サガフロ
【サガフロ】花言葉を知らない君がくれた花【ゲンさんとT260G】
草臥れたスイングドアを開ければ、薄暗い中で陽気な音楽を奏でる音楽集団が目に入る。ここ数ヶ月であちこちのリージョンが徐々に変わり始めているが、ここは変わっていなくて少しだけ安心してしまった。
「……」
だが、今日ここにいる客はどいつもこいつも知らない奴らばかりだ。気のつえーねーちゃんもいなけりゃついて回ってた犬っ子もいねえ。陽気な楽器奏でる兄ちゃんも居ねえ。
――そして何より、あのポンコツメカが居ねえ。
当たり前だ。メイレンは一度は別れた恋人だった男とヨリを戻し、クーンと一緒に暮らしているという。リュートはトリニティ主体の顧問会議とやらに出席するのをのらりくらりと躱してあちこち逃げ回っていると本人から聞いた。そしてT260Gは、あのガキんちょたちの待つボロへと帰ったのだから。
「何やってんだろうな、俺は」
そして俺は、いろんな奴の旅を見届けてきた。どいつもこいつも危なっかしくて、見てられたもんじゃなかった。それでも、どこか放っておけなくて、最後まで付き合っていた。それが終わったあと、もう一度様々なリージョンを渡り歩き――気づいたらこのスクラップの酒場に来ていた。
「……は」
適当に酒を瓶で注文し、コップへ注ぎ一気に煽る。帰る場所は、ないわけではない。だが、たった一人あの場所へ帰り何ができるというのだろうか。そう思うと足を運ぶのを躊躇ってしまった。
そしてもう一杯飲もうとして瓶を掴もうとしたその瞬間、俺の手に、メカの手が重なった
「――ゲン様。あまり飲んではお身体に障ります」
メカ特有の合成音声。けれどそれはこの耳によく聞き馴染んだもの。
「……なんだ、お前。ボロに帰ったんじゃなかったのか」
「もちろん帰りました。帰った後で、貴方様に渡したいものがあって、方々探したのです」
視線を上げれば、有り合わせの部品で作ったポンコツメカ――T260Gがそこにいた。反対側の手に、花束なんぞを携えて。
「どうぞこれを」
そう言って俺に花束を差し出した。丁寧に包まれたそれは、鮮やかな黄色の――山吹と呼ばれる花だった。春に咲く野山を彩る山吹色は、生まれ故郷でも、ワカツ城でもよく見かけたものだ。けれど、もう二度と見ることは叶わないと思っていたその花が、まさか埃と鉄クズまみれのこの場所で見ることができるなど。
「……これは、山吹か」
「はい。ワカツ産の花だと聞いて、どうしてもゲン様に見せたい、渡したいと思ったのです」
俺を真っ直ぐ見つめながらポンコツメカは言う。俺はその花を、そっと受け取った。
「……山吹の 立ちよそひたる 山清水 汲みに行かめど 道の知らなく」
「……?」
俺の言葉に、ポンコツメカの目の部分が忙しなく明滅した。理解の範疇を超えた時、こういう反応をよくしていたなと思い出し、説明してやる。
「和歌、もしくは短歌という、詩みたいなもんだ。これは、姉を亡くした弟が、もう一度姉に会いたいと思って詠んだものでな」
「では、ゲン様にも会いたい方がいらっしゃるのですね」
俺の説明を聞いて、コイツはすぐに理解した。流石はメカだ。頭がキレる。そのおかげで、俺は素直に、思ったままのことをようやく口にすることができたのだった。
「……ああ、いる。大勢な。もう二度と会えない奴らばっかりだ」
俺は受け取った花束をテーブルにそっと置き、瓶からグラスへ酒を注いで再び一気に煽った。
死んだ人間には会うことは出来ない。そうと分かっていながら、思うことはやめられない。もう一度会いたい、と。
「ゲン様。私は超古代文明と呼ばれる時代から今日に至るまで活動しています」
「……あ?」
急に何を言い出すのだこのポンコツは。思わず間抜けな声が出てしまった。だが、俺のことなんざ知ったこっちゃねえと言わんばかりに、なおも淡々と言葉を続ける。
「我々メカは、コアさえ壊れなければ人間の皆様が仰る永遠とも言える時間を活動し続けられます。ゆえに私、制式形式番号T260認識ID7074-8782-1099はゲン様、貴方より先に活動停止は決していたしません。約束しましょう」
「……クッ」
「ゲン様?」
「はっはっはっは! 急に何言い出すかと思えば、面白いこともいえるようになったじゃねえか!」
