ロマサガ・ミンサガ
【ミンサガ】女装のすゝめ【ジャミル】
借金のかたに娘が連れていかれた、とジャミルとダウドがファラの母親から泣きつかれて数時間。奴隷商人の店に上がり込み、文字通り力付くで話を聞き出すことに成功した。
……だが。
「くっそ、よりによってハーレムかよ……」
「ファラ、可愛いもんね……おばさんも自慢してたし」
「ああ、そうだな……ってそこじゃねぇよ!!」
「あいたッ! 何すんだよジャミル!!」
「余計なことを言うお前が悪い!」
想像していなかった訳ではないが、あってほしくなかった事実にジャミルは頭を抱えた。隣しょんぼりしゃがみこんでいるダウドの何気無い呟きに、つい苛立ちをぶつけてしまう程に。
「酷い! ただの八つ当たりじゃん!!」
「うるせぇ! お前もちったぁ考えろ馬鹿ダウド!!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだろ! ジャミルの馬鹿!!」
「んだと!?」
売り言葉に買い言葉、まさに二人は今にも殴りあいの喧嘩になる寸前である。しかし二人の間に入るかのようなテノールが聞こえてきた。
「こうしている間にも、ファラさんは怖い思いをしているのでしょうね」
その言葉に二人はハッとして振り向けば、ファラの行方を探している最中にパブで出逢った旅の吟遊詩人がいた。つばの広い帽子を被っているため表情は伺えない。だが、先ほどの発言には二人を冷静にさせるだけの力を持っていた。
「……これまで得た情報からして、ウハンジの野郎のハーレムはアムト神殿の中だ」
「このまま行けば、戦うことは避けられないでしょうね」
「どうするのさ、ジャミル」
「だからお前も考えろよ……」
「私から一つ提案するならば――女性になりましょうか」
「「えっ」」
「もちろん三人で」
「「えっ」」
その時初めて、詩人は帽子を少し持ち上げ、茶目っ気たっぷりにニッコリ笑ってみせたのだった。
* * *
詩人の突拍子もないその発言にぽかんとしている二人を余所に、詩人は武力行使で聞き出した結果、気絶して伸びている奴隷商人に向かって声をかけていた。
「寝ているところ大変申し訳ありません。少々お聞きしたいことがあります」
「う、うう……何だ……もう、俺が知ってることはないぞ……」
「いえ、そうではなくて……ここは奴隷となる人間を集める場所なんですよね?」
「何をいまさら……」
「そして見目麗しい女性はハーレムに送られる……合っていますか?」
「そうだ……一体、何が……知りたい……?」
「ということは女性はもちろん、綺麗に着飾りますよね? とりあえずあなたが知りうる限りの女性物の衣装と化粧品を貸してくださいませんか?」
「……は?」
この奴隷商人も詩人の爆弾発言の犠牲者となり、さらには重症の体に鞭を打ち、服と化粧品を用意させられたのは言うまでもない。
この時を彼は後にこう語っている。
――あの美丈夫の笑顔ほど恐ろしいものが世の中にあるのだろうか、と。
「……というワケでこちらの方が用意して下さいましたから着替えましょう。ジャミルさん、ダウドさん」
詩人は笑顔だったが、その発言も含めて有無を言わせないオーラを出していた。気の弱いダウドはもちろん、ジャミルも無意識の内にゴクリと生唾を飲み込んでいた。
「……ああ、わかった」
「ジャミル!?」
ジャミルが肯定した事に驚きを隠せないダウドが悲鳴のような声でその名を叫んだ。ジャミルは呆れた顔をしながらもダウドをジロリと睨み付け、ダウドは反射的に首を竦めていた。
「お前さ、出来れば戦わずに穏便に済ませたいっていつも言ってるじゃねぇか」
「そ、そりゃあ……そうだけどさ」
「だったら女に化けるのが一番いい。怪しまれずにすんなり侵入できるしな」
「で、でもジャミル……」
尚も食い下がろうとするダウドだが、ジャミルに勢いよく両肩を捕まれ、内緒話をするように顔を寄せられ、いくらか小さな声で話始めた。
