最遊記

静寂だけが、辺りを支配している。

窓から見える満月が、より一層部屋の中の闇を際立てている。

「…なんで…でしょうね…」

かつて。罪を犯し血に濡れた自分に、神は死を与えてはくれなかった。与えられたのは、それとは真逆の生だった。

最初、それは自分にとってこの上ない苦痛だった。手錠をかけられた時、自分はこれから裁かれ「死」を与えられるのだと期待した。だからこそ、下された審判は死罪以上の惨いものだったのだ。

でも、暫く経って。新しい名前と目とを与えられて。生きてゆく事も、悪くはないと思えるようになった。

沢山の死を見て、死に魅せられて、自らも死を望んでいたけれど、死ぬことが怖いと思うようになった。

そう思うようになったから今の自分がいると、ずっとそう思っていたのに…。

「…全部、貴方の所為ですよ…」

握り締めた手を抱え込むように、身体を丸める。手には、何も描かれていないまっさらな麻雀牌が握られている。

否、描かれていないのではない。消えたのだ。

元は「罪」と描かれていた麻雀牌。その字は己を再び、過去の疵へと誘った。

でも彼の者を引き裂き、過去を清算したと同時に、描かれていた字は消えたのだ。消えてしまったのだ。

『消えなくて良かったのに…』

そう声に出して呟いて、ゾッとした。自分の耳で聞き、言葉を頭に入れたことで、己の中にある真の思いを知ったのだ。



…本当は、ずっと追いかけていた。



誰よりも、嫌いだと思っていた彼の者を。

己を妖怪に変えた者でなくては、彼でなくては、満たされなかった。そしてそんな自分でなくては、許せなかった。

誰より死を欲したのも、本当はその腕で、全てを奪いあげてほしかったから。

最愛の人を失い、生きる希望すら無くした自分に、死という希望を与えてくれた。たとえ死を与えられなかったとしても、自分に興味を持った彼の者が、自分を飼い殺してくれるのならば救われた。

しかし自分は二度彼を引き裂き、この手で殺した。

今の自分はまるで、鳥籠を欲している狂った小鳥だった。

──夜の静寂に包まれた部屋で、己の規則的な鼓動だけが響いている。とても卑しい、自分の鼓動だけが。

目を閉じ、麻雀牌を握り締めたまま耳を塞
ぐ。心の中で、天罰を数えながら。

「猪悟能」

懐かしい声が、己の名前を呼んだ。

「いつまで、その牌を握り締めているつもりですか?」

冷たい手が、麻雀牌を握り締めた手に触れる。優しくそっと、まるで誘うかのように。

「貴方が欲しいのは、コッチでしょう?」

そう言われて差し出された、「籠」と描かれた麻雀牌。

「貴方が望むのなら、我は貴方をいつでも連れて行きますよ?」

後ろから囁かれ、耳の後ろに口付けを贈られる。

冷たいその唇の感触に、ぞくりと背筋を何かが駆け抜けた。

恐怖ではない──快楽。

「連れて…行って、ください…」

自分と、貴方しかいない世界へ。

「猪悟能──貴方がそれを望むなら」

そうして与えられた口付けは、冷たくも温かい。

こうして自分は、闇の中へと落ちていった──……。





【嘘を抱いた華】





貴方が望むなら、我は貴方を咲かせてあげましょう。

──闇という、籠の中で。

[END]


まさかの清一色×八戒。本命CPですが、何か?需要?何それ美味しいの?←

実は清一色×八戒こそが公式CPだと思ったり…。だって公式であんなの見せられたら、そう思っちゃうわよ…。公式夫婦も美味しいけれど、こんな公式CPでも良いじゃない!

しかし…私は清一色に夢見過ぎのようですね。何をどう間違ったか、三蔵以上に八戒を愛する一色の図を学パロ且つ担任×生徒で受信してしまいました。しかもエロ。何てこと\(^P^)/
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