サガ50題。
*
――逢いたい。
――あなたに逢いたい。
「……ラファエル……」
口をついて出てくる言葉は愛しい人の名前ばかり。サルーインとの戦いの後、ラファエルの行方がわからなくなってから、コンスタンツはずっと眠れぬ夜を過ごしていた。もしかしたら夜闇に紛れて帰ってくるのかもしれない、という淡い期待があったからである。枕元のランプを灯したまま明かした夜は。もう両手では数えきれないくらいだった。
「今更、何を期待しているのかしらね」
自嘲気味にコンスタンツは呟いた。何しろあの戦いからとうに半年が経っているのだ。季節は巡り、もうすぐこの騎士団領にも厳しい冬がやってくる。それでも、愛しい彼の人の行方は分からぬまま。半年という短いようで長い間、彼女は待ち続けていた。しかし、それにも限界というものがやってくる。
「……ラファエルはもういない……もういないのよ……」
今度は自分に言い聞かせるように、無理やり呟いた。しかし、そう思えば思うほど涙が自然と溢れて止まらない。
――いっそ死んだという報告があればこんな葛藤をしなくて済むのに。
話によると、ラファエルを含めサルーインに立ち向かった者たちはみな装飾品一つ残らず消え失せていたのだという。
もしかしたら、サルーインの力で跡形もなく吹き飛ばされたのかもしれない。……それでも、遺物が出てこないのであれば期待してしまうではないか。
「お願い。帰ってきてラファエル……!」
そして、溢れんばかりのその想いを口にしたその瞬間だった。
――ギィ
「?!」
不意にテラスに続く窓の開く音が聞こえた。突然の出来事にコンスタンツは身をこわばらせる。だが、素早くランプを手に持ち窓の方へ向け、キッと睨みながら声を荒げぬよう口を開く。
「……真夜中の貴婦人の部屋に、一体どんな用事がございまして?」
声が、自然と震えた。もしかしたら……いや、そんなことは有り得ない。コンスタンツの中で二つの思いが攻めぎ合う。そんなことを知ってか知らずか、真夜中の来訪者は声を発した。
「コンスタンツ」
静かに、だがそれはしっかりとコンスタンツの耳に届いていた。幻聴かと思った瞬間、声は再び彼女の名を呼んだ。
「コンスタンツ」
すると今度は先程よりも少し大きい声で名を呼ばれた。優しく耳朶に響くその声は、コンスタンツが誰よりも逢いたいと願っていた人の声。それを証明するかのように、雲に隠されていた赤い月が来訪者の姿をコンスタンツの瞳に映し出だした。
「……ラファエル!」
「コンスタンツ、ただいま。待たせてしまって本当にすまない……」
コンスタンツは愛する人の名を叫び、その姿が見えるよう駆け寄っていく。ラファエルは駆け寄るコンスタンツを優しく抱きとめ、コンスタンツはラファエルの背中に腕を回した。コンスタンツは流れる涙と共にラファエルに向かって叫んでいた。
「っ、どれだけ……どれだけ私が待ったと思いますか……!!」
「本当にごめんよ……でも大丈夫。これからはずっと一緒だ」
「そうですわっ! 私たちは人生の重荷を分け合う夫婦なんですから!」
「!! ……ああ、僕は君の夫として誓おう。もう二度と愛しき妻・コンスタンツから離れない、と」
二人は新たな誓いの証に、どちらからともなく互いの唇を重ね合った。
赤い月の下、愛の女神に見守られながら。
終
――逢いたい。
――あなたに逢いたい。
「……ラファエル……」
口をついて出てくる言葉は愛しい人の名前ばかり。サルーインとの戦いの後、ラファエルの行方がわからなくなってから、コンスタンツはずっと眠れぬ夜を過ごしていた。もしかしたら夜闇に紛れて帰ってくるのかもしれない、という淡い期待があったからである。枕元のランプを灯したまま明かした夜は。もう両手では数えきれないくらいだった。
「今更、何を期待しているのかしらね」
自嘲気味にコンスタンツは呟いた。何しろあの戦いからとうに半年が経っているのだ。季節は巡り、もうすぐこの騎士団領にも厳しい冬がやってくる。それでも、愛しい彼の人の行方は分からぬまま。半年という短いようで長い間、彼女は待ち続けていた。しかし、それにも限界というものがやってくる。
「……ラファエルはもういない……もういないのよ……」
今度は自分に言い聞かせるように、無理やり呟いた。しかし、そう思えば思うほど涙が自然と溢れて止まらない。
――いっそ死んだという報告があればこんな葛藤をしなくて済むのに。
話によると、ラファエルを含めサルーインに立ち向かった者たちはみな装飾品一つ残らず消え失せていたのだという。
もしかしたら、サルーインの力で跡形もなく吹き飛ばされたのかもしれない。……それでも、遺物が出てこないのであれば期待してしまうではないか。
「お願い。帰ってきてラファエル……!」
そして、溢れんばかりのその想いを口にしたその瞬間だった。
――ギィ
「?!」
不意にテラスに続く窓の開く音が聞こえた。突然の出来事にコンスタンツは身をこわばらせる。だが、素早くランプを手に持ち窓の方へ向け、キッと睨みながら声を荒げぬよう口を開く。
「……真夜中の貴婦人の部屋に、一体どんな用事がございまして?」
声が、自然と震えた。もしかしたら……いや、そんなことは有り得ない。コンスタンツの中で二つの思いが攻めぎ合う。そんなことを知ってか知らずか、真夜中の来訪者は声を発した。
「コンスタンツ」
静かに、だがそれはしっかりとコンスタンツの耳に届いていた。幻聴かと思った瞬間、声は再び彼女の名を呼んだ。
「コンスタンツ」
すると今度は先程よりも少し大きい声で名を呼ばれた。優しく耳朶に響くその声は、コンスタンツが誰よりも逢いたいと願っていた人の声。それを証明するかのように、雲に隠されていた赤い月が来訪者の姿をコンスタンツの瞳に映し出だした。
「……ラファエル!」
「コンスタンツ、ただいま。待たせてしまって本当にすまない……」
コンスタンツは愛する人の名を叫び、その姿が見えるよう駆け寄っていく。ラファエルは駆け寄るコンスタンツを優しく抱きとめ、コンスタンツはラファエルの背中に腕を回した。コンスタンツは流れる涙と共にラファエルに向かって叫んでいた。
「っ、どれだけ……どれだけ私が待ったと思いますか……!!」
「本当にごめんよ……でも大丈夫。これからはずっと一緒だ」
「そうですわっ! 私たちは人生の重荷を分け合う夫婦なんですから!」
「!! ……ああ、僕は君の夫として誓おう。もう二度と愛しき妻・コンスタンツから離れない、と」
二人は新たな誓いの証に、どちらからともなく互いの唇を重ね合った。
赤い月の下、愛の女神に見守られながら。
終
9/9ページ