「あのな、俺だって本意じゃねえよ。女を助けるのになんで俺が女にならなきゃいけないんだよ、アホか」
「う、うん……」
「……だがな。俺は正直あの詩人に逆らいたくねぇ。あいつに逆らうなら女に化けてやるさ。化けてやるよ……」
「そっかあ、良かったあ」
「へ?」
「おいらもね、詩人さんがちょっと怖いなーって思ってたから、ジャミルと一緒だってわかって良かったよ」
なーんだジャミルも怖かったんじゃん、と続けてふにゃりと笑うダウドに、なんだか気恥ずかしくなったジャミルはつい、口と手を出していた。
「ダウドの癖に生意気だっつーの」
「あたっ!」
「お話は纏まりましたかー?」
相も変わらずにこにこ笑顔でこちらを見ている詩人だが、その声色に若干苛立ちを含んでいるのは正直気のせいだと思いたい。二人は無言で頷き合うと、詩人の方に向き直り、正面切って対峙した。
「ああ、やってやろうじゃねぇか」
「おいらだって!」
「そうと決まれば衣装の方を選びましょうか」
二人の答えに気を良くした詩人はにこやかに頷くと、用意された大量の服を物色し始めた。ジャミルとダウドも、その近くまで歩みより、適当に引っ張りだすなどして眺めはじめた。
「オンナの服の趣味がわっかんねぇ……」
「お金持ちはヒラヒラしてる服をよく着てるよね。動きにくくないのかなぁ」
「ジャミルさん。これ、あなたに似合いそうです」
二人が女物の服を見ながらああだこうだと文句を言っている間に詩人は真面目に服を選んでいたようで、ジャミルの名を呼び、やはり笑顔で服を手渡した。名指しで呼ばれたジャミルは複雑な顔で詩人の方に向き直る。
「あー……アリガトウゴザイマス」
「きっとあなたに似合いますよ」
「……」
微笑みながら似合うと言われてもそれは本来なら女が着るべき服である。ものすごく何か言いたそうな、しかし結局のところ何も言えず、ジャミルは肩を落として衝立の向こう側へと引っ込んだのだった。
明らかに落胆している相棒の姿と見て、何か声を掛けた方がいいんだろうかとおろおろしているダウドだったが、今のジャミルに何を言っても怒らせてしまうだけなのは想像に難くない。ダウドは開きかけた口を閉じ、黙ってジャミルを見送った。
「あ、ダウドさんにはこちらの服が似合いそうですよー」
そして詩人はそんな二人の複雑な気持ちを知ってか知らずか、嬉々として服を選んでいた。なんでこの人はこんなに楽しそうなんだろう、と内心首を傾げながらダウドは渡された服を片手に衝立の奥へ大人しく向かっていったのだった。
「お二人とも終わりましたー?」
「ああ……えっ」
「うん……へっ」
声をかけられ着替え終った二人が衝立から出ると、そこには蠱惑的な雰囲気を漂わせる美女がいた。
色鮮やかな布を組み合わせた裾の長いドレスにまず目を奪われる。しかしそれは本人の持つ銀糸の髪を際立せ、より美しく見せているに過ぎない。この世の人間とは思えないその出で立ちに、しがない盗賊の二人はただただ口を開けて固まる他なかった。
「二人とも似合ってますよ。私の目もまだまだ捨てたものではありませんねぇ」
だがしかし、美女の声に現実へと引き戻される。
「……えーっと、アンタ、詩人……なの、か?」
「ふふふ、そう言っていただけると私も本気で女装した甲斐があるというものですね」
「えっ……詩人さん、なの? 本当に?」
「嬉しい反応をありがとうございます」
悪戯が成功した子供のように笑う美女は、吟遊詩人その人だった。声を聞けば男性とわかるものの、黙ってしまえばどこからどう見ても女性そのものであり、絶世の美女と言っても申し分ない出で立ちであった。
力の入れ所を間違ってるだろう、というツッコミを言葉に出すことは叶わず、二人の盗賊は絶句するしかない。そして完全に思考停止している二人に詩人は更に追い打ちを掛けるのだった。
