サガフロ
【サガフロ】Je vous en remercie bouquet~感謝の花束~【ALL主人公】
――本日七月十一日は、身近にいる人に感謝を伝える日! 今年もあちこちのリージョンでこの日に伴うキャンペーンが行われています!このラジオを聞いている方、普段なかなか言えないあの人や、いつもお世話になってるあの人へ、一言伝えてみてはいかがでしょうか?
また、当ラジオでも、メールやハガキ、FAXやお電話で、ラジオを通じて伝えるキャンペーンを行っています。直接伝えるのが苦手な方はぜひ! お待ちしております!
◇◇◇
リージョン・マジックキングダム。
魔術で栄えたこの王国は、地下に封じていた地獄と呼ばれる場所からモンスターが溢れだし、見るも無惨な廃墟に成り果てた。その地獄にはモンスターを操る元凶が存在し、それを最後に旅立った術士が倒したため地獄は崩壊。大元は断つ事が出来たものの、壊れた街並みががすぐに元通りになるということなく、乾いた風が瓦礫の王国を撫でていくばかり。
融合し一人の魔術士となったブルーとルージュだったが、再び元の双子へと戻っていた。まるで、あの地獄の君主を倒すためにああなったのだ、とでも言うように。
***
ようやく、少しずつだけど復興のための工事も始まっている。だけど、まだまだ人手も物資も全然足りていない。いつ終わるのかわからない日々に、ただただ焦燥ばかりが募る――そんなある日のことだった。
「おい、受けとれ」
「え、ちょ、いきなり何!?」
仏頂面した双子の兄弟から、なんの脈絡もなく突然何かを押し付けられる。手の中にあるものを見れば、それは丁寧に作られた押し花だった。真っ赤な花と、青紫色の二つの花が並んでいた。たしか、この花は――
「ガーベラと……なんだっけ?」
「カンパニュラ、だ」
「あ、そうそう、それ! 前にエミリアから教えてもらったっけ……懐かしいなあ」
「……用件は済んだ。俺は食事の準備をしてくる」
「え、それなら僕もいくよ」
僕が押し花をじっと眺めていると、ブルーはさっさと動き出していた。僕もついていこうとするが、振り替えるとその鋭い眼光で睨まれる。あ、これ何言ってもダメなやつ。
「お前は子どもたちの様子を見いけばいい。俺がやる」
「え、でも」
「いいから行ってこい!」
「う、うん……」
ブルーに押し切られ、僕はそそくさとその場を後にした。うう、僕は何もしてないのに。釈然としないまま、僕は子どもたちが眠る、新生児のいる部屋へと向かったのだった。
「おや、ルージュ。今は君一人か」
「あっ、ヌサカーン! 子どもたちの様子は?」
「ああ、変わりない。どの子どももいたって健康だよ」
「良かった」
部屋へ向かうと、そこには既に先客がいた。クーロンの裏通りで医者をしている変わり者の妖魔、ヌサカーンだ。ブルーがかつて共に旅をした仲間の一人で、医者という職業ということもあり、定期的に子どもたちの様子を見に来てもらっている。僕たちだけでは、ただ眠っているのかどうなのか、それすらよくわからないから本当に助かっているのだ。そんな風にとりとめのない会話をしていると、ヌサカーンの視線が僕の手元へ移った。
「おや、珍しいものを持っているな」
「え、ああ。これですか? さっきブルーが急に渡してきたんです。何でかわからないですけど」
「ほう、ブルーがね……明日は槍でも降るかな?」
「それブルーに言ったら確実に怒るやつ……」
そして僕の手元にあるものを確認するとニヤリと笑った。あ、これ絶対面白がってる。
「ふふふ、あとでその花の花言葉を調べてみたまえ。あと今日がなんの日かも、な。恐らく、誰かの入れ知恵だろうが、実行したのはブルーだ」
「はあ、わかりました……?」
僕が、ブルーの真意に気づくまであと一時間。
・ガーベラの花言葉…光に満ちた、希望、前進
・カンパニュラの花言葉…感謝、誠実な愛、共感、節操、思いを告げる
◇◇◇
「レン! おはよう!」
「ああ、エミリアおはよう」
