第一章 リーリエ・スカウトされる
リーリエ 序章
太陽神が昼の神と共に西に沈んで久しく、夜の神と月神、星神が最も力を増す夜更けの頃。
とある小さな村の外れの家に住む魔術師、イラル・フォルトナーはランプの光を頼りに読書をしていた。聞こえるのは時折吹く風の音と木々のざわめき、虫の音と鳥の声。そして己が捲るページの音だけだった。——この部屋に近づく小さな足音が聞こえるまでは。
「……お師匠さま、起きていますか?」
トントン、と控えめにノックをし、恐る恐るといった様子の可愛らしい少女の声がする。イラルは机に備え付けられた引き出しから栞を取り出しページに挟んでから本を閉じた。そして、手元のランプに手を翳す。するとランプの光量が上がり、眩しく光りだした。それを確認してから、扉の向こうの者へと声をかける。
「ええ、起きていますよ。お入りなさい、リーリエ」
そうっと扉が開けられる。そこにいたのは、紅く輝く髪と瞳を持つ、痩せぎすの小柄な、まだ十にも満たない少女だった。
この少女——リーリエは、ひと月前に隣国で起きた魔鉱山の大崩落事故で唯一の生き残り。たまたま、この地を訪れたイラルが辛うじて息のあったリーリエを助けた事がきっかけで、何処にも行く宛のないこの少女を、イラルが己の弟子として引き取ったのだった。
「あの、その、ええと……」
部屋には入ってきたものの、リーリエはしどろもどろで要領を得ない。助け舟を出すように、イラルが話しかける。
「眠れないのかな? それとも夢見が悪かったのかい?」
「……っ、はい。その、あの時の夢を、みっ、みて……っ!」
ぼろり、とリーリエの紅い瞳から大粒の涙が溢れ落ちる。次から次へと溢れる涙としゃっくりで、少女の顔が哀しみで歪んだ。イラルは椅子から立ち上がり、少女の元へと歩む。そして、泣きじゃくる少女の前に立つとしゃがみ、そっと抱きしめた。
「それは怖かったね」
「……は、はいっ」
「大丈夫、君は一人じゃないよ。ここに師匠がいるだろう?」
「はいっ、はいっ……でも、おかあ、さん、とっ、おとっ、うさんはっ、おにいちゃんとおねえちゃんはっ、もう、どこ、にもっいなっ、いなく……いなくてっ!」
リーリエがわっ!と大きな声で泣き、イラルにしがみつく。イラルはリーリエの止められない慟哭を、ただ静かに受け止めていた。
「……」
やがてリーリエ慟哭は嗚咽に、啜り泣く声は穏やかな寝息へと変わった。泣き腫らした目のまま静かに眠る抱えて、イラルは自分のベッドへそっとリーリエを横たえる。
「……リーリエ」
イラルは少女の名を呼び、指先で頬にそっと触れた。その眼差しは、慈愛に満ちているように見える。
「私が居なくなったら、私の真実を知ったら、君は今のように泣くのかな。それとも笑うのかな」
リーリエの頬から指を離すとおもむろに立ち上がり、くるりと踵を返して机に向かう。先程と同じく、ランプに手を翳し光量を落とすと、閉じた本を再び開いた。
太陽神が昼の神と共に西に沈んで久しく、夜の神と月神、星神が最も力を増す夜更けの頃。
とある小さな村の外れの家に住む魔術師、イラル・フォルトナーはランプの光を頼りに読書をしていた。聞こえるのは時折吹く風の音と木々のざわめき、虫の音と鳥の声。そして己が捲るページの音だけだった。——この部屋に近づく小さな足音が聞こえるまでは。
「……お師匠さま、起きていますか?」
トントン、と控えめにノックをし、恐る恐るといった様子の可愛らしい少女の声がする。イラルは机に備え付けられた引き出しから栞を取り出しページに挟んでから本を閉じた。そして、手元のランプに手を翳す。するとランプの光量が上がり、眩しく光りだした。それを確認してから、扉の向こうの者へと声をかける。
「ええ、起きていますよ。お入りなさい、リーリエ」
そうっと扉が開けられる。そこにいたのは、紅く輝く髪と瞳を持つ、痩せぎすの小柄な、まだ十にも満たない少女だった。
この少女——リーリエは、ひと月前に隣国で起きた魔鉱山の大崩落事故で唯一の生き残り。たまたま、この地を訪れたイラルが辛うじて息のあったリーリエを助けた事がきっかけで、何処にも行く宛のないこの少女を、イラルが己の弟子として引き取ったのだった。
「あの、その、ええと……」
部屋には入ってきたものの、リーリエはしどろもどろで要領を得ない。助け舟を出すように、イラルが話しかける。
「眠れないのかな? それとも夢見が悪かったのかい?」
「……っ、はい。その、あの時の夢を、みっ、みて……っ!」
ぼろり、とリーリエの紅い瞳から大粒の涙が溢れ落ちる。次から次へと溢れる涙としゃっくりで、少女の顔が哀しみで歪んだ。イラルは椅子から立ち上がり、少女の元へと歩む。そして、泣きじゃくる少女の前に立つとしゃがみ、そっと抱きしめた。
「それは怖かったね」
「……は、はいっ」
「大丈夫、君は一人じゃないよ。ここに師匠がいるだろう?」
「はいっ、はいっ……でも、おかあ、さん、とっ、おとっ、うさんはっ、おにいちゃんとおねえちゃんはっ、もう、どこ、にもっいなっ、いなく……いなくてっ!」
リーリエがわっ!と大きな声で泣き、イラルにしがみつく。イラルはリーリエの止められない慟哭を、ただ静かに受け止めていた。
「……」
やがてリーリエ慟哭は嗚咽に、啜り泣く声は穏やかな寝息へと変わった。泣き腫らした目のまま静かに眠る抱えて、イラルは自分のベッドへそっとリーリエを横たえる。
「……リーリエ」
イラルは少女の名を呼び、指先で頬にそっと触れた。その眼差しは、慈愛に満ちているように見える。
「私が居なくなったら、私の真実を知ったら、君は今のように泣くのかな。それとも笑うのかな」
リーリエの頬から指を離すとおもむろに立ち上がり、くるりと踵を返して机に向かう。先程と同じく、ランプに手を翳し光量を落とすと、閉じた本を再び開いた。