ミンサガ・デス神夢小説


「抜き取られてしまった心」


 ——音もなく亡霊が現れ、魂を抜き取っていく。
 ウソの祭りの後から、こんこんと眠り続ける人が続出していた。皆、明日は我が身と怯えながら生活をしている。あんなに活気のあった村が静まり返っていた。
「……」
 夕暮れの中、私は足早に家を目指す。事件が起こるのは決まって日暮れの頃だからだ。エロール神の象徴たる太陽がニーサ神の元へと沈むこの時を狙って亡霊がやってくるという。
 けれど、あともう少しで家に着く。西日に照らされる我が家を見て安堵したその瞬間、何かが空を切る音と、金属同士がぶつかり合う音が背後で響く。
「……えっ!?」
 振り向くと、そこには白いフードを被ったカマの神官様が、手に持つ大鎌で空中を切っていた。そこに、私の目には見えない何かがあるのだろう。先程から、金属音が止まないのだから。
「何をしている! 早く逃げろ!」
「えっ、あっ、はい!」
 突然の出来事に固まってしまったが、神官様の声で我に返った。
そうして家の向かって走って逃げようとしたけれど、悲しいことに足がもつれてその場で派手にすっ転んでしまった。ああ、何をやっているの私!
「おい、大丈夫か!」
「う……すみませ……痛っ!」
 とにかく逃げなきゃと立ちあがろうとしたけれど、右足に強い痛みが走る。恐らく足を捻ってしまったのだろう。
「……この、魂を冒涜する不届き者が!! 去ね!!」
 動けない私を一瞥すると、神官様が一喝し、その鎌を素早く振るう。ざくり、と何かを切り裂く音がし、やがて神官様はその鎌を下ろした。きっと、見えない魔物——きっと亡霊だろう、との争いが終わったのだ。そう思いたい。
 そうして、動けずただ地面を這いつくばる私に、神官様が汚れるのも気にしない様子で膝をつく。
「足の痛み以外に、どこか不調はないか?」
「!?」
 今までフードに隠れていたその顔が見えた瞬間、叫ばなかった私を誰か褒めて欲しい。だって、お顔があまりにも整いすぎていて、びっくりしてしまったのだ。
「大丈夫か?」
「……えっ……あ、足以外は、大丈夫、です」
「そうか、なら良かった。……人の子よ、そなたの家はそこか」
「はい、そうです……ってうわあっ!?」
「恐ろしい思いをさせたな。すまぬ」
 神官様が我が家を指で指し示していたので素直に頷けば、私はいとも簡単に神官様に横抱きにされてしまった。
「い、いえ! あの、噂になっている亡霊から、助けて下さり、ありがとうございます」
 神官様に抱っこされるなんて、あまりにも畏れ多すぎて声が上擦ってしまった。
「礼など要らぬよ。私の力が及ばぬばかりに、完全には消滅させられなかった」
 眉間に皺を寄せ、苦渋の表情を浮かべる神官様。けれど、そんな憂いだ表情すら整って見えるのはどういうことか。私はつい力んで大きな声で叫んでいた。
「そんなことないです! だって、私の命は助かったのですから!!」
「……そうか。そうだな」
 一瞬、私の声に面食らった表情をする神官様。けれど、すぐにその唇が弧を描く。えっ、ちょっと待ってください。私このまま恥ずかしくて死にそう。私は思わず両手で顔を覆い、ボソボソと小声で呟くように言葉を紡ぐ。
「あ、ええと、あと、その、すみません。運んでいただいて……」
「そなた、足を怪我して歩けぬのだろう。なら手助けするのが人の情、ではないのか?」
「そ、そうですね……」
 家まであともう少し。けれど私の心の中には、早く家に着いて欲しい私と、このまま抱きかかえられていたい私が暴れて回っていて落ち着かなかったのだった。
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