朝起きて身支度を整えダイニングへと行けば、そこには既に朝食を作る愛しい奥さんの姿があった。初めはその手つきが危なっかしいと思っていたけど、今は安心してみていられる。
「はい、朝御飯どうぞ」
「ありがとう。……あれ、今日は品数が多いね」
「ほ、ほら、今日は感謝の日だって言うじゃない! そのことすっかり忘れてて、何にも用意できなかったから、せめて……って思って」
真っ赤になってしどろもどろになりながらエミリアが言う。そんな、忘れていたって気にしないのに。
「ありがとう、エミリア。思い出して用意してくれて。それじゃ、僕も今日は早く帰って来ないとだね」
「早く帰って来てくれるのは嬉しいけど……お願い。無理しないで」
「ああ、もちろん。僕は君と出会えて、君と結婚できた事に感謝しよう」
そうして僕は彼女の頬に口付けた。
◇◇◇
「これより、本日の会議を始める」
リージョン・ファシナトゥール。かつては妖魔の君オルロワージュが支配していたが、今は彼を倒した半妖の少女アセルスがこの地を治めている。
初めは自分が王様になるなんて出来ない、と言っていた彼女だったが、取り敢えず形だけでもいいからなっておけ、とかつての教育係から言い訳できない程度に論破されその玉座に収まった。その為、月に一度はこうして針の城に勤めている主要な妖魔たちを集めて会議を行い、ここで決定した事項をアセルスの口からファシナトゥールに住む下級妖魔や人間たち周知している、という形式をとっている。
「本日の会議の内容は――私から皆に伝えたいことがある」
その言葉に、玉座の間に集まったものたちがざわついた。イルドゥンが「静粛に!」と一声かけると、さざ波のような声がピタリとやんだ。アセルスの傍らにいるミルファークが先を促すように勧める。
「ここにいる、いや、針の城や根っこの町にいる全ての者へ――ありがとう、と」
「何じゃ急に。何があったのじゃアセルスよ」
この場にいる全ての妖魔たちの疑問を代表して、零姫がアセルスに投げ掛ける。全員の視線がアセルスの方に向いた。
「ああ、うん。そうだね。貴方たち妖魔には馴染みが薄いけど、人間たちは今日を感謝の日と決めたんだって」
「人間って本当に面白いことを考え付くものだねえ」
「感謝の日、か。――フン、人間の考えることはよくわからん」
クスクスと笑いながら言うゾズマと、眉間にシワを寄せて吐き捨てるイルドゥン。それに同意するかのように他の妖魔たちも頷いたりひそひそと話し合っている。アセルスは困った顔をしつつも再び口を開いた。
「あー……うん。まあそうなるよね。ええと、そう、私はなし崩し的に妖魔の君になって、日々ずっとここにいる皆に支えられていたんだなって、今日が感謝の日だってことを思い出して気づいたんだ。だから、半妖という中途半端な私を認めてくれてありがとう、と」
「認めるもなにも、あのオルロワージュ様を倒したんだぞ、お前は。あの方を倒すなど、誰も思い付かなかったのだから」
相変わらず、眉間にシワを寄せたままイルドゥンが言う。妖魔社会は格が全てというが、アセルスは未だに馴染めずにいるために思わず叫んでいた。
「いやでも、あれ戦う必要なかったと思うんだけど!? だってもう私は自由に生きるって決めたし!」
「あの方、自分に逆らう者に執着するっていう面倒くさい性格してたから戦う必要はあったよー。ねえ、零姫サマ?」
「……そうじゃな。妾を追いかけ続けたのも、妾があやつから逃げ続けたからであろう。アセルス、お主が針の城から逃げ出した頃からはあやつは妾を追いかけるのを止めたのじゃよ。全く、新しい玩具を見つけた子どもじゃな」
「マジで……なにそれ最悪……」
アセルスの叫びにニヤニヤと笑いながらゾズマが言う。すると零姫がアセルスにとってとんでもない爆弾発言をかました。その事実にアセルスはがくりと項垂れるしかなかった。
「妾とあやつの痴話喧嘩に、何ら関係ないお主を巻き込んでしまったことはすまないと思っている。じゃが、お主のお陰で、妾はようやくあやつの呪縛から逃れることが出来たのじゃ。妾こそ、お主に感謝せねばな。ありがとう、アセルス」