「あ、じゃあお二人ともこちらへ来てください。化粧しましょう!」
「「えっ」」
そこまでやるのか、と喉まで掛かったが、詩人の笑顔の前では言うことは叶わず、二人は言われるがまま、されるがままに化粧されていた。両手に化粧道具を構えた詩人に、抵抗する術などどこにもなかったのである。
「ジャミルさん睫毛長いですねぇ」
「なるほど、ダウドさんは奥二重ですか」
もうどこから何を突っ込めばいいのだろうか。とりあえず二人が満場一致で思ったことは「一体そのスキルを何処でどうやって身に付けたのか」である。
旅をしていれば自ずと知識は増えて行くものだと思うが、それにしても化粧のやり方なんぞ果たして身に付けて役に立つものなのだろうか。いや、今役に立ってはいるのだが普段から必要なモノか、と問えば首を傾げるしかない代物である。
「よし、出来ました! これでどこからどう見ても女性ですよ!」
詩人は一仕事終え、満足そうな声で二人に告げた。終るまで目を瞑っていてくださいね、と言われていた二人は鏡越しに初めて化粧を施された自分と対峙する。
「「……誰!?」」
そうして二人は化粧の凄さを身をもって実感し、どうしてあんなに女性たちが化粧に拘るのかという真理に自らたどり着いてしまったのだった。
「あとは髪の毛でも整えますかねー」
そんな二人の心情をきっとわかっていながらやっているのだろう。半ば放心状態になっているのを良いことに、詩人は彼らの髪に櫛を通し髪結い用の綺麗な紐で括り、つけ毛と髪飾りを付けていくのだった。ここまでくるとどうころんでもただの着せ替え人形扱いである。
「……もうどうにでもなればいい……」
「おいらも……」
これから幼馴染みを助けに行こうというのに、当の本人たちは一人を除いて既に瀕死状態だった。精神的に。
「はい! 終わりました! ではファラさんを助けに行きましょう!!」
そしてハーレムにて助けるべき少女に散々大笑いされる羽目になるのは、もうしばらくあとのこと。
【終】
借金のかたに娘が連れていかれた、とジャミルとダウドがファラの母親から泣きつかれて数時間。奴隷商人の店に上がり込み、文字通り力付くで話を聞き出すことに成功した。
……だが。
「くっそ、よりによってハーレムかよ……」
「ファラ、可愛いもんね……おばさんも自慢してたし」
「ああ、そうだな……ってそこじゃねぇよ!!」
「あいたッ! 何すんだよジャミル!!」
「余計なことを言うお前が悪い!」
想像していなかった訳ではないが、あってほしくなかった事実にジャミルは頭を抱えた。隣しょんぼりしゃがみこんでいるダウドの何気無い呟きに、つい苛立ちをぶつけてしまう程に。
「酷い! ただの八つ当たりじゃん!!」
「うるせぇ! お前もちったぁ考えろ馬鹿ダウド!!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだろ! ジャミルの馬鹿!!」
「んだと!?」
売り言葉に買い言葉、まさに二人は今にも殴りあいの喧嘩になる寸前である。しかし二人の間に入るかのようなテノールが聞こえてきた。
「こうしている間にも、ファラさんは怖い思いをしているのでしょうね」
その言葉に二人はハッとして振り向けば、ファラの行方を探している最中にパブで出逢った旅の吟遊詩人がいた。つばの広い帽子を被っているため表情は伺えない。だが、先ほどの発言には二人を冷静にさせるだけの力を持っていた。
「……これまで得た情報からして、ウハンジの野郎のハーレムはアムト神殿の中だ」
「このまま行けば、戦うことは避けられないでしょうね」
「どうするのさ、ジャミル」
「だからお前も考えろよ……」
「私から一つ提案するならば――女性になりましょうか」
「「えっ」」
「もちろん三人で」
「「えっ」」
その時初めて、詩人は帽子を少し持ち上げ、茶目っ気たっぷりにニッコリ笑ってみせたのだった。
* * *
