サガフロ

「そういえば、白薔薇のその薔薇って、白薔薇の血で青くなったりするの?」
「えっ? ……考えたこともありませんでしたわ、アセルス様」
 針の城で目覚めて数日。アセルスは白薔薇姫の髪を彩る薔薇のことがふと気になって尋ねてみた。けれど、白薔薇姫自身も言われて気付いたようだった。顔に手を当てて、目を丸くし驚いている。
「そっか〜。でもいきなり白い薔薇の色が変わったら白薔薇じゃなくなっちゃうよね」
「ええ。私はオルロワージュ様の寵姫となった日、白薔薇と新たな名を頂きましたから」
「えっ、じゃあ他の姫たちもそうなの?」
「はい。私たちは主上に見初められ、受け入れた瞬間から人として生を終え、妖魔として、主上の寵姫として生まれ変わるのです」
「……妖魔って、よくわからない……」
 白薔薇姫の説明を聞いて、アセルスがうんうん唸りながら頭を抱えた。そんなアセルスを見た白薔薇は笑みを溢しつつ、己が寵姫になった頃に妖魔社会の有り様を聞いて戸惑ったことを思い出す。もう遥か昔の出来事だと言うのに。
「(……ずっと棺で眠り続けていたせいでしょうか? それとも、オルロワージュ様の血を頂いたアセルス様だから?)」
 あの方の魅了の力を受け入れた私。
 あの方が白い薔薇が似合うと仰ったからこの名前になった私。
 ——もしも、もしも違っていたら?
 ありもしない想像に、白薔薇姫はハッとなり、頭を振る。それに合わせて、薔薇の花弁が数枚、ひらひらと舞い落ちた。
「——白薔薇? 大丈夫? どこか痛いの?」
「すみません、アセルス様。なんでもありませんわ」
「ごめん。私が変な質問したから?」
「変だなんて、そんな事はありませんわ。ですが、もしも違う薔薇の色だったら……と少し考えてしまいました。でも、他の色の薔薇を纏う私が想像できなくて」
「そうだね。白薔薇が他の色の薔薇を飾ってるのは、ちょっと思いつかないや」
 言いながら、白薔薇姫とアセルスは顔を見合わせ笑い合った。
 この時の二人はまだ知らない。針の城から文字通り飛び出し、追われる身となるその先を。


「白薔薇は染まって、何色になっていくのでしょうか(私にはまだわからないけど)」
空耳お題bot@sora_odai_bot より
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