1137年 皇帝トパーズ


皇帝トパーズ、戴冠式から逃走中
~Empress topaz escapes from the coronation~


「汝、トパーズ・ゴルトファルベを新たなバレンヌ帝国皇帝とここに認める」
 アバロン宮殿・玉座の間。
 数多の人が見守る中、私は頭を下げるとレオン帝時代から帝国を支えているという貴族から王冠を授けられた。――ああ、これで『私』は名実共に『皇帝』となったのだ。
 私は息を吸い込みぐっと唇を噛み締め、頭に乗せられた王冠の重みに耐えながら、ゆっくりと頭を上げた。王冠を授けた貴族が頷いたのを確認すると、震える足を叱咤し意を決して後ろを振り向く。
 そこには、玉座の間に集った多くの人がいた。私が守るべき人たちであり、同時に私を支えてくれる人たちが。そう思った瞬間、息を自然と吐いていた。きっと、代々の皇帝達も同じことを感じたのだろう。私は、今度は思いっきり息を吸い込んだ。
「私は、トパーズ。皇帝トパーズ。このバレンヌ帝国の新たな皇帝である! 先帝の無念を晴らし、帝国をより繁栄させることを、今ここに誓う!」
 私がそう叫ぶように言えば、周囲から割れんばかりの拍手喝采が響いた。これでよかったんだろうか、と少しだけ不安になってつい両隣をチラリと見た。ジェイスンは目が合うとすぐに視線をずらしたかと思えば、私の背中をそっと叩いた。タウラスは目が合うと微笑んでくれた。二人のその優しさに、思わず目頭が熱くなる。――ああ、いけない。前を見なきゃ。もう私は選ばれたのだから。
 そうして私は再び前を向き、もう一度玉座の間を見渡した。

一一三七年、初夏。ここに新たな皇帝が即位した。皇帝トパーズ。後に送られた号は青嵐帝。
 これは、長い新緑色の髪を靡かせ颯爽と走っていく彼女の姿からつけられたという。

***

「……」
 初夏とはいえ、夜明け前となれば空気はまだ冷える。私は掛けていた毛布を勢いよくめくって起き上がり、傍らに置いておいた草臥れたローブを羽織ってそうっと窓を開けた。
 東の空は黒から藍色、そして橙色へと徐々に明るくなっていた。こんな時間に起きている人間は、宮殿内で寝ずの番をしている兵士や夜職の人間くらいなものだろう。
「……」
 冷たい風が頬を撫ぜて、髪を靡かせていく。一度大きく息を吸い込んだ。
 ――これは、『私』が『私』である時の、最後の悪あがき。
 そして窓枠に足をかけて身を乗り出す。
 ――みんな、ごめんなさい。時間になれば戻るから。
「……っ!」
 ――だから、『私』が『私』でいられる時間をください。
 そして私は、窓枠を蹴って飛んだ。風の術法エアスクリーンを幾重にも展開して、落下の衝撃に備える。
「……! っ、よし……」
 多少足がビリビリと痺れるがまあ想定内だ。辺りを見回し、周囲に人影がないかを探る。そうして私は誰もいない方へと一目散に駆け出した。

***

 アバロン宮殿の朝は早い。日が昇る頃にはもう各々持ち場について働き始めている。
 夜警の兵士から日中の兵士たちへの引き継ぎに始まり、厨房の料理人たちがその腕を奮い始め、メイドや使用人たちが皇帝の元へと挨拶に向かう。
「失礼致します、トパーズ陛下。朝の支度に参りました」
 皇帝の私室をメイドがノックする。だが返事はない。まだ寝ているのだろうか。メイドがドアに手をかけると、それは難なく開いた。――おかしい。昨夜、自分が確かに鍵を閉めたのに。
「し、失礼致します!」
 そのままドアを開ける。そのベッドは掛布が捲られたまま。そこにあるべき主人の姿は何処にもない。次に目に入ったのは開け放たれたままの窓。急いで駆け寄りその下を覗くが誰もいない。いるわけないと思いつつ、ベッドの下やクローゼットの中など室内を隈なく捜す。その時だった。机の上の羊皮紙に気づいたのは。
「!!」
"戴冠式にはちゃんと出席するので捜さないでください"
 とりあえず何者かに攫われたとかそういうものではない事に安堵するが、メイドは頭を抱えた。
「……これ、どうしよう……」
 だが捜さないという選択肢はこちらには存在しない。とりあえずメイド長に報告しなければ、とメイドは書き置きを握りしめて皇帝の寝室を後にした。

