サガ50題。
リージョン・ヨークランド――特産品のヨーク綿と酒で生計を立てており、クーロンなどの都会の喧騒とは無縁のリージョンである。
「……ふぁぁぁ……」
そんなヨークランドにある小高い丘の上に寝そべり、大欠伸をする青い髪の青年がいた。彼の名前はリュート。もう二十五歳になるのだが、未だに職についていないどうしようもないプータローである。それなのに何故か人を惹き付ける魅力はあるらしい。近所のワルガキ共や、はたまたオーガ族のモンスターで弟分のサンダーからは『兄貴』と呼ばれ親しまれている。
「今日もいい天気だな~」
『急ぐ』ということを知らないとでも言うかのごとく、リュートは呑気そのものだった。しかしリュートの言う通り、空は蒼穹と呼ぶにふさわしい、雲一つないいい天気である。
「天気は良くても、これからどうすっかなぁ?」
そんなのんびり屋のリュートでも、将来の事を一応は考えているようである。空はリュートの悩みとは裏腹に相変わらず青い。
「お一人ですか?」
「うわっ?!」
突然、降ってきた声に慌てて飛び起き後ろを振り向くリュート。そこには旅人らしき人物が立っていた。
くたびれた粗末な茶色の服、羽飾りのついたつばの広い帽子。そして何よりも目立つのは、その手に抱えたツインネックのギター。そのどれをとっても、このヨークランドにおいては異彩を放っている。
「……アンタ誰だ?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は世界を旅する吟遊詩人です」
細い目をぱちくりさせながら間髪いれず質問するリュートに、その人は帽子を取り軽く会釈をして微笑みながら自己紹介をした。
「なるほど~。どーりで見たことないはずだぜ。あ、俺はリュートっていうんだ。よろしくな!」
相手が何者か分かったところでリュートも笑顔で自己紹介をする。すると詩人は少々困ったような顔をしながら言葉を繋いだ。
「ええ、こちらこそ。……えーと、なんだかお邪魔をしてしまったようですが……」
「や、そんな気にする事じゃないから大丈夫だって!」
すまなそうにいう詩人とは対照的にへらへらとしているリュート。気にするなと言われども、気にしてしまうのが人の性。詩人は微笑みながらギターの弦をつま弾いた。
「……ですが、お詫びの気持ちも込めて一曲歌わせて頂けませんか?」
「うーん、なんか俺の方が悪くなってきたな~」
「貴方が気を悪くすることはありませんよ?」
「……ん~、じゃあせっかくだし一曲よろしく頼むぜ!」
しばらく悩んでいたリュートだが、すぐに笑顔で詩人に頼んだのだった。
「では……」
詩人は待ってましたと言うように微笑むとギターを持ち直すと、歌に詩を乗せ声高らかに唄い始めた。
しばらくの間、丘の上には詩人の唄が響いていた。その唄は、優しく見守りつつもどこか切なさを感じさせる唄だった。そして詩人が最後の一小節を弾き終えると、けたたましい割れんばかりの拍手が送られた。
「すごいなー!オレ、感動しちゃったよ!!」
「ありがとうございます」
興奮気味に感想を並べるリュートに、詩人は笑顔で礼を述べた。そんな詩人に、リュートは申し訳なさげに一言告げる。
「あの……さ、」
「おや、どうかしましたか?」
「……もう一曲! ってのはダメか?」
「いえ、構いませんよ」
「いいのか?!」
リュートの突然の申し出にも詩人は笑顔で応えた。抱えていたギターを持ち直しコホンと一つ咳払いをする。
「では、次は私が旅の途中で見聞きした事を唄にのせて語りましょう……」
「おぉ~!」
詩人はそういうと再びギターをつま弾いた。リュートの掛け声と拍手のあと、詩人はゆっくりと語り始めた。
世界を巡る、美しい踊り子のこと。
大都会に生きる、逞しい盗賊のこと。
旅を通して次第に成長してゆく、貴族の若者のこと。
白銀に覆われた地を守る、雄々しい女戦士のこと。
草原に住む、好奇心旺盛な遊牧民の娘のこと。
自分の信念を貫き通す、強き冒険者のこと。
深い森の中で暮らす、心優しき森の番人のこと。
他者に屈しない強さを持つ、誇り高き海賊のこと。
それらの語りをリュートはただ静かに聞いていた。どの話も、面白いものばかりで飽きさせなかったからだ。……だが。
「彼らは、邪神に戦いを挑み、見事打ち倒したのです。
世界は平和を取り戻しました。
……しかし、いつまでたっても彼らは戻って来ませんでした」
「……死んだのか?」
「分かりません。まるで消えたようにいなくなってしまったのです」