ふっ、と零姫が笑みを浮かべる。その真っ直ぐな感謝の言葉に、アセルスの頬が上気し、そして頭を抱えた。
「うわー! なんか面と向かって言われると恥ずかしい! ああもう、私が格好よく言おうと思ったのに! でもってあのヒトが零姫に惚れた理由がわかった気がしていやああああ!」
「ほっほっほ。まだまだじゃのう」
「全く……そこは小娘のままか」
「まあまあ、そこが彼女の魅力ってことにしとこうよ。人間みたいな不完全なところも含めてアセルスなんだから」
「……そういうことにしておいてやろう」
「ふふっ、素直じゃないねえ」
「貴様に言われる筋合いはない」
この日の会議はグダグダでよくわからないままに終わり、その翌日、アセルスは一筆残してどこかに旅立つのはまた別の話。
***
「アーニーキー!」
「おっ、サンダーじゃねえか。どうしたんだ?」
リージョン・ヨークランド。農業主体の牧歌的なリージョンといえば聞こえがいいが、要は田舎だ。トリニティに献上する上等な酒と、ヨーク綿が特産品である。ゆえに、若者はこぞって都会と呼ばれるマンハッタンやクーロンへと飛び出していく。オーガ族のモンスターにアニキと呼ばれたこの男性も、一念発起し都会へと飛び出していった若者の内の一人である。今は訳あってこの地に身を隠している最中なのだが。
「あのさ、今日って『感謝の日』っていうんだろ? アニキんちのラジオで言ってたよ!」
「あー……そーいやそんな日もあったよーな……?」
「何で疑問形なんだよ~」
「やったことなかったからな!」
ははは、と笑ってリュートが言えば、オーガ属のモンスター、サンダーがガックリ肩を落とした。だが、ここでめげる弟分ではなかった。乗り気でないアニキをのせるのもオレの役目! とばかりに目をきらきらさせながら身ぶり手振りでやりたいアピールをする。
「よし、じゃあ、やろう! アニキもやろうよ感謝の日!」
「やるっつっても、具体的にどうするかな~?」
「う、うーん……あ、じゃあ、アニキの母ちゃんになんか贈るとか……?」
「母ちゃんかあ……確かに世話になってるし感謝してるけどさー」
「どしたの?」
「『明日は槍でも降るのかい!?』ってめっちゃビビられそうでさ……」
「あっ……」
ふっと遠い目をする兄貴分に、何となく察してしまった弟分はそっと肩に手を置いた。
◇◇◇
「「T260G、誕生日おめでとう!!」」
スリープ状態から解除された瞬間、タイム様の顔とローズマリー様の顔がまず視界に入った。そのまま周囲の状況を確認すれば、見知った方たちが次々に「誕生日おめでとう!」と声をかけてくる。中島社長とその社員様方、そしてナカジマ零式に特殊工作車。レオナルド博士、pzkwV……己の失われた任務を探す旅で出会った者が、一堂に会していた。一名を除いて。
「誕生日……誕生日(たんじょうび)は、人の生まれた日、あるいは、毎年迎える誕生の記念日のこと。「年」も付けて生年月日(せいねんがっぴ)と同義に用いる場合もあるが、単に「○月○日」のみで記念日として用いることもある。対義語は命日。派生的に、物や動物にも用いる場合がある。ーー私の製造年月日のことを指しているのでしたら今日ではありません」
「そ、それはそうなんだけど! あのなT260G、ボクがお前のコアを見つけて、そのボディに組み立てたのが今日なんだ! だから、今日がお前の誕生日なの!」
「理解不能」
「んもー! そういうところは相変わらずなのな!! ねえタコおじさん! どうにか出来ないの?」
私の言ったことに対して怒りを露にするタイム隊長だったが、それを見た回りの方々がどっと笑った。ーー何がおかしいのか私にはわからない。ローズマリー様とタコ様は呆れている様子である。
「どうにかするとなると、コアを分解して弄らないとなんだが……こいつは古代のメカだろう? そんなよくわからん代物を弄るバカな真似はできねーな」
「うう、やっぱりだめかあ」