どうやらコイツなりに考えて、俺に発破をかけてくれたらしい。それが嬉しかった。
「? 私は事実を述べたまでです」
「ああ、そうだな。それにお前は強い。絶対に俺が死ぬまで壊れねえだろうさ」
「はい」
「……ありがとな、T260G」
「はい」
「よし、いい加減に帰るとするか。あいつらの墓をちゃんと作ってやらなきゃなんねえし」
そして俺は立ち上がる。こんなところでしみったれていたらきっとあいつらに笑われるだろう。
「ゲン様」
「お前の帰るところはあのガキんちょのところだろ? 俺は俺のやるべきことをやるよ。花、ありがとな」
「『ここで帰れって言われて、ほいほい帰る奴はいないんだ』と仰ったのはゲン様でしたね。今ようやく理解いたしました」
「は?」
「ゲン様に花を届けに行く際に、タイム隊長とローズマリー総指揮官より任務を受けています。『ゲンさんが困っていたら助けてあげて』と」
「いや、俺は」
「ゲン様、貴方は私と何も関係がなかった。任務を受けたわけではないのに、私の旅にずっと付き添ってくださった。その理由を私はずっと考えていました。――こういうことだったのですね」
「おい、どうしたポンコツ。おい、落ち着け」
「ゲン様、私はいつでも冷静です。さあ、参りましょう。――あ、すみません、釣り銭は結構ですのでお代置いておきます」
「いやどう見てもお前暴走してるだろ!?」
あれよあれよと俺は暴走しているこのメカに手を引っ張られて店を後にした。もちろん、もらった花はしっかりと持って。
***
俺がT260Gと共にワカツへ向かったのち、ワカツの復興支援がトリニティ側から出ることが決まった。トリニティ側、主に元第七執政官の陰謀の他、闇に葬られていた部分が公になったことで、俺のように外のリージョンへ脱出していた者たちが戻り、やがてワカツの惨状を憂いだ者たちが支援の手を差し伸べたのだった。
そして、なぜかポンコツメカを含めかつて旅に付き添っていた者たちが代わるがわる手伝いにやって来るようになった。
「……旅の礼がしたかった。ずっと」
マジックキングダムの術士は穏やかに微笑みながら言った。
「剣の腕を鍛えてくれてありがとう」
一見少年にも見える少女は笑みを浮かべて言う。
「あんたの剣に、何度も助けられた」
復讐の炎を燃やしていた青年は、屈託無く笑った。
「ゲンさんいなかったら、きっと最初の指輪が手に入らなかった!」
モンスターの少年は相変わらず目を輝かせて言う。
「最初は頼りになるのかって思ったけど、色々助けてもらったなって」
恋人の仇を追い続けていた美女は、心から笑っているように見えた。
「今まで散々世話になったからさ、今度はこっちから助けたいって。俺もみんなも思ってたんだ」
陽気な青年は、相変わらずニコニコと気の抜ける笑顔で言う。
「あんたもアイツらのことなんだかんだ手助けしてたって聞いたし、俺が事件に首突っ込むと大概あんた一緒にいたなって思ってさ」
IRPO隊員の男が、陽気な青年の言葉に対しうんうんと頷きながら同意する。俺が関わった者たちがここに来るようになったのは、コイツらの仕業らしい。……全く、余計なことをする。
「リュート様、ヒューズ様、皆様に声を掛けて下さりありがとうございます。私一人では到底出来ませんでした」
「なーに、これくらい。いいってことさ~!」
「ま、アイツらが元気にやってるかどうか俺も気になってたしな」
「お前らな……ったく、こき使ってやるから覚悟しろ! まだまだやることは山ほどあるんだからな!」
俺がそう叫べば、その場にいる全員がどっと笑った。
滅ぼされてからずっとワカツに漂っていた重苦しい霧がようやく晴れ、他のリージョンと同じく青空も見えるようになった。だが、まだあちこちに戦いの傷跡は残っている。
けれど、大地には草花が芽吹き、時期になれば色とりどりの花が咲くようになった。
今は春。暖かな陽気の中、鮮やかな黄色のあの花は今日も風に揺られている。
山吹の花言葉…「気品」「崇高」「金運」「待ちかねる」
「山吹の立ちよそひたる山清水くみに行かめど道の知らなく」
万葉集巻2-158 高市皇子
「花言葉を知らない君がくれた花」
サイト・行き場のない言葉
https://gamecn.sakura.ne.jp より