どこか釈然としない終わり方に、リュートはぽつりと呟いた。詩人もまた沈んだ面持ちでかぶりを振る。
「せっかく世界を救ったのになぁ……」
リュートは寂しそう言うと空を見上げた。空は、相変わらず青い。ヨークランドの丘にただ風の音だけが静かに流れてゆく。やがて、詩人が静かに言葉を紡いだ。
「……ですが、私は信じたいのです」
「ん?」
リュートは顔を空から詩人のいる方へと向けた。詩人は穏やかな笑みを湛えて言う。
「彼らが戻って来ることを、ですよ」
「そっか……みんな、戻ってくるといいな!」
「……ところで、あなたは旅に出たりはしないのですか?」
詩人の呟きに力強く応援するように応えるリュート。そんなリュートに詩人は相変わらずにこにこしたまま唐突に尋ねた。
「オレか? オレは………そうか! そうだよ!!」
どう答えようかしばらく悩んでいたリュートだったが、やがて何かを閃いたようで草むらからやおら立ち上がった。
「……どうされました?」
リュートの行動に詩人は首を傾げながら訪ねると、素晴らしく爽やかな笑顔でリュートが答えてくれた。
「詩人さん、サンキュー! オレ、旅に出てみるぜ!!」
リュートは、ちょっとそこまで出掛けてくるとでも言うようにあっさり言ってのけた。もし、聞いていたのがが普通の人間だったら、リュートのことを止めただろう。
「それは良いことですね。……では、あなたのご武運をお祈りしましょう」
しかし詩人は止めることはなく、逆に笑顔で送り出したのだった。そして、応援するかのように、ギターをポロン、と鳴らしながら。
「よし! 善は急げだ! 早速準備だぜ~♪ ……ってことで詩人さん、面白い話あんがとなっ!」
そして、リュートはウキウキしながら詩人に礼を述べると、すぐに丘を下って行ってしまった。『俺もカッコいい歌を歌ってみせるぜ~♪』なふどと叫びながら。
「お元気で! ……ってもう聞こえませんよね」
一応声を張り上げてはみたものの、詩人の声にリュートが気付いた様子はない。リュートの後姿に苦笑しつつ、詩人もまた身支度を整え立ち上がる。
「……では、私も新しい旅に出ますか」
そして、そのまま踵を返すと二度と振り返らずそのまま真っ直ぐ歩いていった。その後、詩人の姿を見た者は誰もいない。
……しかし、代わりに風変わりな格好をした青年が様々なリージョンに出没しているという。
終
「……ふぁぁぁ……」
そんなヨークランドにある小高い丘の上に寝そべり、大欠伸をする青い髪の青年がいた。彼の名前はリュート。もう二十五歳になるのだが、未だに職についていないどうしようもないプータローである。それなのに何故か人を惹き付ける魅力はあるらしい。近所のワルガキ共や、はたまたオーガ族のモンスターで弟分のサンダーからは『兄貴』と呼ばれ親しまれている。
「今日もいい天気だな~」
『急ぐ』ということを知らないとでも言うかのごとく、リュートは呑気そのものだった。しかしリュートの言う通り、空は蒼穹と呼ぶにふさわしい、雲一つないいい天気である。
「天気は良くても、これからどうすっかなぁ?」
そんなのんびり屋のリュートでも、将来の事を一応は考えているようである。空はリュートの悩みとは裏腹に相変わらず青い。
「お一人ですか?」
「うわっ?!」
突然、降ってきた声に慌てて飛び起き後ろを振り向くリュート。そこには旅人らしき人物が立っていた。
くたびれた粗末な茶色の服、羽飾りのついたつばの広い帽子。そして何よりも目立つのは、その手に抱えたツインネックのギター。そのどれをとっても、このヨークランドにおいては異彩を放っている。
「……アンタ誰だ?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は世界を旅する吟遊詩人です」
細い目をぱちくりさせながら間髪いれず質問するリュートに、その人は帽子を取り軽く会釈をして微笑みながら自己紹介をした。
「なるほど~。どーりで見たことないはずだぜ。あ、俺はリュートっていうんだ。よろしくな!」
相手が何者か分かったところでリュートも笑顔で自己紹介をする。すると詩人は少々困ったような顔をしながら言葉を繋いだ。
「ええ、こちらこそ。……えーと、なんだかお邪魔をしてしまったようですが……」
「や、そんな気にする事じゃないから大丈夫だって!」
すまなそうにいう詩人とは対照的にへらへらとしているリュート。気にするなと言われども、気にしてしまうのが人の性。詩人は微笑みながらギターの弦をつま弾いた。
「……ですが、お詫びの気持ちも込めて一曲歌わせて頂けませんか?」