「戦闘用メカだからお堅いのはもう仕方がないでしょ。ーーとにかく、そういうこと。記憶をなくしたアンタの誕生日が今日なの。理解不能だっていい。私たちの気持ち、受け取って。アンタを見つけたお陰で、みんな『今』があるの」
ローズマリー様の言葉に、その場にいる全員が頷き「いいですよ~! も~っと言ってやってくださ~い」「そうですね。T260Gさんはわが社の恩人でもあります」と零式と特殊工作車が言っている。「ボクとpzkwVがもう一度会えたのも、T260Gのお陰だよねえ」「ええ、先生! そうですぜ!」とこちらも確認しあっている。後ろにいる方々に気を取られていると、ローズマリー様とタイム様が私の両アームに体を付けていた。
「……ねえ、T260G、コアをもう一度動かしてくれてありがとう。自分の任務が終わったあと、ここに帰ってきてくれて、ありがとう」
「約束守ってくれて嬉しかったんだぞ! ありがとう!」
「認識ID7074 8782 1099 タイム探検隊所属 直属指揮官タイム隊長 総指揮官ローズマリー様 原隊駐留地ボロ。私の帰還する場所はここです」
私のその言葉に、私がボロへと帰還したあのときと同じく、二人は目から水ーー涙を次々と溢し始め、その姿を見ていた皆様も何故か涙を流していた。
「いかん……最近は涙腺が弱くて困る……」
「うっ……くそっ、こんなん見せられたら泣くしかねーよ!」
中島社長も社員たちも揃って涙を流していた。量的にタイム様とローズマリー様の倍は出ている。取り敢えず私が声をだそうとしたまさにその時だった。残り一名がようやく姿を現したのは。
「おうおう、なんだこの辛気臭ェ空気は! 今日はあのクズメカの目出度え日なんだろ! お前ら飲め飲め! せっかくこのゲン様が上等な酒持ってきてやったんだ! 飲める奴ぁ飲め!」
◇◇◇
「メイレン! フェイオン! これ、ボクからプレゼントだよ!」
「あら、可愛いじゃない!」
「ほう、なかなか器用なものだな」
「へへっ、すごいでしょー? 二人はお付き合いしてるんだよねっ! ラブラブな二人にはお揃いの指輪が似合うってバトル好き双子が言ってたのを思い出して作ったんだ!」
マーグメルが滅んだあと、クーンたちの一族は、安住の地を求めて各地へと旅立った。クーンはといえば「メイレンがまた変なものに取り付かれないようにボクが見張ってるよ!」と半ば強引に私とフェイオンに付いてきた。フェイオンはまた二人でやり直したいと言ってたけど、私にはこの申し出は正直有り難かった。またいつ、自分が足を踏み外すのか分からなくて、怖かったから。
「ありがとー! それにね! 今日は感謝の日なんだってね! ボク、二人にはとってもと~っても感謝してるから!」
じゃ、指輪ちゃんと着けてね! と念を押して彼は去っていった。どうやら、各地に散らばった仲間たちにも渡しにいくらしい。残されたのは、一組の草花で作られた可愛いペアリングと私たち。
「……メイレン、今はこれで我慢してくれるか?」
「え、フェイオンそれって」
そう言うやいなや彼は私の左手を取ると薬指に草花の指輪を嵌め、私の手の甲にキスをした。
◇◇◇
――皆様、いつもお世話になってるあの人やこの人に感謝の言葉は伝えられたでしょうか!?
えー、ここでおハガキを一通紹介したいと思います!
ラジオネーム『元・正義のヒーローさん』から!
『今、アンタが何処にいるかわからないから、この公共の電波を使って感謝の言葉を言いたいと思う。アンタがこのラジオを聞いてくれることを祈るしかないんだけど。ホーク、ありがとう。アンタのお陰でオレは道を踏み外すことなく、母さんと妹を助けることが出来たから。』
……だそうです! ホークさん、聞いていらっしゃいますか? 元・正義のヒーローさんの想いが届いていると信じていますよ~! 次はメールを紹介しますね――
「――ああ、確かに届いたぞ」
何処かのシップ発着場。恰幅のいい髭を蓄えた壮年男性が、足元に置いたラジオに向かって微笑んだ。
END.
