1000〜1002年 レオン・ジェラール帝
「うたかたの中で微笑むひと」
「……ラール、ジェラール。そろそろ起きなさい」
「……う……ううん……はっ!?」
誰かに肩を揺さぶられ、名前を呼ばれてハッと顔を上げる。目の前には書類が散らばった机があり、後ろを振り向けば声の主が自分を優しく見守っている。
「はっはっは! ずいぶんと気持ち良さげな顔で寝ていたなジェラール。起こすのを躊躇ったぞ」
「ごめん、じゃない、申し訳ございません、ヴィクトール陛下」
「なに、今ここには私とお前しかいないんだ。兄さんでいいんだぞ」
そこには楽しげに笑う兄が、バレンヌ帝国皇帝となったヴィクトール陛下が——
***
「——陛下。ジェラール陛下」
「ッ!?」
兄の笑顔が一瞬で暗転した。再び肩を揺さぶられ、顔を上げる。そこにいたのは父の代から変わらず私に仕えてくれる部下の一人、帝国猟兵のテレーズだった。……どうやら私は、執務室でうたた寝をしていたらしい。
「お休みのところ、申し訳ございません」
「……いや、いいんだ。うっかり寝入ってしまった私が悪いのだから」
「ここのところ遠征が続いていましたもの。仕方がありませんわ」
「ありがとう。君は変わらず優しいな」
「あら、おだてても何も出ませんよ? それより、どんな夢を見ていらしたのでしょう。とても穏やかな寝顔でしたわ」
「えっ……と」
言われて夢のことを思い返そうとしたが、どうにも思い出せなかった。でも、彼女の言う通り、悪い夢ではなかったのだろう。
「陛下?」
「すまない。夢の内容は忘れてしまったようだ」
「そうでしたか。ですが、寝ている時に見る夢は起きてから忘れてしまうくらいが丁度いいのかもしれませんね」
「ああ、そうかもしれないな。ただ、見ていて楽しかったという思いがあればいいのだろう。……さて、溜まっている書類の確認をしないとだな」
「ふふっ、そうですね。では、私は眠気覚ましの薬湯を持ってきます」
「ありがとう、テレーズ」
バレンヌ帝国は、南北バレンヌを統一したばかりで、七英雄もクジンシーと相見えただけ。いつ、父上が目指していた世界統一、そして七英雄を全員倒すことができるのか……先は全く見えない。
「それでも、私は私の出来ることをやるしかない」
私の中にいる父上と兄さんが、笑った気がした。
【了】
「……ラール、ジェラール。そろそろ起きなさい」
「……う……ううん……はっ!?」
誰かに肩を揺さぶられ、名前を呼ばれてハッと顔を上げる。目の前には書類が散らばった机があり、後ろを振り向けば声の主が自分を優しく見守っている。
「はっはっは! ずいぶんと気持ち良さげな顔で寝ていたなジェラール。起こすのを躊躇ったぞ」
「ごめん、じゃない、申し訳ございません、ヴィクトール陛下」
「なに、今ここには私とお前しかいないんだ。兄さんでいいんだぞ」
そこには楽しげに笑う兄が、バレンヌ帝国皇帝となったヴィクトール陛下が——
***
「——陛下。ジェラール陛下」
「ッ!?」
兄の笑顔が一瞬で暗転した。再び肩を揺さぶられ、顔を上げる。そこにいたのは父の代から変わらず私に仕えてくれる部下の一人、帝国猟兵のテレーズだった。……どうやら私は、執務室でうたた寝をしていたらしい。
「お休みのところ、申し訳ございません」
「……いや、いいんだ。うっかり寝入ってしまった私が悪いのだから」
「ここのところ遠征が続いていましたもの。仕方がありませんわ」
「ありがとう。君は変わらず優しいな」
「あら、おだてても何も出ませんよ? それより、どんな夢を見ていらしたのでしょう。とても穏やかな寝顔でしたわ」
「えっ……と」
言われて夢のことを思い返そうとしたが、どうにも思い出せなかった。でも、彼女の言う通り、悪い夢ではなかったのだろう。
「陛下?」
「すまない。夢の内容は忘れてしまったようだ」
「そうでしたか。ですが、寝ている時に見る夢は起きてから忘れてしまうくらいが丁度いいのかもしれませんね」
「ああ、そうかもしれないな。ただ、見ていて楽しかったという思いがあればいいのだろう。……さて、溜まっている書類の確認をしないとだな」
「ふふっ、そうですね。では、私は眠気覚ましの薬湯を持ってきます」
「ありがとう、テレーズ」
バレンヌ帝国は、南北バレンヌを統一したばかりで、七英雄もクジンシーと相見えただけ。いつ、父上が目指していた世界統一、そして七英雄を全員倒すことができるのか……先は全く見えない。
「それでも、私は私の出来ることをやるしかない」
私の中にいる父上と兄さんが、笑った気がした。
【了】
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