詩人の突拍子もないその発言にぽかんとしている二人を余所に、詩人は武力行使で聞き出した結果、気絶して伸びている奴隷商人に向かって声をかけていた。
「寝ているところ大変申し訳ありません。少々お聞きしたいことがあります」
「う、うう……何だ……もう、俺が知ってることはないぞ……」
「いえ、そうではなくて……ここは奴隷となる人間を集める場所なんですよね?」
「何をいまさら……」
「そして見目麗しい女性はハーレムに送られる……合っていますか?」
「そうだ……一体、何が……知りたい……?」
「ということは女性はもちろん、綺麗に着飾りますよね? とりあえずあなたが知りうる限りの女性物の衣装と化粧品を貸してくださいませんか?」
「……は?」
この奴隷商人も詩人の爆弾発言の犠牲者となり、さらには重症の体に鞭を打ち、服と化粧品を用意させられたのは言うまでもない。
この時を彼は後にこう語っている。
――あの美丈夫の笑顔ほど恐ろしいものが世の中にあるのだろうか、と。
「……というワケでこちらの方が用意して下さいましたから着替えましょう。ジャミルさん、ダウドさん」
詩人は笑顔だったが、その発言も含めて有無を言わせないオーラを出していた。気の弱いダウドはもちろん、ジャミルも無意識の内にゴクリと生唾を飲み込んでいた。
「……ああ、わかった」
「ジャミル!?」
ジャミルが肯定した事に驚きを隠せないダウドが悲鳴のような声でその名を叫んだ。ジャミルは呆れた顔をしながらもダウドをジロリと睨み付け、ダウドは反射的に首を竦めていた。
「お前さ、出来れば戦わずに穏便に済ませたいっていつも言ってるじゃねぇか」
「そ、そりゃあ……そうだけどさ」
「だったら女に化けるのが一番いい。怪しまれずにすんなり侵入できるしな」
「で、でもジャミル……」
尚も食い下がろうとするダウドだが、ジャミルに勢いよく両肩を捕まれ、内緒話をするように顔を寄せられ、いくらか小さな声で話始めた。
「あのな、俺だって本意じゃねえよ。女を助けるのになんで俺が女にならなきゃいけないんだよ、アホか」
「う、うん……」
「……だがな。俺は正直あの詩人に逆らいたくねぇ。あいつに逆らうなら女に化けてやるさ。化けてやるよ……」
「そっかあ、良かったあ」
「へ?」
「おいらもね、詩人さんがちょっと怖いなーって思ってたから、ジャミルと一緒だってわかって良かったよ」
なーんだジャミルも怖かったんじゃん、と続けてふにゃりと笑うダウドに、なんだか気恥ずかしくなったジャミルはつい、口と手を出していた。
「ダウドの癖に生意気だっつーの」
「あたっ!」
「お話は纏まりましたかー?」
相も変わらずにこにこ笑顔でこちらを見ている詩人だが、その声色に若干苛立ちを含んでいるのは正直気のせいだと思いたい。二人は無言で頷き合うと、詩人の方に向き直り、正面切って対峙した。
「ああ、やってやろうじゃねぇか」
「おいらだって!」
「そうと決まれば衣装の方を選びましょうか」
二人の答えに気を良くした詩人はにこやかに頷くと、用意された大量の服を物色し始めた。ジャミルとダウドも、その近くまで歩みより、適当に引っ張りだすなどして眺めはじめた。
「オンナの服の趣味がわっかんねぇ……」
「お金持ちはヒラヒラしてる服をよく着てるよね。動きにくくないのかなぁ」
「ジャミルさん。これ、あなたに似合いそうです」
二人が女物の服を見ながらああだこうだと文句を言っている間に詩人は真面目に服を選んでいたようで、ジャミルの名を呼び、やはり笑顔で服を手渡した。名指しで呼ばれたジャミルは複雑な顔で詩人の方に向き直る。
「あー……アリガトウゴザイマス」
「きっとあなたに似合いますよ」
「……」
微笑みながら似合うと言われてもそれは本来なら女が着るべき服である。ものすごく何か言いたそうな、しかし結局のところ何も言えず、ジャミルは肩を落として衝立の向こう側へと引っ込んだのだった。