――本日七月十一日は、身近にいる人に感謝を伝える日! 今年もあちこちのリージョンでこの日に伴うキャンペーンが行われています!このラジオを聞いている方、普段なかなか言えないあの人や、いつもお世話になってるあの人へ、一言伝えてみてはいかがでしょうか?
また、当ラジオでも、メールやハガキ、FAXやお電話で、ラジオを通じて伝えるキャンペーンを行っています。直接伝えるのが苦手な方はぜひ! お待ちしております!
◇◇◇
リージョン・マジックキングダム。
魔術で栄えたこの王国は、地下に封じていた地獄と呼ばれる場所からモンスターが溢れだし、見るも無惨な廃墟に成り果てた。その地獄にはモンスターを操る元凶が存在し、それを最後に旅立った術士が倒したため地獄は崩壊。大元は断つ事が出来たものの、壊れた街並みががすぐに元通りになるということなく、乾いた風が瓦礫の王国を撫でていくばかり。
融合し一人の魔術士となったブルーとルージュだったが、再び元の双子へと戻っていた。まるで、あの地獄の君主を倒すためにああなったのだ、とでも言うように。
***
ようやく、少しずつだけど復興のための工事も始まっている。だけど、まだまだ人手も物資も全然足りていない。いつ終わるのかわからない日々に、ただただ焦燥ばかりが募る――そんなある日のことだった。
「おい、受けとれ」
「え、ちょ、いきなり何!?」
仏頂面した双子の兄弟から、なんの脈絡もなく突然何かを押し付けられる。手の中にあるものを見れば、それは丁寧に作られた押し花だった。真っ赤な花と、青紫色の二つの花が並んでいた。たしか、この花は――
「ガーベラと……なんだっけ?」
「カンパニュラ、だ」
「あ、そうそう、それ! 前にエミリアから教えてもらったっけ……懐かしいなあ」
「……用件は済んだ。俺は食事の準備をしてくる」
「え、それなら僕もいくよ」
僕が押し花をじっと眺めていると、ブルーはさっさと動き出していた。僕もついていこうとするが、振り替えるとその鋭い眼光で睨まれる。あ、これ何言ってもダメなやつ。
「お前は子どもたちの様子を見いけばいい。俺がやる」
「え、でも」
「いいから行ってこい!」
「う、うん……」
ブルーに押し切られ、僕はそそくさとその場を後にした。うう、僕は何もしてないのに。釈然としないまま、僕は子どもたちが眠る、新生児のいる部屋へと向かったのだった。
「おや、ルージュ。今は君一人か」
「あっ、ヌサカーン! 子どもたちの様子は?」
「ああ、変わりない。どの子どももいたって健康だよ」
「良かった」
部屋へ向かうと、そこには既に先客がいた。クーロンの裏通りで医者をしている変わり者の妖魔、ヌサカーンだ。ブルーがかつて共に旅をした仲間の一人で、医者という職業ということもあり、定期的に子どもたちの様子を見に来てもらっている。僕たちだけでは、ただ眠っているのかどうなのか、それすらよくわからないから本当に助かっているのだ。そんな風にとりとめのない会話をしていると、ヌサカーンの視線が僕の手元へ移った。
「おや、珍しいものを持っているな」
「え、ああ。これですか? さっきブルーが急に渡してきたんです。何でかわからないですけど」
「ほう、ブルーがね……明日は槍でも降るかな?」
「それブルーに言ったら確実に怒るやつ……」
そして僕の手元にあるものを確認するとニヤリと笑った。あ、これ絶対面白がってる。
「ふふふ、あとでその花の花言葉を調べてみたまえ。あと今日がなんの日かも、な。恐らく、誰かの入れ知恵だろうが、実行したのはブルーだ」
「はあ、わかりました……?」
僕が、ブルーの真意に気づくまであと一時間。
・ガーベラの花言葉…光に満ちた、希望、前進
・カンパニュラの花言葉…感謝、誠実な愛、共感、節操、思いを告げる
◇◇◇
「レン! おはよう!」
「ああ、エミリアおはよう」
朝起きて身支度を整えダイニングへと行けば、そこには既に朝食を作る愛しい奥さんの姿があった。初めはその手つきが危なっかしいと思っていたけど、今は安心してみていられる。