「……というわけで現在逃亡中の皇帝陛下の捜索及び確保をよろしく頼む……」
「「……」」
 職付きの兵士たちの登城時間は、基本的に日が昇りきる頃である。にもかかわらず、フリーファイターのジェイスンと宮廷魔術士のタウラスは朝早くから宿舎の戸を叩かれ起こされ、大臣たちの詰所へと押し込まれた。先程の理由で。
 よりにもよって、戴冠式の当日にその人物が逃亡するなど、前代未聞である。
 目の前にいる大臣は手を組んでまるで祈りを捧げるようなポーズで、この世の終わりだとでも言いたい顔をしてる。タウラスはその場で叫び出したいのをグッと堪えたが、ジェイスンは盛大なため息を吐いた。
「……とりあえず、アイツが行きそうな場所に手当たり次第行って見るしかねーな」
「うん、そうだね……」
 宮殿内はすでに一般兵士たちによって捜されている。あと他にいるとしたら城下町の方だろうか。戴冠式まであと四時間。準備など考えれば三時間が限度だろう。二人はダッシュでその場を後にした。

***

「まさか格闘家になろうとしてた時の修行が役にたつとはね」
 宮殿の見回りを行う兵士たちに対して物陰に隠れてやり過ごすのに、素早く動けたのはかつて行っていた修行の賜物だろう。こんな事をする為に教えたわけじゃない、と父親からは怒られそうだが知ったことか。使えるものは何でも使うのが私の信条である。けれどあまりモタモタしていられない。もうすぐ日が昇る。
「……ニーベル村に行くまで、馬がないとなあ……」
 そう、戴冠式前に私が逃亡した理由。どうしても、戴冠式の前に自分の故郷に戻りたかったのだ。『皇帝』になる前に。もう二度と足を踏み入れるものかと思っていたけれど、今行かなきゃ後悔する気がして。そしてアバロンからニーベル村までは地味に遠い。馬で飛ばしたところでギリギリ間に合うかどうかだ。
「……とにかくやるしかない」
 皇帝を継承した事で、私は乗馬の経験はないが、歴代皇帝の誰かに乗馬経験があるお陰で乗れることは既に把握済みである。こんな事に皇帝としての力を使うんじゃないとツッコミがきそうだが、先程も言った通り以下略。
 私は厩舎を目指して再びコソコソと移動を始めるのだった。

***

「まあやっぱ見張りの兵はいるよね……」
 どうにか厩舎前に辿り着いたもののやっぱり人はいるもので。とりあえず見張りは一人だけしかいないようなので、私でもどうにかできる……はずだ。私の中にある歴代皇帝たちの力を使えば。
「(代々の皇帝陛下たち、私利私欲であなたたちの力を使う事を、今だけは目を瞑ってください!)」
 私は心の中でそう詫びると、きていたローブをさっと脱いでガサッとわざと手近にあった木の枝を揺らした。
「誰だ!?」
 ――かかった!
 私はすぐさま隠れていた茂みから飛び出してローブを投げる。それはうまいこと兵士に当たり、視界を遮ってくれた。
「うわっ!?」
「ごめんなさい。馬を借りたいの」
 兵士が混乱している隙をついて、その太腿を勢いよく蹴り飛ばした。
「ガッ!」
 これでしばらく立ち上がることはできないだろう。ローブを拾ってから厩舎のドアを開けようとしたが開かなかったため、再び蹴り飛ばしドアを破壊して開けた。
「……」
 中に入ると物音で目が覚めた馬たちが私をみていた。うう、起こしちゃってごめんね。
「朝からごめんなさい。どうしてもあなたの足を借りたいの」
 目があった一頭の馬の目を見つめながら言う。言葉が通じるかどうもわからない。けれどその馬は私の頬に顔を寄せてきた。
「……いいって事?」
 馬はブルル、と鼻を鳴らした。そうだ、と言っている気がして私はその顔を撫でる。
「じゃあ、ニーベルの村までお願いね」
ヒヒン、と嘶きを上げる。私は馬に乗った事はないけれど、身体が覚えているみたいな感じで苦もなく馬に乗る事ができた。
「よし、行くわよ!」
 そうして、私は朝日を身体に受けながらニーベルの村を目指して走り出した。