草臥れたスイングドアを開ければ、薄暗い中で陽気な音楽を奏でる音楽集団が目に入る。ここ数ヶ月であちこちのリージョンが徐々に変わり始めているが、ここは変わっていなくて少しだけ安心してしまった。
「……」
だが、今日ここにいる客はどいつもこいつも知らない奴らばかりだ。気のつえーねーちゃんもいなけりゃついて回ってた犬っ子もいねえ。陽気な楽器奏でる兄ちゃんも居ねえ。
――そして何より、あのポンコツメカが居ねえ。
当たり前だ。メイレンは一度は別れた恋人だった男とヨリを戻し、クーンと一緒に暮らしているという。リュートはトリニティ主体の顧問会議とやらに出席するのをのらりくらりと躱してあちこち逃げ回っていると本人から聞いた。そしてT260Gは、あのガキんちょたちの待つボロへと帰ったのだから。
「何やってんだろうな、俺は」
そして俺は、いろんな奴の旅を見届けてきた。どいつもこいつも危なっかしくて、見てられたもんじゃなかった。それでも、どこか放っておけなくて、最後まで付き合っていた。それが終わったあと、もう一度様々なリージョンを渡り歩き――気づいたらこのスクラップの酒場に来ていた。
「……は」
適当に酒を瓶で注文し、コップへ注ぎ一気に煽る。帰る場所は、ないわけではない。だが、たった一人あの場所へ帰り何ができるというのだろうか。そう思うと足を運ぶのを躊躇ってしまった。
そしてもう一杯飲もうとして瓶を掴もうとしたその瞬間、俺の手に、メカの手が重なった
「――ゲン様。あまり飲んではお身体に障ります」
メカ特有の合成音声。けれどそれはこの耳によく聞き馴染んだもの。
「……なんだ、お前。ボロに帰ったんじゃなかったのか」
「もちろん帰りました。帰った後で、貴方様に渡したいものがあって、方々探したのです」
視線を上げれば、有り合わせの部品で作ったポンコツメカ――T260Gがそこにいた。反対側の手に、花束なんぞを携えて。
「どうぞこれを」
そう言って俺に花束を差し出した。丁寧に包まれたそれは、鮮やかな黄色の――山吹と呼ばれる花だった。春に咲く野山を彩る山吹色は、生まれ故郷でも、ワカツ城でもよく見かけたものだ。けれど、もう二度と見ることは叶わないと思っていたその花が、まさか埃と鉄クズまみれのこの場所で見ることができるなど。
「……これは、山吹か」
「はい。ワカツ産の花だと聞いて、どうしてもゲン様に見せたい、渡したいと思ったのです」
俺を真っ直ぐ見つめながらポンコツメカは言う。俺はその花を、そっと受け取った。
「……山吹の 立ちよそひたる 山清水 汲みに行かめど 道の知らなく」
「……?」
俺の言葉に、ポンコツメカの目の部分が忙しなく明滅した。理解の範疇を超えた時、こういう反応をよくしていたなと思い出し、説明してやる。
「和歌、もしくは短歌という、詩みたいなもんだ。これは、姉を亡くした弟が、もう一度姉に会いたいと思って詠んだものでな」
「では、ゲン様にも会いたい方がいらっしゃるのですね」
俺の説明を聞いて、コイツはすぐに理解した。流石はメカだ。頭がキレる。そのおかげで、俺は素直に、思ったままのことをようやく口にすることができたのだった。
「……ああ、いる。大勢な。もう二度と会えない奴らばっかりだ」
俺は受け取った花束をテーブルにそっと置き、瓶からグラスへ酒を注いで再び一気に煽った。
死んだ人間には会うことは出来ない。そうと分かっていながら、思うことはやめられない。もう一度会いたい、と。
「ゲン様。私は超古代文明と呼ばれる時代から今日に至るまで活動しています」
「……あ?」
急に何を言い出すのだこのポンコツは。思わず間抜けな声が出てしまった。だが、俺のことなんざ知ったこっちゃねえと言わんばかりに、なおも淡々と言葉を続ける。
「我々メカは、コアさえ壊れなければ人間の皆様が仰る永遠とも言える時間を活動し続けられます。ゆえに私、制式形式番号T260認識ID7074-8782-1099はゲン様、貴方より先に活動停止は決していたしません。約束しましょう」
「……クッ」
「ゲン様?」
「はっはっはっは! 急に何言い出すかと思えば、面白いこともいえるようになったじゃねえか!」