「はい、朝御飯どうぞ」
「ありがとう。……あれ、今日は品数が多いね」
「ほ、ほら、今日は感謝の日だって言うじゃない! そのことすっかり忘れてて、何にも用意できなかったから、せめて……って思って」
真っ赤になってしどろもどろになりながらエミリアが言う。そんな、忘れていたって気にしないのに。
「ありがとう、エミリア。思い出して用意してくれて。それじゃ、僕も今日は早く帰って来ないとだね」
「早く帰って来てくれるのは嬉しいけど……お願い。無理しないで」
「ああ、もちろん。僕は君と出会えて、君と結婚できた事に感謝しよう」
そうして僕は彼女の頬に口付けた。
◇◇◇
「これより、本日の会議を始める」
リージョン・ファシナトゥール。かつては妖魔の君オルロワージュが支配していたが、今は彼を倒した半妖の少女アセルスがこの地を治めている。
初めは自分が王様になるなんて出来ない、と言っていた彼女だったが、取り敢えず形だけでもいいからなっておけ、とかつての教育係から言い訳できない程度に論破されその玉座に収まった。その為、月に一度はこうして針の城に勤めている主要な妖魔たちを集めて会議を行い、ここで決定した事項をアセルスの口からファシナトゥールに住む下級妖魔や人間たち周知している、という形式をとっている。
「本日の会議の内容は――私から皆に伝えたいことがある」
その言葉に、玉座の間に集まったものたちがざわついた。イルドゥンが「静粛に!」と一声かけると、さざ波のような声がピタリとやんだ。アセルスの傍らにいるミルファークが先を促すように勧める。
「ここにいる、いや、針の城や根っこの町にいる全ての者へ――ありがとう、と」
「何じゃ急に。何があったのじゃアセルスよ」
この場にいる全ての妖魔たちの疑問を代表して、零姫がアセルスに投げ掛ける。全員の視線がアセルスの方に向いた。
「ああ、うん。そうだね。貴方たち妖魔には馴染みが薄いけど、人間たちは今日を感謝の日と決めたんだって」
「人間って本当に面白いことを考え付くものだねえ」
「感謝の日、か。――フン、人間の考えることはよくわからん」
クスクスと笑いながら言うゾズマと、眉間にシワを寄せて吐き捨てるイルドゥン。それに同意するかのように他の妖魔たちも頷いたりひそひそと話し合っている。アセルスは困った顔をしつつも再び口を開いた。
「あー……うん。まあそうなるよね。ええと、そう、私はなし崩し的に妖魔の君になって、日々ずっとここにいる皆に支えられていたんだなって、今日が感謝の日だってことを思い出して気づいたんだ。だから、半妖という中途半端な私を認めてくれてありがとう、と」
「認めるもなにも、あのオルロワージュ様を倒したんだぞ、お前は。あの方を倒すなど、誰も思い付かなかったのだから」
相変わらず、眉間にシワを寄せたままイルドゥンが言う。妖魔社会は格が全てというが、アセルスは未だに馴染めずにいるために思わず叫んでいた。
「いやでも、あれ戦う必要なかったと思うんだけど!? だってもう私は自由に生きるって決めたし!」
「あの方、自分に逆らう者に執着するっていう面倒くさい性格してたから戦う必要はあったよー。ねえ、零姫サマ?」
「……そうじゃな。妾を追いかけ続けたのも、妾があやつから逃げ続けたからであろう。アセルス、お主が針の城から逃げ出した頃からはあやつは妾を追いかけるのを止めたのじゃよ。全く、新しい玩具を見つけた子どもじゃな」
「マジで……なにそれ最悪……」
アセルスの叫びにニヤニヤと笑いながらゾズマが言う。すると零姫がアセルスにとってとんでもない爆弾発言をかました。その事実にアセルスはがくりと項垂れるしかなかった。
「妾とあやつの痴話喧嘩に、何ら関係ないお主を巻き込んでしまったことはすまないと思っている。じゃが、お主のお陰で、妾はようやくあやつの呪縛から逃れることが出来たのじゃ。妾こそ、お主に感謝せねばな。ありがとう、アセルス」
