付くと仰ったら、執務室に強制連行するつもりでした」
「ちょっと! 皇帝をなんだと思ってるの!?」
「皇帝陛下への奏上の数々、早く下々の者へと許可を出さねば政務が滞りますゆえ」
「うぐっ」
『うん。これは大臣が正しいね』
目の前では大臣、頭の中でジェラール様の正論ダブルパンチが痛い。そして大臣から追撃のおまけがきた。
「私、至極真っ当な意見を申し上げているだけですが?」
「あーハイハイわかりましたさっさと片付けて城下町の視察に行くから!」
「ええ。全部片付けてからなら幾らでもどうぞ」
『……君、よく宮廷魔術士に登用されたね?』
「(お母さんの教え方が上手かったのよ! というかジェラール様、案外ズバズバ言いますね?)」
『そう? ……ああ、そうだった。皇子時代はあまり言えなかったけれど、皇帝になってからは言うようになったんだった』
「(だったらあたしが皇帝なりたての時に色々教えて欲しかったんですけど~?)」
『“痛みなくして得るものなし”という格言があるだろう? なんでも先回りして教えすぎるのも良くないと思ってね』
「(でたー! ああ言えばこう言うタイプ!)」
『ははは、とりあえず泥棒の件と運河要塞の攻略、頑張って! 本当にどうしようもなくなったら、その時は助けるよ』
「(……ハイハイ。あまり期待しないで待っておくわ)」
「陛下、先程から百面相なさっていますが大丈夫ですか?」
「あっ、えーっと、どうやって手早く書類片付けられるか考えていたのよ!」
「……考える前に、さっさと目を通すのがよろしいかと」
「……ですよねー! じゃあちょっと執務室籠ってるから!! みんなには大臣から伝えておいて!」
「はい。かしこまりました」
あたしは勢いよく立ち上がり、一目散に執務室へと駆けていく。こればかりはあたし自身がやらないといけないのだから。頭の中で『がんばれ~』とジェラール様に応援されながら、あたしはしばし机に齧り付くこととなったのである。
(続く)
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