***

「ジェイスン殿、タウラス殿!」
「ん?」
「はい?」
 二階から勢いよく降りてきたジェイスンとタウラスを呼ぶ声に、二人は足を止めた。正面から走ってくる一般兵士が手を振って駆け寄ってくる。
「お二人共、トパーズ様をお捜しなのですよね?」
「ああ、そうだ。これからアバロンの町の方を捜しに」
「いえ、もうトパーズ様はおそらくここに居りません」
 ジェイスンがそう口を開くが最後まで言葉を続ける前に兵士は頭を振りキッパリと言った。
「えっ!?」
「どういうことだ」
「……早朝、厩舎の見張り役が倒れていました。厩舎のドアは破壊され、厩舎からは一頭、馬がいなくなっていました。そして、見張り役は不審者から攻撃を受ける前に声を聞いたのですが……その声がトパーズ様の声だったと……」
 ジェイスンとタウラスは思わず顔を見合わせる。そして同時にため息を吐くと手で顔を覆った。
「……つまり、見張り役をぶっ飛ばしてさらに厩舎の扉をぶっ壊し、馬をパクってどっかへ行った、と」
「ええと、はい。状況を見れば……」
「……トパーズ、だからどうして君はそういう方向に思い切りがいいんだい……?」
 兵士は二人が更に盛大なため息を吐きながら両手で頭を抱えた。そこへまた忙しない足音が近づいてくる。
「ジェイスン、タウラス!」
「聞いたぞ、トパーズ様が脱走したって」
 やってきたのは薄紅色の髪を靡かせた女性——軽装歩兵のシャーリーと、全身鎧を身に纏った黒髪の長身男性——重装歩兵のウォーラスだった。この二人は、トパーズが皇帝になったあと、己の近衛兵にと選んだ者たちだ。
「シャーリー! それにウォーラスも!」
「あ、アンタらも呼ばれたクチ?」
「そうよ。あと来る途中で聞いたけど、トパーズってば馬に乗ってもうアバロンから出ていったみたいね」
 シャーリーが頬に手を当て困ったように言えば、ジェイスンが呆れつつ顎でしゃくりながら兵士を見た。
「おう、さっきそいつから馬パクったの聞いた」
 兵士はうんうんと頷く。シャーリーは溜め息を吐き、隣にいたウォーラスが笑う。
「はっはっは。なんでも夜警の兵士に『皇帝命令だから門を開けろ』と豪語したらしいじゃないか。あれだけ『皇帝なんて向いてない!』って言ってたのに、いざって時はちゃんと権力行使するんだな、トパーズは」
「いやあの、笑い事じゃないと思うんだよウォーラス……」
「ま、こんなところで油売ってる暇あったら探しに行かないとよね。二人は付き合い長いし、行きそうな場所とか分からない?」
 シャーリーがジェイスンとタウラスに声をかける。思わず二人は顔を見合わせた。
「……トパーズの」
「行きそうな場所……?」