ふっ、と零姫が笑みを浮かべる。その真っ直ぐな感謝の言葉に、アセルスの頬が上気し、そして頭を抱えた。
「うわー! なんか面と向かって言われると恥ずかしい! ああもう、私が格好よく言おうと思ったのに! でもってあのヒトが零姫に惚れた理由がわかった気がしていやああああ!」
「ほっほっほ。まだまだじゃのう」
「全く……そこは小娘のままか」
「まあまあ、そこが彼女の魅力ってことにしとこうよ。人間みたいな不完全なところも含めてアセルスなんだから」
「……そういうことにしておいてやろう」
「ふふっ、素直じゃないねえ」
「貴様に言われる筋合いはない」
この日の会議はグダグダでよくわからないままに終わり、その翌日、アセルスは一筆残してどこかに旅立つのはまた別の話。
***
「アーニーキー!」
「おっ、サンダーじゃねえか。どうしたんだ?」
リージョン・ヨークランド。農業主体の牧歌的なリージョンといえば聞こえがいいが、要は田舎だ。トリニティに献上する上等な酒と、ヨーク綿が特産品である。ゆえに、若者はこぞって都会と呼ばれるマンハッタンやクーロンへと飛び出していく。オーガ族のモンスターにアニキと呼ばれたこの男性も、一念発起し都会へと飛び出していった若者の内の一人である。今は訳あってこの地に身を隠している最中なのだが。
「あのさ、今日って『感謝の日』っていうんだろ? アニキんちのラジオで言ってたよ!」
「あー……そーいやそんな日もあったよーな……?」
「何で疑問形なんだよ~」
「やったことなかったからな!」
ははは、と笑ってリュートが言えば、オーガ属のモンスター、サンダーがガックリ肩を落とした。だが、ここでめげる弟分ではなかった。乗り気でないアニキをのせるのもオレの役目! とばかりに目をきらきらさせながら身ぶり手振りでやりたいアピールをする。
「よし、じゃあ、やろう! アニキもやろうよ感謝の日!」
「やるっつっても、具体的にどうするかな~?」
「う、うーん……あ、じゃあ、アニキの母ちゃんになんか贈るとか……?」
「母ちゃんかあ……確かに世話になってるし感謝してるけどさー」
「どしたの?」
「『明日は槍でも降るのかい!?』ってめっちゃビビられそうでさ……」
「あっ……」
ふっと遠い目をする兄貴分に、何となく察してしまった弟分はそっと肩に手を置いた。
◇◇◇
「「T260G、誕生日おめでとう!!」」
スリープ状態から解除された瞬間、タイム様の顔とローズマリー様の顔がまず視界に入った。そのまま周囲の状況を確認すれば、見知った方たちが次々に「誕生日おめでとう!」と声をかけてくる。中島社長とその社員様方、そしてナカジマ零式に特殊工作車。レオナルド博士、pzkwV……己の失われた任務を探す旅で出会った者が、一堂に会していた。一名を除いて。
「誕生日……誕生日(たんじょうび)は、人の生まれた日、あるいは、毎年迎える誕生の記念日のこと。「年」も付けて生年月日(せいねんがっぴ)と同義に用いる場合もあるが、単に「○月○日」のみで記念日として用いることもある。対義語は命日。派生的に、物や動物にも用いる場合がある。ーー私の製造年月日のことを指しているのでしたら今日ではありません」
「そ、それはそうなんだけど! あのなT260G、ボクがお前のコアを見つけて、そのボディに組み立てたのが今日なんだ! だから、今日がお前の誕生日なの!」
「理解不能」
「んもー! そういうところは相変わらずなのな!! ねえタコおじさん! どうにか出来ないの?」
私の言ったことに対して怒りを露にするタイム隊長だったが、それを見た回りの方々がどっと笑った。ーー何がおかしいのか私にはわからない。ローズマリー様とタコ様は呆れている様子である。
「どうにかするとなると、コアを分解して弄らないとなんだが……こいつは古代のメカだろう? そんなよくわからん代物を弄るバカな真似はできねーな」
「うう、やっぱりだめかあ」