どうやらコイツなりに考えて、俺に発破をかけてくれたらしい。それが嬉しかった。
「? 私は事実を述べたまでです」
「ああ、そうだな。それにお前は強い。絶対に俺が死ぬまで壊れねえだろうさ」
「はい」
「……ありがとな、T260G」
「はい」
「よし、いい加減に帰るとするか。あいつらの墓をちゃんと作ってやらなきゃなんねえし」
そして俺は立ち上がる。こんなところでしみったれていたらきっとあいつらに笑われるだろう。
「ゲン様」
「お前の帰るところはあのガキんちょのところだろ? 俺は俺のやるべきことをやるよ。花、ありがとな」
「『ここで帰れって言われて、ほいほい帰る奴はいないんだ』と仰ったのはゲン様でしたね。今ようやく理解いたしました」
「は?」
「ゲン様に花を届けに行く際に、タイム隊長とローズマリー総指揮官より任務を受けています。『ゲンさんが困っていたら助けてあげて』と」
「いや、俺は」
「ゲン様、貴方は私と何も関係がなかった。任務を受けたわけではないのに、私の旅にずっと付き添ってくださった。その理由を私はずっと考えていました。――こういうことだったのですね」
「おい、どうしたポンコツ。おい、落ち着け」
「ゲン様、私はいつでも冷静です。さあ、参りましょう。――あ、すみません、釣り銭は結構ですのでお代置いておきます」
「いやどう見てもお前暴走してるだろ!?」
あれよあれよと俺は暴走しているこのメカに手を引っ張られて店を後にした。もちろん、もらった花はしっかりと持って。
***
俺がT260Gと共にワカツへ向かったのち、ワカツの復興支援がトリニティ側から出ることが決まった。トリニティ側、主に元第七執政官の陰謀の他、闇に葬られていた部分が公になったことで、俺のように外のリージョンへ脱出していた者たちが戻り、やがてワカツの惨状を憂いだ者たちが支援の手を差し伸べたのだった。
そして、なぜかポンコツメカを含めかつて旅に付き添っていた者たちが代わるがわる手伝いにやって来るようになった。
「……旅の礼がしたかった。ずっと」
マジックキングダムの術士は穏やかに微笑みながら言った。
「剣の腕を鍛えてくれてありがとう」
一見少年にも見える少女は笑みを浮かべて言う。
「あんたの剣に、何度も助けられた」
復讐の炎を燃やしていた青年は、屈託無く笑った。
「ゲンさんいなかったら、きっと最初の指輪が手に入らなかった!」
モンスターの少年は相変わらず目を輝かせて言う。
「最初は頼りになるのかって思ったけど、色々助けてもらったなって」
恋人の仇を追い続けていた美女は、心から笑っているように見えた。
「今まで散々世話になったからさ、今度はこっちから助けたいって。俺もみんなも思ってたんだ」
陽気な青年は、相変わらずニコニコと気の抜ける笑顔で言う。
「あんたもアイツらのことなんだかんだ手助けしてたって聞いたし、俺が事件に首突っ込むと大概あんた一緒にいたなって思ってさ」
IRPO隊員の男が、陽気な青年の言葉に対しうんうんと頷きながら同意する。俺が関わった者たちがここに来るようになったのは、コイツらの仕業らしい。……全く、余計なことをする。
「リュート様、ヒューズ様、皆様に声を掛けて下さりありがとうございます。私一人では到底出来ませんでした」
「なーに、これくらい。いいってことさ~!」
「ま、アイツらが元気にやってるかどうか俺も気になってたしな」
「お前らな……ったく、こき使ってやるから覚悟しろ! まだまだやることは山ほどあるんだからな!」
俺がそう叫べば、その場にいる全員がどっと笑った。
滅ぼされてからずっとワカツに漂っていた重苦しい霧がようやく晴れ、他のリージョンと同じく青空も見えるようになった。だが、まだあちこちに戦いの傷跡は残っている。
けれど、大地には草花が芽吹き、時期になれば色とりどりの花が咲くようになった。
今は春。暖かな陽気の中、鮮やかな黄色のあの花は今日も風に揺られている。
山吹の花言葉…「気品」「崇高」「金運」「待ちかねる」
「山吹の立ちよそひたる山清水くみに行かめど道の知らなく」
万葉集巻2-158 高市皇子
「花言葉を知らない君がくれた花」
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