「うーん、なんか俺の方が悪くなってきたな~」
「貴方が気を悪くすることはありませんよ?」
「……ん~、じゃあせっかくだし一曲よろしく頼むぜ!」
しばらく悩んでいたリュートだが、すぐに笑顔で詩人に頼んだのだった。
「では……」
詩人は待ってましたと言うように微笑むとギターを持ち直すと、歌に詩を乗せ声高らかに唄い始めた。
しばらくの間、丘の上には詩人の唄が響いていた。その唄は、優しく見守りつつもどこか切なさを感じさせる唄だった。そして詩人が最後の一小節を弾き終えると、けたたましい割れんばかりの拍手が送られた。
「すごいなー!オレ、感動しちゃったよ!!」
「ありがとうございます」
興奮気味に感想を並べるリュートに、詩人は笑顔で礼を述べた。そんな詩人に、リュートは申し訳なさげに一言告げる。
「あの……さ、」
「おや、どうかしましたか?」
「……もう一曲! ってのはダメか?」
「いえ、構いませんよ」
「いいのか?!」
リュートの突然の申し出にも詩人は笑顔で応えた。抱えていたギターを持ち直しコホンと一つ咳払いをする。
「では、次は私が旅の途中で見聞きした事を唄にのせて語りましょう……」
「おぉ~!」
詩人はそういうと再びギターをつま弾いた。リュートの掛け声と拍手のあと、詩人はゆっくりと語り始めた。
世界を巡る、美しい踊り子のこと。
大都会に生きる、逞しい盗賊のこと。
旅を通して次第に成長してゆく、貴族の若者のこと。
白銀に覆われた地を守る、雄々しい女戦士のこと。
草原に住む、好奇心旺盛な遊牧民の娘のこと。
自分の信念を貫き通す、強き冒険者のこと。
深い森の中で暮らす、心優しき森の番人のこと。
他者に屈しない強さを持つ、誇り高き海賊のこと。
それらの語りをリュートはただ静かに聞いていた。どの話も、面白いものばかりで飽きさせなかったからだ。……だが。
「彼らは、邪神に戦いを挑み、見事打ち倒したのです。
世界は平和を取り戻しました。
……しかし、いつまでたっても彼らは戻って来ませんでした」
「……死んだのか?」
「分かりません。まるで消えたようにいなくなってしまったのです」
どこか釈然としない終わり方に、リュートはぽつりと呟いた。詩人もまた沈んだ面持ちでかぶりを振る。
「せっかく世界を救ったのになぁ……」
リュートは寂しそう言うと空を見上げた。空は、相変わらず青い。ヨークランドの丘にただ風の音だけが静かに流れてゆく。やがて、詩人が静かに言葉を紡いだ。
「……ですが、私は信じたいのです」
「ん?」
リュートは顔を空から詩人のいる方へと向けた。詩人は穏やかな笑みを湛えて言う。
「彼らが戻って来ることを、ですよ」
「そっか……みんな、戻ってくるといいな!」
「……ところで、あなたは旅に出たりはしないのですか?」
詩人の呟きに力強く応援するように応えるリュート。そんなリュートに詩人は相変わらずにこにこしたまま唐突に尋ねた。
「オレか? オレは………そうか! そうだよ!!」
どう答えようかしばらく悩んでいたリュートだったが、やがて何かを閃いたようで草むらからやおら立ち上がった。
「……どうされました?」
リュートの行動に詩人は首を傾げながら訪ねると、素晴らしく爽やかな笑顔でリュートが答えてくれた。
「詩人さん、サンキュー! オレ、旅に出てみるぜ!!」
リュートは、ちょっとそこまで出掛けてくるとでも言うようにあっさり言ってのけた。もし、聞いていたのがが普通の人間だったら、リュートのことを止めただろう。
「それは良いことですね。……では、あなたのご武運をお祈りしましょう」
しかし詩人は止めることはなく、逆に笑顔で送り出したのだった。そして、応援するかのように、ギターをポロン、と鳴らしながら。
「よし! 善は急げだ! 早速準備だぜ~♪ ……ってことで詩人さん、面白い話あんがとなっ!」
そして、リュートはウキウキしながら詩人に礼を述べると、すぐに丘を下って行ってしまった。『俺もカッコいい歌を歌ってみせるぜ~♪』なふどと叫びながら。
「お元気で! ……ってもう聞こえませんよね」
一応声を張り上げてはみたものの、詩人の声にリュートが気付いた様子はない。リュートの後姿に苦笑しつつ、詩人もまた身支度を整え立ち上がる。
「……では、私も新しい旅に出ますか」
そして、そのまま踵を返すと二度と振り返らずそのまま真っ直ぐ歩いていった。その後、詩人の姿を見た者は誰もいない。
……しかし、代わりに風変わりな格好をした青年が様々なリージョンに出没しているという。
終