「戦闘用メカだからお堅いのはもう仕方がないでしょ。ーーとにかく、そういうこと。記憶をなくしたアンタの誕生日が今日なの。理解不能だっていい。私たちの気持ち、受け取って。アンタを見つけたお陰で、みんな『今』があるの」
ローズマリー様の言葉に、その場にいる全員が頷き「いいですよ~! も~っと言ってやってくださ~い」「そうですね。T260Gさんはわが社の恩人でもあります」と零式と特殊工作車が言っている。「ボクとpzkwVがもう一度会えたのも、T260Gのお陰だよねえ」「ええ、先生! そうですぜ!」とこちらも確認しあっている。後ろにいる方々に気を取られていると、ローズマリー様とタイム様が私の両アームに体を付けていた。
「……ねえ、T260G、コアをもう一度動かしてくれてありがとう。自分の任務が終わったあと、ここに帰ってきてくれて、ありがとう」
「約束守ってくれて嬉しかったんだぞ! ありがとう!」
「認識ID7074 8782 1099 タイム探検隊所属 直属指揮官タイム隊長 総指揮官ローズマリー様 原隊駐留地ボロ。私の帰還する場所はここです」
私のその言葉に、私がボロへと帰還したあのときと同じく、二人は目から水ーー涙を次々と溢し始め、その姿を見ていた皆様も何故か涙を流していた。
「いかん……最近は涙腺が弱くて困る……」
「うっ……くそっ、こんなん見せられたら泣くしかねーよ!」
中島社長も社員たちも揃って涙を流していた。量的にタイム様とローズマリー様の倍は出ている。取り敢えず私が声をだそうとしたまさにその時だった。残り一名がようやく姿を現したのは。
「おうおう、なんだこの辛気臭ェ空気は! 今日はあのクズメカの目出度え日なんだろ! お前ら飲め飲め! せっかくこのゲン様が上等な酒持ってきてやったんだ! 飲める奴ぁ飲め!」
◇◇◇
「メイレン! フェイオン! これ、ボクからプレゼントだよ!」
「あら、可愛いじゃない!」
「ほう、なかなか器用なものだな」
「へへっ、すごいでしょー? 二人はお付き合いしてるんだよねっ! ラブラブな二人にはお揃いの指輪が似合うってバトル好き双子が言ってたのを思い出して作ったんだ!」
マーグメルが滅んだあと、クーンたちの一族は、安住の地を求めて各地へと旅立った。クーンはといえば「メイレンがまた変なものに取り付かれないようにボクが見張ってるよ!」と半ば強引に私とフェイオンに付いてきた。フェイオンはまた二人でやり直したいと言ってたけど、私にはこの申し出は正直有り難かった。またいつ、自分が足を踏み外すのか分からなくて、怖かったから。
「ありがとー! それにね! 今日は感謝の日なんだってね! ボク、二人にはとってもと~っても感謝してるから!」
じゃ、指輪ちゃんと着けてね! と念を押して彼は去っていった。どうやら、各地に散らばった仲間たちにも渡しにいくらしい。残されたのは、一組の草花で作られた可愛いペアリングと私たち。
「……メイレン、今はこれで我慢してくれるか?」
「え、フェイオンそれって」
そう言うやいなや彼は私の左手を取ると薬指に草花の指輪を嵌め、私の手の甲にキスをした。
◇◇◇
――皆様、いつもお世話になってるあの人やこの人に感謝の言葉は伝えられたでしょうか!?
えー、ここでおハガキを一通紹介したいと思います!
ラジオネーム『元・正義のヒーローさん』から!
『今、アンタが何処にいるかわからないから、この公共の電波を使って感謝の言葉を言いたいと思う。アンタがこのラジオを聞いてくれることを祈るしかないんだけど。ホーク、ありがとう。アンタのお陰でオレは道を踏み外すことなく、母さんと妹を助けることが出来たから。』
……だそうです! ホークさん、聞いていらっしゃいますか? 元・正義のヒーローさんの想いが届いていると信じていますよ~! 次はメールを紹介しますね――
「――ああ、確かに届いたぞ」
何処かのシップ発着場。恰幅のいい髭を蓄えた壮年男性が、足元に置いたラジオに向かって微笑んだ。
END.