「えっちょっと待って。手がかりが無いまま、しらみ潰しに南北バレンヌを探してたら戴冠式どころじゃないわよ!?」
 そのまま考え込み始めた男二人対してシャーリーが焦る。元宮廷魔術士と軽装歩兵の間柄、トパーズとは接点は少なくまだ付き合いは浅いのだ。同時期に帝国兵入りした故に仲が良いこの二人が知らないのであれば、手の施しようがない。
「まあまあ、気持ちはわかるが落ち着け、シャーリー。焦ったところで結果がすぐ出るわけでもない」
「それはそうだけど!」
 ウォーラスは笑いながらシャーリーの肩を叩く。シャーリーとは実家が近く幼馴染という間柄で、彼女より少し年上の彼はどことなく兄のようなつもりで彼女と接していた。
 そして未だウンウンと悩むジェイスンとタウラスを見たウォーラスが二人に声をかける。
「馬を使ったって事は、それなりに距離があるってことじゃないのか?」
 ウォーラスのその一言にハッとタウラスが顔を上げてジェイスンの肩を勢い良く掴んで話しかける。
「! ジェイスン、トパーズの出身って南バレンヌのニーベル村だよね!?」
「あっ!」
 言われて気づいたジェイスンも顔を上げる。手掛かりが見つかった事にシャーリーとウォーラスは安堵した。
「決まりね。じゃあ二人がトパーズを迎えに行ってあげて。私たちは今アバロン中を探してる兵士たちに伝えてくるわ。あと戴冠式の準備も万端にしておく」
「アバロンの方は任せてくれ」
 ニコニコと笑顔で言うシャーリーとウォーラスに、タウラスとジェイスンは戸惑いを隠せなかった。
「えっ……助かる、けど」
「一緒に行かなくていいのかよ」
「もちろん、私だって迎えに行きたいわ。でも、この混乱する宮殿内を放って置けないわよ」
「まだ情報が色々錯綜しててなあ。俺たちが現場指揮を取るって事で」
 さっきから、四人が話している横で兵士や城のメイドたちが忙しなく右往左往している。ジェイスンとタウラスを呼び止めた兵士も、いつの間にか居なくなっていた。
「あー……サンキュな」
「二人とも、ありがとう。必ず連れ戻すから」
「ええ。お願いね」
「まあ最悪、時間はしょうがないとしてもトパーズが戻ってきてくれたらそれでいいさ。大臣たちには俺たちから言っておくよ」
「助かる。なるべく戴冠式には間に合わすようにはするから! 行くぞ、タウラス」
「うん。じゃあ行ってきます!」
 そうして、一目散に走っていくジェイスンとタウラスの二人をシャーリーとウォーラスは見送った。
「……さて、シャーリーよ」
「何? ウォーラス」
「まずは大臣と貴族に頭、下げに行くか」
「……そうね。貴方と二人でよかったわ。一人だったらちょっと耐えられなかったと思う」
「俺もだよ」
 若干遠い目をしつつウォーラスが言う。シャーリーも苦笑しながらそれに同意した。