明らかに落胆している相棒の姿と見て、何か声を掛けた方がいいんだろうかとおろおろしているダウドだったが、今のジャミルに何を言っても怒らせてしまうだけなのは想像に難くない。ダウドは開きかけた口を閉じ、黙ってジャミルを見送った。
「あ、ダウドさんにはこちらの服が似合いそうですよー」
そして詩人はそんな二人の複雑な気持ちを知ってか知らずか、嬉々として服を選んでいた。なんでこの人はこんなに楽しそうなんだろう、と内心首を傾げながらダウドは渡された服を片手に衝立の奥へ大人しく向かっていったのだった。
「お二人とも終わりましたー?」
「ああ……えっ」
「うん……へっ」
声をかけられ着替え終った二人が衝立から出ると、そこには蠱惑的な雰囲気を漂わせる美女がいた。
色鮮やかな布を組み合わせた裾の長いドレスにまず目を奪われる。しかしそれは本人の持つ銀糸の髪を際立せ、より美しく見せているに過ぎない。この世の人間とは思えないその出で立ちに、しがない盗賊の二人はただただ口を開けて固まる他なかった。
「二人とも似合ってますよ。私の目もまだまだ捨てたものではありませんねぇ」
だがしかし、美女の声に現実へと引き戻される。
「……えーっと、アンタ、詩人……なの、か?」
「ふふふ、そう言っていただけると私も本気で女装した甲斐があるというものですね」
「えっ……詩人さん、なの? 本当に?」
「嬉しい反応をありがとうございます」
悪戯が成功した子供のように笑う美女は、吟遊詩人その人だった。声を聞けば男性とわかるものの、黙ってしまえばどこからどう見ても女性そのものであり、絶世の美女と言っても申し分ない出で立ちであった。
力の入れ所を間違ってるだろう、というツッコミを言葉に出すことは叶わず、二人の盗賊は絶句するしかない。そして完全に思考停止している二人に詩人は更に追い打ちを掛けるのだった。
「あ、じゃあお二人ともこちらへ来てください。化粧しましょう!」
「「えっ」」
そこまでやるのか、と喉まで掛かったが、詩人の笑顔の前では言うことは叶わず、二人は言われるがまま、されるがままに化粧されていた。両手に化粧道具を構えた詩人に、抵抗する術などどこにもなかったのである。
「ジャミルさん睫毛長いですねぇ」
「なるほど、ダウドさんは奥二重ですか」
もうどこから何を突っ込めばいいのだろうか。とりあえず二人が満場一致で思ったことは「一体そのスキルを何処でどうやって身に付けたのか」である。
旅をしていれば自ずと知識は増えて行くものだと思うが、それにしても化粧のやり方なんぞ果たして身に付けて役に立つものなのだろうか。いや、今役に立ってはいるのだが普段から必要なモノか、と問えば首を傾げるしかない代物である。
「よし、出来ました! これでどこからどう見ても女性ですよ!」
詩人は一仕事終え、満足そうな声で二人に告げた。終るまで目を瞑っていてくださいね、と言われていた二人は鏡越しに初めて化粧を施された自分と対峙する。
「「……誰!?」」
そうして二人は化粧の凄さを身をもって実感し、どうしてあんなに女性たちが化粧に拘るのかという真理に自らたどり着いてしまったのだった。
「あとは髪の毛でも整えますかねー」
そんな二人の心情をきっとわかっていながらやっているのだろう。半ば放心状態になっているのを良いことに、詩人は彼らの髪に櫛を通し髪結い用の綺麗な紐で括り、つけ毛と髪飾りを付けていくのだった。ここまでくるとどうころんでもただの着せ替え人形扱いである。
「……もうどうにでもなればいい……」
「おいらも……」
これから幼馴染みを助けに行こうというのに、当の本人たちは一人を除いて既に瀕死状態だった。精神的に。
「はい! 終わりました! ではファラさんを助けに行きましょう!!」
そしてハーレムにて助けるべき少女に散々大笑いされる羽目になるのは、もうしばらくあとのこと。
【終】