サガフロ

「手と手を取り合う心」

「ヴァジュイールよ、行ってくる」
「珍しい……と思ったらそうか。今日だったか。ああ、出かけてくるといい」
 己のリージョンに閉じこもっているかの君が、ひょっこり顔を出してきた。人間の魔術士の争いに巻き込まれた例の事件後よりどうも顔が知れたらしく、こうして時折、誰かに誘われて出かけていくことが増えてきた。
「今日は誰に会いに行くのだ?」
「……なぜ、言う必要がある」
「なに、ただ気になっただけのことよ。で、誰なのだ? 妖魔か? それとも人間か?」
 気になって尋ねれば、かの君は眉を顰めてきた。全く、私をなんだと思っているんだ。再度尋ねれば、軽く嘆息してから答えてくれた。
「……麒麟だ。ドゥヴァンの神社とやらで茶を飲まないかと誘われただけだ」
「ほう。空術の資質を持つというあの麒麟か」
 風の噂で聞いたことはあったが、本当に存在していたとは。それが時術を操るかの君と縁が出来るとはなかなか面白いこともあるものだ、とつい感心してしまった。
「それ以外にいるのか?」
「いや、知らぬ」
「……行ってくる」
 何とも言い難い顔をしつつ、かの君が姿を消す。
「時術にしか興味を示さなかった彼奴が、よもやこうしてリージョンから出る日が来るとは……」
 変わり映えのしない日々の、ほんの細やかな変化。孤高を貫いていた知己が得たものがこれから先も続いていけばいいと、指輪の君は思うのだった。

***

「零、よろしかったのですか?」
「何がじゃ?」
「いえ、その……私と時の君の茶会の場の提供をしていただいてありがとうございます」
「妾が好きでやってるんじゃから気にせんでいいと言っておろう! 全く何回目じゃこのやりとり!」
「すみません」
 リージョン・ドゥヴァンにある神社。そこに神社の巫女である零姫が、いそいそと茶器——いわゆる京やワカツ風のものを神社の庭で準備していた。
 初めはIRPOの応接室の予定だったが「ここはサ店じゃねえ!」ととあるパトロール隊員に怒られたため、代替案としてこの場所を零姫が提供したのだった。
 占いで賑やかな町の中心から離れた高台にひっそり佇むこの場所は、滅多に人が来ることはない。モンスターと妖魔が堂々といても何も言われることはないだろう。
「妾も嬉しいのじゃ、麒麟」
「? どうしてです?」
 嬉しそうに茶会の準備をする零姫に麒麟が首を傾げながら尋ねる。零姫は麒麟の方を向くととびきりの笑みを浮かべて答えた。
「何、お主が妾のことを気にかけていたように、妾もお主のことが気がかりだったものよ」
「零……」
「いつも子どもたちの事ばかり先で、お主は自分のことは顧みぬ。妾以外にも誰か話相手でも出来ればいいと思っていたからの」
「そうだったのですね……ありがとうございます」
「おっと、話をしてる内に待ち人が来たようじゃぞ」
 神社の鳥居が、映像が乱れたかのように揺らぎ、空間が歪む。まるで見えないドアが開いたかのように、ヒトのカタチをした何かが現れた。
「麒麟。待たせてしまったか」
「大丈夫ですよ、時の君」
 現れた時の君の顔が不安そうな色に染まる。相対する麒麟は、嬉しそうな様子で近寄っていった。その声と態度に、時の君の唇が弧を描いたのだった。

「手と手を取り合う心」
お題サイト「腹を空かせた夢喰い」より
https://hirarira.com
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