サガ50題。

 グレイとガラハドと初めて出会ったのは……たしか、アルツールのパブの前だったかな。
いつものように仲間と一仕事終えて飲んだあと、それぞれ別れて、あたいも故郷の北エスタミルに帰ろうかな、なんて思っていた矢先の事。その隙を狙っていたのか、タチの悪い輩に絡まれてしまったのだ。
「なあ、いま一人なんだろう? 俺と一緒にどうだい」
「ごめんなさいね~、他の男と話していると嫉妬しちゃう面倒な恋人がいるのよ~」
 にやにやと、あたいの身体を品定めするような笑いをするイヤーな感じの男だったから速攻で断ってやった。うん、こういう男は関わらないに限る。そのまま、素早く横を通り過ぎようとしたのだが思いっきり手を掴まれてしまった。
「離してちょうだい」
「女の一人歩きは危ないと思うぜ」
「……え、今すっごく後悔しているわ。アンタみたいなのに付きまとわれてね!」
「なんだと!」
 パブの前、という事もあって周りがチラチラとこちらを見ながらひそひそ話をしている。こうなればこっちのもんだ。相手は厳つい男、あたいは傍から見ればか弱い女に見えるだろう。――街中じゃなけりゃ得意の火の術法でこんな男、丸焼きにしていたけど。
 ここいらであたいが涙を流して叫べばそろそろ町の警備隊が来てくれるに違いない。そう思って思いっきり息を吸い込み、叫ぼうとしたその時だった。
「痴情の縺れなら他所でやれ。店の前だぞ」
 やけにはっきりと耳に届いたその声に、私も目の前の男も思わずそちらへ目を向ける。そこには灰色の長髪と瞳が印象的な、冒険者然とした男性がそこにいた。多分、十人中全員がすれ違ったら思わず振り返る、素晴らしく整った容姿をしている。そんなドキリとするような格好いい男が、呆れたような目でこっちを見ていた。
 うう、こんな男と一緒にされたくないのに! あたいの手を掴んでいた手が緩んでいたので、思いっきり振り払ってそっちへ駆け寄った。
「もう! 来るのが遅い!! おかげで変な男に絡まれちゃったじゃない!!」
 そう言いながらその首にぎゅっとしがみ付いて、耳元で「話を合わせて」と囁けば「分った」と一言だけ返して私の手を外して背後へ匿ってくれた。おお、話が分かる男で助かった。目の前の男とは大違いだ。
「話は済んだだろう。どいてもらおうか」
「ちっ!」
 自分に分が悪いと察したのか、男は舌打ち一つするとあたい達に背を向けて逃げていった。女の扱いが悪いからよ! と思いを込めて舌を出してやった。そしてそこへ入れ替わるように背後から声が掛かる。
「おい、グレイ! 待っていてくれたっていいだろ!」
「だからパブで待っているといっただろう? 悪いが、お前の買い物は長くて付き合いきれん」
「うぐ、それは申し訳ないと思って……って、そちらの女性は?」
「知らん」
「はあ!?」
 声をかけてきた男性は、金髪に青い瞳の典型的なローザリア人だった。こちらもなかなか整った容姿をしている。左頬の傷跡は、一体どんな戦いだったのだろうかと思わず想像してしまう程に印象的だ。そして彼が素っ頓狂な声を上げたところで、まだ名前も名乗っていないことに今更気づいた。いやはや、勢いというのは恐ろしい。あんなのに付き合ってくれたグレイには感謝してもしきれない。
「あ、ごめんなさい。自己紹介もまだだってのにあんな茶番に付き合わせて。あたいはミリアム。このあたりで冒険者をしてるの。術を使わせたらちょっとしたもんよ!」
「そういえばそうだったな。俺の名はグレイ。冒険者だ」
「俺はガラハド。元ローザリアの聖騎士で、今はグレイの冒険者仲間だ。よろしく、ミリアム。……で、一体何があったんだ?」
「タチの悪い男に絡まれちゃって、ちょっと彼に一芝居打ってもらったの。ありがとね、グレイ」
「別に。礼を言われるまでもない」
 グレイの仲間はガラハドと言うらしい。やっぱりローザリア人だった。しかし軍抜けて冒険者ってなかなかできないと思う。そして、改めて礼を言うがグレイの態度はそっけないものだった。まあ、何も言わず協力してくれたところを見るに、結構似たような場面に遭遇したことがあるんだろう。そんなグレイを見てガラハドは笑いながら言う。
「やはり旅慣れている奴は違うな」
「もっと凄まじい修羅場に遭遇したこともあるからな」
「えー、なにそれ聴きたい!」
「悪いな。せっかくの酒が不味くなる」
「じゃあ楽しい話しましょ! そっちのガラハドも一緒に」
「そうだな。まあ、まずは一杯飲むとしよう。しかしいいのか、ミリアム。俺とグレイと一緒で」
「いやー、まーた一人になると変な男に絡まれそうだし、しばらく一緒にいてもらってもいいかしら?」
「確かに。冒険者といえど女性の一人歩きは危ないからな。グレイはどうだ」
「別に構わない」
「そ、よかった! じゃあよろしくね。グレイ、ガラハド」
「ああ」
「よろしく」

   * * *

「……っていうことがあったわけよ。それでしばらくなんだかんだと三人一緒で冒険してたんだ」
「そうだったのね。ありがとうミリアム、教えてくれて」
 明日、とうとうサルーインを倒すという前日の事。眠れなくてクローディアと二人で他愛のない話をしていた時だった。クローディアが「ミリアムとグレイはどうやって知り合ったの」という何気ない疑問に、あたいは出会った当時を懐かしく思い出しながら話していた。
「でもなんで急に?」
「私、一緒に旅をしているのに彼のこと全然知らないなと思って」
「あはは! 二人とも口数少ない方だもんねえ~。でも、あたいもそこまで詳しく知ってるわけじゃないからなあ」
「そうなの?」
「うん。でもさ、グレイって絶対に大切なことはちゃんと教えてくれるし、頼りになるじゃない。だからかな。昔とか、別にどうでもよくなっちゃうのよ、きっと」
「ああ、そっか。きっとそうなんだわ。ちゃんと信頼できる人間だって態度に出ていたもの」
「なーんだ、クローディアだってわかってるんじゃない」
 そして、あたいとクローディアはどちらからともなく笑い合っていた。信頼できる仲間がいる。それだけで心強くなれる気がしてしまうのだから人とは不思議なものだ。明日の戦いも、彼と、みんなが居ればきっと大丈夫。そんな確信を持ちながら、微睡んでいた。

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