花に嵐の喩へもあれど
─かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを─
八戒はこの歌を再度心に留めると、静かに本を閉じた。
かつて悟浄と共に暮らしていた頃、町の書店の主人より譲って貰った本。桃源郷よりも遥か東にある島国で作られたというこの本には、雅な文体で綴られた和歌が多く収められていた。
中でも八戒のお気に入りはこの歌だった。
歌意はこうだ。私があなたを恋していることの深さは、この様だとだけでも口に出して言うことが出来ないので、それほどの思いであるともあなたはご存知ありますまい、私の──
(僕の燃えるような、想いを…)
まるでこの歌は己自身のことのようだ。きっとこの歌を詠んだ者も、激しい思慕を胸に募らせていたに違いない。
それは八戒とて同じこと。八戒の胸中にも、言うことの出来ない激しい思慕がある。
ゆっくりと確実に、自身を侵していった激しい恋。でも、きっとあの月のような煌めきの人は、そのことに気付いてはいないだろう。
「はっかーい」
ガチャッとドアを開け、悟空が部屋へと入って来た。
「悟空、どうかしましたか?」
【NEXT→夜来様】
八戒はこの歌を再度心に留めると、静かに本を閉じた。
かつて悟浄と共に暮らしていた頃、町の書店の主人より譲って貰った本。桃源郷よりも遥か東にある島国で作られたというこの本には、雅な文体で綴られた和歌が多く収められていた。
中でも八戒のお気に入りはこの歌だった。
歌意はこうだ。私があなたを恋していることの深さは、この様だとだけでも口に出して言うことが出来ないので、それほどの思いであるともあなたはご存知ありますまい、私の──
(僕の燃えるような、想いを…)
まるでこの歌は己自身のことのようだ。きっとこの歌を詠んだ者も、激しい思慕を胸に募らせていたに違いない。
それは八戒とて同じこと。八戒の胸中にも、言うことの出来ない激しい思慕がある。
ゆっくりと確実に、自身を侵していった激しい恋。でも、きっとあの月のような煌めきの人は、そのことに気付いてはいないだろう。
「はっかーい」
ガチャッとドアを開け、悟空が部屋へと入って来た。
「悟空、どうかしましたか?」
【NEXT→夜来様】
