折原さん家の愉快な日常

自分に宛行われている黒いノートパソコンの前に座り、俺は調べた情報を打ち込んでいく。

「黒沼建築会社のバックには、最近千葉で力をつけてきた永江組がいる。永江組は数年前に出来たばかりの組だけども、大阪の裏を握る組の一つ、倉木組から杯を受けて飛躍した組。だから粟楠会も警戒してるね」

コーヒーを啜りながら父さんがそんな事を言ってくる。その顔は家で見せるふざけたような表情と違い、正に情報屋としての実力が見えるような顔だ。

「だけど永江組は古くから千葉にある名瀬組から煙たがられてる。もしかしたら全面抗争、なんてことも有り得そうじゃない?」
「流石は雄也、分かってるじゃん」
「伊達に父さんの手伝いしてるワケじゃないからね」

父さんの言葉に答えると同時、パソコンの認証音が鳴り響いた。

「父さん、調べたデータはホストコンピューターに入ったよ」
「ん、ありがとう。雄也は本当に作業が早いよね。確認するよ」
「あら、もう臨也から頼まれた作業は終わったの?」

声がして後ろを振り向くと、そこには大量の書類を抱えた矢霧さんがいた。

「えっと…まさかそれ全部…?」
「全部じゃないわ。まだこれと同じ束が二つくらいあるわ」
「父さんどんだけ仕事溜めてんの!?矢霧さん、手伝います!」

父さんの溜めに溜めていた事務処理を矢霧さんと手分けして片付けることにした俺は、矢霧さんから山積みになった書類の束を幾つか受け取った。

「えっとフォルダは…コレか」

事務用のフォルダを呼び出し、データを打ち込んでいく。内容は父さんから頼まれた物より簡単とは言え、少しでも間違えれば後々に大きな問題となって返ってくる。

その点を加味して考えると、事務処理もなかなか侮れない。

「うん、頼んだ内容は入ってるし、補足としてのデータも十分。合格だよ雄也」
「ありがとう、父さん」

書類の文字列と格闘しながら俺は父さんに返した。

「あれ?雄也まで事務処理してるの?」
「えぇ、どっかのサボり魔のせいでね」
「ちょっ、波絵さんの言葉イタい」

父さんの声から、今の父さんの顔は引きつっているだろうことは安易に想像できた。
まぁ矢霧さんの言うとおりだし、仕方ないと言えば仕方ないよな。

「アレ?雄也も事務処理してるの?」
「あ、六臂さん」

父さんと同じ声。だけど父さんよりも柔らかい響きを持った声に顔を上げれば、そこにはやっぱり六臂さんがいた。家の中だからからか、赤いファーの付いたコートは脱いでいた。

「波絵さんの手伝い?」
「うん。だって、山のように書類が積み重なってんだ。俺も助手として此処に来てるんだし、事務処理も仕事の一環だよ」

書類と画面を照らし合わせ丁寧に、且つ迅速にデータを打ち込んでいく。

「雄也、ここのデータは纏めてコッチに持って行った方が後で見易いよ」

打ち込んでいる途中で、六臂さんがそんなアドバイスをくれた。

「じゃあ、この文字列もコッチに持って行った方がいいって事だよな?」
「そうそう。雄也は飲み込みが早いね」
「六臂さんのアドバイスが上手いんだよ」

実際に今までも、六臂さんは俺にたくさんのアドバイスをくれた。俺がこうして父さんの助手を務められるのは、六臂さんのおかげだ。

「…なんか妬けるんだけど。六臂と雄也の仲になんか妬けるんだけど?」
「妬いてる隙があるんなら仕事しなさい。第一、六臂は雄也にとっては第二の父親も同然でしょ?」

矢霧さんの言うとおりだ。小さい頃から、家族や友人たち以外で過ごすことの多かった人は六臂さんと月さんだった。

俺たち兄弟は、それぞれに仲の良い人たちがいる。臨静はサイケと津軽、静緒は日々とデリ、そして俺は六臂さんと月さん。まぁ、小さい頃の色々な事情が関わってのことなんだけど、それはまた別の話だ。

六臂さんと月さんは、俺にとって第二の父親と母親同然だ。小さい頃から、それこそ今までたくさん可愛がってくれた。まるで本当の子供のように。

「…波絵さん、俺と雄也どっちの味方なの?」
「全面的に雄也かしらね?私の話も分かってくれるし」
「だって、矢霧さんの弟に対する気持ちはよく分かりますから。よし、あがり」

一度データを保存して、書類を分類別にファイルする。

「矢霧さん。終わった分の書類、分類しますよ」
「ありがとう、助かるわ」

矢霧さんからも書類を受け取って、分類別にファイル。実はこういう作業は結構好きだったりする。月さんの影響だな、きっと。

「そういえば、六臂何しに来たのさ?」
「なんか言い方刺々しいんだけど…?つっきーがまだ帰ってこないから、何か知らないかと思って」
「えっ、まだ月さん帰ってきてないの!?」

父さんの声に、俺も思わず顔を上げた。

「臨也も知らない、てことは…」
「また迷子にでもなったかな…」

六臂さんと父さん、二人揃ってハァと溜め息を吐いた。かく言う俺も、思わず苦い笑みが零れた。

月さんはどういうワケか、道を覚えるのが苦手なようだ。地図を持ってっても、しょっちゅうのように迷子になる。まぁ月さんらしいと言えば月さんらしいけど…

(いい加減しっかりしてほしいなぁ…)

