1000〜1002年 レオン・ジェラール帝

「屋根裏の散歩者」

 夜も更けた頃、それは唐突にやってきた。
「皇帝さん、今日もお仕事?」
「ああ、キャットか」
 微かに開く窓の音に気づいた瞬間には、背後から私の手元を覗き込む彼女がいた。
「他の人に任せられないの?」
「これは私が決定を下さないといけないんだよ」
むう、と唸りながら羊皮紙を見るキャットへ苦笑しながら言えば、彼女はその愛らしい頬を膨らませる。
「もー、そんなに連目連夜夜更かししてたら身体に悪いでしょ!」
 だが、人のことは言えないぞと暗に言えば、彼女は顔を赤くして言い返す。ああ、本当に彼女は見ていて飽きないな、なんて思ってしまう。
「それを言うなら君もだろう?」
「あ、あたしは夜にシーフとしての仕事があって、昼間寝てるもん! それに、ずっと座ってるのも体に良くないよ! ほら、行こう!」
「えっ」
 そうしてグイッと手を引っ張られ、不意をつかれたせいか椅子から身体が簡単に離れた。
「夜の散歩も乙なものですよ、皇帝陛下?」「……そうだな。では、案内を頼むよ」
「ふふっ。では、夜の帝都アバロン散歩コースに一名様ご案内~!」
 そうして私は、彼女が入ってきた窓から彼女と共に宮殿の外へと飛び出して行った。

「屋根裏の散歩者」
お題bot@レム睡眠@rem_odai

  ***

「月夜に輝く君はキレイで」

「ふっふっふー、夜の散歩は如何でしょうか、皇帝陛下?」
 窓からやってきた白い子猫に連れられて、城壁から帝都を俯瞰する。今日は満月。月明かりのおかげで夜のアバロンの街がよく見えた。昼間であれば賑やかな大通りも、夜の帳が下りれば風の音しか聞こえてこない。この夜の静けさも、平穏だからこそ存在しているのだろう。
「うん。夜の静かなアバロンの街を見るのも良いものだね」
「でしょう! 昼のアバロンの好きだけど、あたしは夜のアバロンも好きなの。この街に守られて、あたしはこの街を守ってるんだって思えるから」
 そうして猫のようにするりとキャットが私の隣に腰を下ろす。彼女と同じことを思っていたのだと知って驚くと同時に嬉しかった。
「——同じことを思っていた」
「えっ」
「この街から一歩出れば、外は危険と隣り合わせの世界だ。このアバロンの街の城壁と、宮殿と、君たちと、私が、この日々を守っているんだな、と」
「——ええ、そうですよ。皇帝陛下。これからもしっかり守ってくださいね?」
 悪戯っ子のような顔でキャットが言うから、私もつい、真似をしてみてしまった。
「でも、私一人ではこの広さは守りきれないな。君にも手伝って欲しいんだけど」
 私がそう言うと、キャットは一瞬目を丸くして、それからニコリと微笑んだ。
「もっちろんだよ! 皇帝さん!!」

「月夜に輝く君はキレイで」
お題配布bot@bollboy21

 ***

「この夜が明けたなら」

「——もうすぐ夜明けだな」
「うん、そうだね」
 気晴らしにと子猫に誘われた、帝都アバロンの夜の散歩。昼間と違う街の中を二人でひたすら歩き回って、気がつけば、東の空が黒から藍色に、そして橙色へと変化していた。今は、アバロン宮殿のテラスから二人で空を眺めている。
「さて、皇帝陛下。夜の帝都アバロン散歩コース、いかがでしたか?」
 徐々に明るくなり、隣にいるキャットの顔が、髪が昇り始めた眩い陽光に照らされ橙色に染まる。そして、どこか得意気な君の顔がよく見えた。
「ああ、とても楽しかったよ」
 私が素直な感想を伝えれば、朝日の輝きに負けないくらい明るい笑顔を浮かべる君がいた。それは、満月の下で見た微笑みとはまた違った美しさがあって。
「よかった! それじゃ……」
「——うん。だから今度は、私と早朝のアバロンを散歩してもらえるかな」
 私は、その場から踵を返す君の手を取っていた。

「この夜が明けたなら」
秋桜お題bot@cosmosno

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