花に嵐の喩へもあれど

八戒が三蔵にそう尋ねた時、近くの部屋から子ども達の楽しそうな声が聞こえてきた。

「じゃあ、次いくね!『天の原 ふりさけ見れば』」
「はい!」
「うわ、速っ!」

声の雰囲気からして、多分子ども達はカルタ遊びをしているのだろう。

でも、どこかで聞いたことのあるような…。

「百人一首か」
「そうみたいですね」

思い出した。これは百人一首の中の、望郷の思いを詠んだ歌だ。帰国出来ないままに留学先で亡くなったという詠い手。故郷への思いも、きっと強かったに違いない。

「じゃあ次ね!『かくとだに 』」

途端、八戒の心臓が跳ね上がる。あの歌だ。

「えっ、ちょっ、もう一回詠んで!?」

見つからないのか何なのか。上の句をもう一度詠んでくれと、一人の子どもが焦り混じりに言った。

「もー、ちゃんと聞いててよ?『かくとだに えやはいぶきの さしも草』」
「あー、何だっけそれ!?」
「うわっ、思い出せない!」

あの場に自分が居たならば、すぐに下の句の札を取っているだろう。その上の句に続くのは…

(さしも──)
「『さしも知らじな 燃ゆる思ひを』」

言ったのは、八戒ではない。三蔵だった。

【NEXT→夜来様】
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