サガフロ

 ひょんなことから知り合った時の君と麒麟は、いつしか茶飲み友だちとなり、互いのリージョンを行き来するようになった。
 始めは麒麟の空間にいる子どもたちとどう会話したらいいのかわからなかった時の君であったが、好奇心の強い子どもたちから質問攻めに合い、遊んでほしいとせがまれる内に、徐々に子どもたちとの付き合い方にも板についてきた。
 時術を使って手品じみたことをしてみたり、一緒になって鬼ごっこや野球と言った遊びに興じたりなど、己のできることで、子どもたちと上手くコミュニケーションをとっていた。
 今は麒麟に頼まれ、麒麟の空間にある広場で遊ぶ子どもたちが怪我などしないように見守っているところである。ボール遊びをする子に鬼ごっこをする子、隅っこで本を読む子、何人かで集まって楽しげにおしゃべりする子、皆様々だった。
 その時、服の裾をくいくいと引っ張られる感覚がした。時の君がそちらへ顔を向ければ、足元には笑顔の少女がいた。
「ねえねえ時の君さん! これあげる!」
「……これは?」
「花かんむり! 前に零さんに作り方教えてもらったの!」
 そう言って少女は色とりどりの花で編まれた花冠を時の君に差し出す。所々、茎が飛び出るなど形は不恰好ではあるが、この少女が一生懸命作ったことが伺える。
「なぜ、私に?」
「いつも遊んでくれるお礼! 麒麟さんに相談したら、何かプレゼントするのはどうかって教えてくれたの。時の君さん、ありがとう!」
 少女がまたニコっと笑う。だが、他人を避けて生きていた時の君にとって、この様なことはほぼ経験したことがなく、どう返事をしていいのかわからず、俯いて黙り込んでしまった。
「……」
「……時の君さん?」
 名を呼ばれ時の君がハッと顔を上げると不安そうな顔の少女と目が合った。
「すまない。誰かに物を貰う事がなかったものでな。どうすればいいのかわからなかった」
「ええっ!? そうなの? あっ、そっか時の君さんて妖魔さんなんだっけ?」
「ああ。妖魔はヒューマンと違ってあまり他人と関わることが少ないのだ。……基本的には」
 時の君の脳裏に何人か他人と関わりまくる妖魔の姿が浮かぶが、アレは例外だということにした。
「へー、そうなんだ〜」
「君も、妖魔はあまり見かけた事がないだろう?」
「あっ、そうだ! 時の君さんと零さんしか知らない!」
 少女の頭の上に電球が光ったのが見えた様な気がした。言いながら気づいた様で、少女があははと笑う。それに釣られて、時の君も自然と口元が綻んだ。
「ああ、そうだろう。私も、ヒューマンたちとこうやって話すようになったのはつい最近だ。だから、君たちとのやり取りはまだ学んでいるところなのだ。……こうやって、物を受け取った時は、どうすればいいんだ? 教えてほしい」
「えーっとお……」
「『ありがとう』と言って受け取ればいいのですよ、時の君」
 聞き覚えのある声に、時の君と少女が同時に顔をそちらへ向けた。そこには不思議な姿形をした生き物——このリージョンの主である麒麟が静かに二人へ近づいてきていた。
「麒麟」
「麒麟さん!」
「時の君、それを受け取って、どう思いましたか?」
「それは……麒麟ではなくて、私でいいのかと」
「でも、嫌じゃなかったんでしょう?」
「この子らを嫌う理由は何処にもない」
「なら、素直に受け取ればいいのですよ。その子なりの、感謝の気持ちを形にした物なのですから」
「……」
 時の君は、麒麟の静かな問いかけから出てきた己の答えを、もう一度胸の内で反芻する。
「時の君さん?」
「ありがとう。嬉しい、とはこういう事なのだな」
「!! えへへ、どういたしまして!」
 そうして少女が嬉しそうにふにゃりと笑い、時の君の周りをくるくると回った。
「ふふ、懐かれましたねえ」
「……ああ。人に好かれるということは、心地よいものだな」
「あっ、そうだ時の君さん、しゃがんで花かんむり貸して! 付けてあげる!」
 回っていた少女があっ、と声を上げる。時の君は言われるがまま、しゃがみ、花冠を再度少女に渡した。
「こうか?」
「うん! 動かないでね!」
 少女が恐る恐るといった風に花冠を時の君の頭に乗せる、が。
「あっ」
「うん?」
 その花冠は時の君の頭の大きさよりも一回り大きく、するっと頭から落ちて首飾りのように時の君の胸元を飾った。
「ああ〜やっぱり大きかったかあ……」
 少女は残念そうな声を上げるが、麒麟と時の君は一瞬顔見合わせると同時に笑い出す。
「えっえっ」
「いや何、これはこれで良いものだな、と思っただけだ。ありがとう」
「ええ、よく似合ってますよ。時の君」
「ほんと!? ありがとう! でも次はちゃんとかんむりにするからね!」
「ああ。楽しみにしていよう」
 時の君が首飾りになった花冠に手を触れながら、はにかむ少女を見て目を細めたのだった。

二〇二六年 時の記念日小説
『flower crown』
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