前世

  • 迷子の「子ぎつね」。お父さんとお母さんとはぐれて独りぼっち。寂しいよ。お腹空いた…寒い。怖いよ。助けて…

  • 傷ついた「烏」はもう飛べない。一羽取り残された。空腹と寒さで、そろそろ動けなくなってきた。もう長くあるまい…

  • 銀夜

    夢を見ていた。
    あれは前世だった

  • 銀浄

    因果だな

  • 銀夜

    烏さんも同じ夢を見たの?

  • 銀浄

    いや、違う。
    おそらく銀夜どのの夢が、私の思考に流れてきたのだと思う。

  • 銀浄

    確信は無いが、そなたの妖力に関係しているのでは無かろうか

  • 銀夜

    僕たちが出会ったのはそういう訳だったの…?

  • 銀浄

    こればかりは、知る由も無い

  • 銀夜

    僕は、怖かった。
    独りぼっちで寂しくて、冷たくて…

  • 銀浄

    私もきっと同じだったのだろう。
    だから、そなたと共鳴した。

  • 銀夜

    哀れな迷子に、同情したの?
    だから優しいの?

  • 銀浄

    そなたこそ、私が嫌いになったか?
    ならば、この家を出て行って良いのだぞ

  • 銀浄

    “聖域”は広大だ…人間では無い限り、拒絶はされぬ
    ここでなくても生きてゆける

  • 銀夜

    そんな…僕は…

  • 銀浄

    銀夜どのの好きにして良いぞ

  • 銀浄

    私はそなたの意志に従う。
    無理に引き止めたりせぬ

  • 銀夜

    烏さん…怒ってる?

  • 銀浄

    そうだな。
    たとえどんな因果でも、過去は過去。

  • 銀浄

    過ぎたことにこだわってどうする?

  • 銀夜

  • 銀浄

    今はお互い好き合っている。
    それで良いでは無いか?

  • 銀夜

    …怖いんだよ
    また、あんな気持ちは味わいたくない

  • 銀夜

    今、とても幸せだからこそ、失いたくない

  • 銀夜

    もう二度と独りになんか、なりたくない

  • 銀浄

    私がいる限り、「独り」になることはあるまい

  • 銀浄

    ただ、何事にも「永遠」はない

  • 銀浄

    いつか終わりがやってくる

  • 銀夜

    だから…不安で不安でたまらないんだ

  • 銀浄

    先のことなど誰にもわからぬ
    憂えても仕方なかろう

  • 銀夜

    僕は、どうすれば…
    前世なんて、思い出したくなかった

  • 銀浄

    そなたが妖力を制するうえで、避けられないのかもしれぬ

  • 銀浄

    これからも、乗り越えなければならぬことがあるだろう。
    一歩進んだと考えてはどうだ?

  • 銀夜

    烏さん、僕…

  • 銀浄

    やれやれ…何を涙ぐんでいる?

  • 銀浄

    仕方ない…

  • 烏天狗は、銀狐の腕を掴むとやや強引に引き寄せた。そのまま口づける。

  • 銀夜

    んんっ…ふぁっ…。か、烏さん?

  • 銀浄

    今は、私のことだけ考えろ…

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