***

「ところでタウラスさんよ」
「なんだい? ジェイスン」
「お前、馬乗れるか?」
 ジェイスンのその当然とも言える質問に対しタウラスは一瞬天を仰いだあと、にっこりと笑って答えたのだった。
「僕の職業、知らないとは言わせないよ?」
 タウラスのその顔が「乗れません」と言っている。分かっていた答えに細く息を吐いて、壊れた厩舎のドア横目に見つつ中へ入っていく。一頭一頭、男二人が乗れるような馬はないかと見ていると、体格の良い白馬が目に入った。
「……おう。振り落とされるんじゃねえぞ宮廷魔術士さんよ」
「えっ? フリーファイターの君がしっかり手綱握っててくれれば大丈夫でしょ」
 ジェイスンの言葉にタウラスはしれっとしながら返した。ジェイスンが一瞬目を見張るがすぐに口角を上げる。
「さーて、あのお嬢様をさっさと迎えに行きますかねタウラス君」
「うん。行こう、ジェイスン」
 二人は改めて顔を見合わせ拳を合わせた。とにかく彼女をなんとしてでも連れて帰らねば。戴冠式の時間は、刻一刻と迫っているのだから。
 
***
 
首都アバロン・正門。あらゆる人々が行き交う町の入り口は、今は固く閉じられている。そして、そこには夜を徹して門を守る兵士の姿がある。
「ふあ……」
「おい、寝るんじゃないぞ」
「分かってるって。だけどこの明け方が一番眠くなるんだよなァ」
「ま、今日も眠くなる程度に平和ってことだよな。あふ……」
「お前だって他人のこと言えねーじゃん」
「てめーのあくびがうつっただけだっつーの!」
 それは、彼らにとっていつもと変わらない何気ないやりとり。今日も何もなく平和な夜であり、安心して夜明けを迎えられたことに感謝しつつ、早く朝の番の者と交代したいなあと兵士たちがぼんやり考えていたまさにその時だった。
「……おい、なんか音が聞こえねえか?」
「えっ? あっ」
 徐々に音が近づいてくる。石畳を馬が、何者かが馬に乗り、メインストリートをものすごい勢いでこちらへ突進してくる。よく通る声で叫びながら。

「そこな兵士! 今すぐ門を開けなさい!!」

「こ、ここを開けることは何人足りとも出来ぬ!!」
「さ、去れ! 不届者!!」
 その声に対し、門番兵が槍を構えて叫ぶ。だが、その人影が近づいてくる度に、徐々に周りが明るくなってゆき、やがて朝日が照らし出す。それは、二人にとってありえない光景であった。その声の主は、とてもよく見知った存在で。

「だーれが不届き者よ! つべこべ言わずに開けなさい!! 皇帝命令よ!!」
「「――は?」」
 ヒヒン! と馬が嘶きを上げ二人の前で停止する。早朝から馬を駆るその人は――本日戴冠式を迎える皇帝、トパーズその人だったのだから。

***

「……」
「……」
 一頭の白馬が、金と茶髪の混じった長髪の男性と、深緑色の短髪の男性二人を乗せて街道を疾走していく。手綱を握るのは、前方に乗る長髪の男性だ。
 雲ひとつない空から容赦なく降り注ぐ日光は、すでに真夏の様相だった。二人の首筋や背中から汗が伝う。休んでも良いような暑さであるが、無言で馬を走らせ続けている。
「……大丈夫か、タウラス」
「とりあえずは平気。そっちこそ大丈夫?
 ジェイスン」
「まあな。……やっぱ結構距離あるよな、ニーベル」
 どれくらいか進んだ頃、前方の男性――ジェイスンが後方の男性――タウラスに向かって話しかける。お互いに気を遣っている様子が見てとれた。
「そうだね。トパーズはもう到着してるかな。すれ違いにならなきゃ良いんだけど……」
「あの暴走お嬢様がこの街道から外れてねーことを祈るっきゃねーな」
「……だよねえ」
 はあ、と何度目かわからない溜め息をタウラスが吐く。とにかく二人は戴冠式までに彼女を連れて帰らなければならないのだ。まだ目的地のニーベル村は遠い。彼女が村に到着して滞在していることと、このメインの街道を外れて帰っていない事を祈るしかなかった。
「……トパーズさ、戻ってくるよね」
「あの書き置きは、アイツなりの誠意だと思うけどな。絶対戻ってくるっていう」
「うん、僕もそう思う。ごめん、彼女を疑うこと言った」
「まあ、突然居なくなったら思いたくもなるわな。俺だって思ったし」
「そっか。ちょっと安心した」
「ま、言いたいことはあのお嬢様に直接言ってやろうぜ、タウラスさんよ」
「そうだね、ジェイスン。僕らがどれだけ心配したのか言わないと」
 そう言って二人は笑った。ジェイスンは馬へ向かって話しかけながら手綱を少し譲る。
「うっし! ――悪いな、ずっと走り通しでよ。もうちょい頑張ってくれるか?」
 ヒヒン! と馬がそれに応えるように鳴く。走るスピードを速めた馬が、青草薫る街道を走り抜けていった。

***

続く
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