前に迷子になった時は確か、道端にいた猫を追っかけたからだったはず。幸い仕事終わりだったから良かったものの、これが仕事中だったら笑い物にならない。だけどそのあたりは月さんも分かってるし、大丈夫と言えば大丈夫そうだけど…。

「父さん、俺月さんのこと探してくるよ」
「いいよ、雄也。俺と六臂で探しに行くから」
「…その仕事量残して行ったら、矢霧さんがキレると思うんだけど。だって父さん、そのまま家に帰る気満々だろ」
「う…」

現に今、矢霧さんから物凄くどす黒いオーラが漂ってる。言ってしまえばキレる直前なワケで…。

「しかも矢霧さん経由で母さんにバレたら、もっとヤバいと思うよ?」
「ダメ!シズちゃんにバレたら俺殺される!!」

前に一度、矢霧さん経由で父さんが仕事を溜めまくっていたことが母さんにバレたことがある。その時の母さんの恐ろしいことはこの上なかった。あまりの恐ろしさに、兄弟全員で被害が及ぶ前に新羅さんの家に避難したぐらいだ。

次の日家に帰ったら、ものの見事にDVDデッキが消えていた。

「また家具が消えられたら、俺達兄弟超困るし。だから、俺と六臂さんで探してくるよ」
「うぅ…頼んだよ」

若干情けない父さんの声に、俺は苦笑いを浮かべた。




「じゃあ俺はコッチ探すから」
「分かった。見つかったら連絡するよ、六臂さん」
「うん、頼んだよ」

月さんを探しに事務所を出た後、俺と六臂さんは今日の月さんの配達先である池袋に向かった。…まぁ、俺からしてみれば「戻った」って表現が適切かもしれないけど。

ともかく池袋に着くと、俺と六臂さんは二手に分かれて月さんを探すことにした。

「一体どこに行ったのやら…」
「あれ、雄也じゃん!」

聞き慣れた声に後ろを振り向けば…

「優太!それにツッチン!!」

幼なじみの、優太とツッチンがいた。

川越優太は都議会議員を父親に、学者を母親に持つ秀才君だ。成績だって良いし、態度も真面目。模範生徒とも言えるぐらいの優等生だ。

ツッチンこと角田浩平は、商店街の八百屋さんの長男坊。下に弟が二人いて、そのために面倒見がすごくいい。だからクラスのみんなや仲間からは凄く慕われている。友達だって多い。

「ヤッホー!今日は臨也さんの手伝いじゃないの?」
「ちょっとね。父さんの手伝いで人探し中。優太とツッチンは何してるの?」
「俺は優太の荷物持ちに駆り出されたんだよ」
「だって、一人じゃ到底持ちきれないからさ。力仕事は浩平の得意分野じゃないか」

そう言って肩を叩く優太の手首には、アニメイトの青い袋が引っかかっていた。

「なに?今日も同人誌巡りしてるの?」
「当たり前じゃないか!!この前のイベントで新刊買い損ねたサークルさんとか結構あるんだから!!」

あそこのサークルさんの無配とか欲しかったのに!!と叫ぶ優太に、とりあえず落ち着けと声をかけた。

「でも、イザシズとか静雄受に囲まれることが出来たんでしょ?ならプラマイゼロなんじゃない?」
「まぁね。お仲間も出来たし。やっぱり静雄受は神なんだよ!」
「優太、一応ここ公道」

また場所を弁えずに叫んだ優太に、ここがどこだかを指摘する。優太は世間一般で言うところの腐男子で、父さんと母さんの絡みを筆頭に母さん総受が好きなようだ。自分で同人誌も描いてるし、商業アンソロにもしょっちゅうのように出ている。

「ところで、雄也。もしかして月島さん探してたりするか?」
「よく分かったね、ツッチン!そう、今月さん探してるんだよ」
「月島さんならさっき見かけたぜ?黒猫追っかけて、アコスの近くの公園に行ったぜ」
「マジで!?ありがとうツッチン!」

思いがけず月さんの情報を手に入れ、俺は優太とツッチンと別れてその場所に向かった。



「いたぁあぁっ!」

公園に着くなり、俺は思わずそう叫んだ。

ブランコに腰掛けて、ビックリしたような表情で月さんが俺を見ていた。膝の上には件の黒猫がいた。

「雄也…?どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないよ!月さん帰って来ないから、六臂さんと手分けして探しに来たんだよ!!」
「えっ!?あ、もうこんな時間!?」

腕時計を見た月さんが驚いて立ち上がった。その拍子に落ち掛けた黒猫は俺がキャッチした。

「しっかりしてくれよ!配達は終わってるの?」
「あ、はい。配達は滞りなく済んでます」
「なら良かった」
「つっきー、雄也!」
「六臂さん!」

聞こえた声に視線を公園の入り口に向けると、走ってきたのだろう六臂さんがいた。

「よくここが分かったね」
「途中で優太たちと会って、教えてもらったんだよ。それよりつっきー、帰って来ないから心配したよ?」
「あ、ご、ごめんなさい」

慌てて月さんが謝ると、俺の腕の中にいた黒猫がミャーと鳴いた。

その後猫を連れて帰るか否かで話し合いになったのは、言われなき事実だった。

[NEXT]

ニャンコ大好きつっきーが書きたかったのよ。ホントはもうすこーし、雄也とつっきーの関係が見えるようにしたかったなぁ…。まぁそれはまた今度と言うことで。

次の視点は臨静君です!!あの二人が出てきますね。派生組も出せたら出したい、なぁ…(弱気
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